MotoEの決勝レースでトップ争いを展開するトゥーリ、スミス、ディ・メリオ FIM Enel MotoE World Cupの第1戦が、7月5~7日、ドイツのザクセンリンクで幕を開けた。初のMotoEウイナーとなったのは、23歳のフィンランド人ライダー、ニキ・トゥーリ(アジョ・モータースポーツMotoE)。レースは3台による接戦のトップ争いが展開されたが、終盤に後方で起こったクラッシュにより赤旗終了という幕切れとなった。
MotoEとは、MotoGPをプロモートするドルナスポーツが立ち上げた電動バイクによるチャンピオンシップ。2019年シーズンは、MotoGPのヨーロッパラウンドと併催で4戦6レースが予定されている。マシンはイタリアの電動バイクメーカーであるエネルジカ・モーターカンパニーによるワンメイクマシン、エネルジカ・エゴ・コルセ、タイヤサプライヤーを担うのはミシュランだ。
MotoGPクラスやMoto2クラス、Moto3クラスにエントリーする12チームがMotoE参戦チームリストに名を連ね、参戦ライダーは18名である。
1990年代から2000年代にかけてロードレース世界選手権で活躍したセテ・ジベルナウ(ジョイン・コントラクト・ポンス40)のようなベテランライダーをはじめ、21歳のエクトル・ガルソ(テック3・Eレーシング)、女性ライダーのマリア・エレーラ(オープンバンク・アンヘル・ニエト・チーム)など様々なキャリアを持つライダーがエントリーする。
MotoEの開幕戦は本来、MotoGP第4戦スペインGPに設定されていた。しかし、シーズン開幕前の3月中旬にヘレス・サーキット‐アンヘル・ニエトで行われた公式テスト初日深夜、Eパドックで火災が発生。18台すべてのエゴ・コルセとほとんどの機材が焼失した。
この火災による損害は大きく、開催カレンダーが変更。MotoGP第9戦ドイツGPが、MotoEの開幕戦に設定しなおされたという経緯がある。
迎えた開幕戦のレースウイーク。木曜日にはメディア向けに予選方式などが説明されたプレスカンファレンスや、MotoE専用ピットが集まるEパドックに設けられたステージで、ライダーを迎えたトークショーなどが行われた。トークショーには多くのメディアやこの日からザクセンリンクに足を運んだファンが集まり、関心度の高さがうかがえた。
金曜日には午前中と午後にフリー走行1回目、2回目が実施。MotoEとして初の公式セッションが始まった。各30分に設定されたフリー走行では、午前中にロレンツォ・サバドーリ(トレンティーノ・グレシーニMotoE)、午後にジョシュ・フック(オクト・プラマックMotoE)がそれぞれ転倒。フリー走行2回目のフックの転倒では赤旗が提示された。サバドーリ、フックのどちらにも大きな怪我はなかった。
■予選Eポールではふたりのライダーにブラックフラッグが提示
MotoEの予選であるE-Pole(Eポール)は気温29度、路面温度44度のドライコンディションのものと、始まった。
まず、Eポールの方式について説明をしておこう。Eポールは、MotoGPクラス、Moto2クラス、Moto3クラスの予選とは方式が異なる。ドライコンディションで予選が行われる場合、各ライダーはそれぞれひとりずつウオームアップラップ1周、アタックラップ1周、スローダウンラップ1周を行い、アタックラップのタイムによってグリッドが決定される。
また、出走順は初日に行われたフリー走行1回目と2回目の総合結果に基づき、最下位のライダーから順にスタート。最後にアタックするのは、フリー走行総合トップのライダーというわけだ。なお、ウエットセッションの場合は、全ライダーが出走する12分間の予選に変更される。
MotoEの開幕戦、ドイツGPのEポールは初日の総合結果により、マリア・エレーラ(オープンバンク・アンヘル・ニエト・チーム)のアタックから始まり、マイク・ディ・メリオ(エストレージャ・ガルシア・0,0・マーク・VDS)が最後のアタックを行うこととなった。
