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仲野太賀、“演技派”で“個性派”という2つの顔はどう獲得したのか 改名までのキャリアを振り返る

2019年07月09日 10:11  リアルサウンド

リアルサウンド

『町田くんの世界』(c)安藤ゆき/集英社 (c)2019 映画「町田くんの世界」製作委員会

 芸能人の改名というのはこれまでにも数多く例があることだが、かつてはあまりポジティブなイメージが伴わなかった。しかしながら最近では、2017年に事務所の移籍をきっかけに“真剣佑”から改名した新田真剣佑であったり、昨年“健太郎”が本名の伊藤健太郎へと改めたりと、心機一転さらなる飛躍の意味を込めたポジティブな改名が相次いでいる。もっとも、今回“太賀”が“仲野太賀”と名前を改めた例といい、ファーストネームだけの芸名から苗字を付け加えるというケースがある種のトレンドのようなものになりつつあるのかもと思ってしまうほどだ。


参考:岩田剛典、高畑充希、前田敦子、仲野太賀……“大人”の俳優だからこそハマった高校生役


 太賀の本名は“中野太賀”で、父は哀川翔や柳葉敏郎らを輩出した「劇男一世風靡」のメンバーだった俳優の中野英雄。いわゆる“二世俳優”ではありながらも、とりたててそれをアピールするわけでも、逆にひた隠しにするわけでもなく地道に一人の俳優としての出世街道を歩んできた印象を受ける。2006年にドラマデビューを果たし、翌年にスクリーンデビューを飾ると、さらにその翌年には『那須少年記』で映画初主演を務める。そんな彼の最初の転機となった作品は、おそらく2012年に公開された『桐島、部活やめるってよ』ではないだろうか。


 吉田大八監督がメガホンをとった同作は、当時既に若手実力派俳優として君臨していた神木隆之介や橋本愛に加え、東出昌大、山本美月、松岡茉優、鈴木伸之らのちに大ブレイクを果たす若手俳優たちが一挙に出演。彼らのブレイクを後押ししたのは、もちろんその年の日本アカデミー賞で最優秀作品賞を受賞するほど作品自体の評価が高く、長期にわたって作品への注目度が落ちなかったこともあるが、それ以上にワークショップの形式で行われたオーディションで大勢の中から厳選されたキャストたちだったからに他ならない。それぞれが持つ素質を最高レベルに発揮する環境が作り出され、名実ともに若手俳優を発掘する作品となったのだ。


 その中で、“桐島”が部活をやめたことで複雑な想いを抱くバレー部員を演じていた太賀。劇中でずば抜けて大きい役どころではないものの、原作では語りべも務める重要キャラクターの一人というだけあって、作品の軸となる部分に大きな作用をもたらしたことは言うまでもない。それをきっかけに出演作が増加していった太賀は、その後国際的評価の高い深田晃司監督と『ほとりの朔子』を皮切りに『淵に立つ』『海を駆ける』と連続してタッグを組み、演技派俳優としての一面を獲得していく。


 そして2016年に放送された日本テレビ系ドラマ『ゆとりですがなにか』で“ゆとり世代”のモンスター社員・山岸役を演じてコメディ演技への適応力の高さを証明したことも、彼の大きな転機といえるだろう。昨年には福田雄一監督の手がけた映画『50回目のファーストキス』で佐藤二朗とともに絶妙なアドリブ合戦を繰り広げ、同じく福田監督のテレビドラマ『今日から俺は!!』(日本テレビ系)で矢本悠馬とのコンビネーションで見事にそのコメディアンぶりを発揮していき、一気にその知名度を上げることにも成功。まぎれもなく“人気俳優”の一人としての地位を獲得したわけだ。


 彼の演技のおそるべきところは、その振り幅の広さにある。国際共同制作プロジェクトのオムニバス映画『十年 Ten Years Japan』や、吉田羊と親子を演じた『母さんがどんなに僕を嫌いでも』でシリアスな演技を見せたと思いきや、『きばいやんせ!私』で見せた正反対な表情。そして『町田くんの世界』では個性的なキャラクターたちの中でもひときわ笑いを誘う優秀なコメディレリーフとして、26歳ながら空まわりしがちな高校生役を熱演。しかも、どんな役を演じても“悪さ”がなく全面から人柄の良さが滲み出ている点があまりにも魅力的に映る。


 今回の改名によってまた新たな転換期を迎えたわけだが、あえて本名の“中野”ではなく“仲野”という表記にした理由にも、彼の人柄の良さを感じることができよう。俳優として財産となってきた“仲間”との出会いを糧にする。今後もYOSHIと菅田将暉共演の『タロウのバカ』が9月に、来年には乃木坂46を卒業したばかりの衛藤美彩とダブル主演を務める『静かな雨』が公開待機しており、さらに8月からは6年ぶり5作品目となるNHKの大河ドラマ『いだてん ~東京オリムピック噺(ばなし)~』への出演も決まっている。“演技派”で“個性派”という俳優としてふたつの顔を獲得した“太賀”から、“仲野太賀”へと進化することで、さらに磨きがかかるのか、それとも新たな一面を獲得するのか。今後も彼の演技から目が離せなくなりそうだ。 (文=久保田和馬)