電動バイクが奏でる独特の甲高い“キィーン”という音とともに、各ライダーが続々とアタックを敢行。コース上を走行するのはほぼ1台のマシンのみということもあり、その音は、実際に目の前で走る様子を見られる距離ならしっかりと耳に届くが、建物のなかに入ってしまえば静かな環境でなければ聞き取ることはできない程度のものだ。
11番目に出走した、2018年シーズンまでMotoGPクラスに参戦していたチャビエル・シメオン(アビンティア・エスポンソラーマ・レーシング)が1分28秒389をマーク。しかしシメオンの次にアタックしたエリック・グラナド(アビンティア・エスポンソラーマ・レーシング)がそのタイムを上回りトップに浮上する。
シメオン同様に2018年シーズンまでのMotoGPクラスのレギュラーライダーであり、2019年シーズンはアプリリアのテストライダーを担うブラッドリー・スミス(ワン・エナジー・レーシング)もアタックを行うが、トップタイムをマークすることはできない。
さらにフリー走行総合2番手のニキ・トゥーリ(アジョ・モータースポーツMotoE)が1分27秒456をマーク。週末を通じて初めて1分28秒の壁を突破してポールポジションを獲得。2018年シーズンにはMoto2に参戦したトゥーリが、記念すべきMotoE初のポールシッターとなった。2番手にはエクトル・ガルソ(テック3・Eレーシング)、3番手にはグラナドが入り、初開催のMotoEでフロントロウを獲得している。
タイムを見てみると、ドイツGPのMoto3クラスで日本人として久々のポールポジションを獲得した佐々木歩夢(Petronas Sprinta Racing)のタイムは、1分26秒135。内燃機関の250ccプロトタイプマシンと比較すると、電動バイクであるエゴ・コルセがマークしたベストタイムとは約1秒の差があることになる。
また、最初のアタックとなったエレーラは、コースインした際にピットレーンが閉まっていたタイミングだったため、ブラックフラッグが提示。さらに終盤にアタックを行ったイェスコ・ラフィン(ダイナボルト・インタクトGP)も同様の理由でブラックフラッグが提示されている。
■路面状況により周回数が減算となった開幕戦、幕切れは赤旗
MotoEの決勝はMoto3の決勝前に設定されており、日曜日最初のレースとなる。決勝レースの気温は13度、路面温度が18度。この週末で最も低い気温、さらに冷たい風が吹くなかで始まった。朝方には小雨がぱらついていたザクセンリンク。MotoEの決勝レースを迎える10時には路面状況はダンプコンディションながら、すべてのライダーがスリックタイヤを選択している。
MotoEの周回数は各サーキットの全長によって設定され、ザクセンリンクでは当初は8周とされていた。しかし路面コンディションを鑑み、1周減算されて7周で行われることになった。
オープニングラップでトップに立ったのは7番手スタートのブラッドリー・スミス(ワン・エナジー・レーシング)。しかし、そんなスミスをマイク・ディ・メリオ(エストレージャ・ガルシア・0,0・マーク・VDS)、そしてポールポジションスタートのニキ・トゥーリ(アジョ・モータースポーツMotoE)が追う。トゥーリは3周目、4周目と連続してファステストラップをたたき出すと、4周目にはスミスを交わしてトップに浮上。
4周を終えて、トップはトゥーリ、2番手はスミス、3番手にはディ・メリオ。この3人が0.5秒以内でワンパックとなって周回が重ねられる。内燃機関のバイクとは違い、体が震えるようなエキゾーストノートはないものの、甲高いキィーン、という音ともに接戦のトップ争いが展開された。
しかし6周目、ロレンツォ・サバドーリ(トレンティーノ・グレシーニMotoE)が8コーナーでエリック・グラナド(アビンティア・エスポンソラーマ・レーシング)と接触し、転倒。サバドーリは自身で立ち上がったが、マシンはエアフェンスに突っ込んだ。このクラッシュにより、6周目に赤旗が提示されてレースは終了。5周を終えた時点での順位が結果となった。
MotoE史上初のウイナーとなったのは、ポールポジションスタートのトゥーリ。2位はスミス、3位はディ・メリオで、表彰台を獲得している。
ついに開幕した電動バイクによるチャンピオンシップ、MotoE。第11戦オーストリアGPで第2戦を迎える。