2019年07月08日 09:31 弁護士ドットコム
裁判官の「説諭」が話題になっている。
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たとえば、麻薬取締法違反に問われたピエール瀧さんの判決(6月18日)。この日、東京地裁の小野裕信裁判官は判決の言い渡し後、瀧さんに「この先、迷ったり悩んだりしたときは自分の胸に手を当てて『人生』ということばの意味を考えてください」などと、10分近く説諭を行ったと報じられた。
「説諭」とは、正確には「訓戒」のこと。法律で「裁判長は判決を宣告した後、被告人に対しその将来について適当な訓戒をすることができる」(刑事訴訟規則221条)と定められた行為だ。
メディアでも度々話題になる「説諭」だが、弁護士は説諭をどう評価しているのか。弁護士ドットコムでは、6月に弁護士を対象にアンケートを実施。28人の弁護士から回答が得られたが、厳しい声も少なくなかった。なぜなのか。
アンケートでは3つの質問をした。
【Q1】説諭は被告人の更生に影響を与えると思いますか
・おおいに影響を与える 0(0%)
・ある程度、影響を与える 10(35.7%)
・あまり影響を与えない 6 (21.4%)
・ほとんど、全く影響を与えない 12(42.9%)
【Q2】関わった事件で、印象に残る説諭を聞いた経験はありますか
・ある 8(28.6%)
・ない 20(71.4%)
最後に「実際に印象的だった説諭の内容や、説諭のあり方」について聞いた。
印象的な説諭として、弁護士から寄せられた2つの事例をあげたい。
1つ目は、薬物事件の刑事裁判で、被告人の更生への思いを裁判官がしっかりと評価したと思われる説諭だ。
この裁判で、被告人は「接見に何度も通っている内に本気で薬物と縁を切りたいと言い出した」という。そこで裁判で「本気で薬物を止めたいなら自分の言葉でどうやって止めるか、なぜ陥ったか語って」と弁護士が尋ねたところ、たどたどしいながらも自分の言葉での反省と今後の考えを述べたという。
判決で「裁判官は『初犯で猶予は付けたが、あなたの薬物依存傾向はかなり進んでいると思う。今回幸いにも帰住先が確保され、ご両親のサポートもあるのだから、その環境にある内に必ず薬物との縁を切りなさい』と噛んで含めるように言い聞かせ、改めて被告人の目を見て判決主文を2度繰り返し読み上げました」。
2つ目の事例は「10代の頃から非行を繰り返していた20代前半の被告人の事案で実刑判決だったが、今後の人生を家族や支えてくれる人たちのためにしっかり生きていくように励ますものでした」というものだ。
「印象的だったのは説諭だけでなく、証人尋問や被告人質問でも裁判官は積極的に質問し、情状事実や心情を丁寧に聞いていました。その内容を踏まえた説諭でした。また、実刑判決を受け泣きそうなのを堪えて退廷する被告人に対して、頑張りなさいよと最後の最後まで声をかけてくださいました。
判決後の接見で、被告人はいい裁判官に当たって良かったと言っていました。現在服役中ですが、資格をたくさん取得し、勉強の楽しさに目覚め、頑張っています」
一方で、説諭に対しては「不要。高いところから見下ろして話をすることに疑問。裁判官のパフォーマンスにすぎない」など、辛辣な言葉も並んだ。
「説諭など、裁判官は偉い人というフィクションの上に成り立つ空疎なもの」
「裁判官が自己満足で綺麗事を述べるだけ。そんな綺麗事で再犯防げるなら苦労しないわ、と白けた目で見ています」
「くだらない説諭に時間をかけずに謙虚に判決主文の意味の説明だけする裁判官の方が、概して訴訟手続きや判決内容はまともである。説諭などくだらない制度なので廃止が望ましい」
「当地には説諭に大変熱心な裁判官がいたが、全面否認している被告人にしたり顔で説諭したり、上訴権の告知を忘れて説諭を始めたり、いかがなものかと思った」
「人間の意思決定は遺伝や環境に大きく影響を受ける。一裁判官の説諭ごときで被告人が改心するならそもそも最初から被告人席になど座ってないだろう。裁判官は誰に対しても諭せばわかると思っているのだろうが、一度弁護士のように素の被疑者被告人に接してみれば、それは思い上がりだとわかるのではないか」
この他にも次のような意見が寄せられた。
「これまで見聞きしたものは長くとも数分程度であり、今回報道された訓戒は内容としても所要時間としても、裁判官としての分を越えた問題事例だと思います(芸能人であることを考慮していないといいながら特別扱いしていると思われる点も含め)」
「影響を受ける被告人がいる、というのが正しい。影響を受けない被告人(出所後もまた犯罪するつもりの人等)にはどんな良い説諭をして効果が無い。『最後に裁判官があーいっとったやろ(説諭)。判決には書いてなくても、そういう事情を考慮して、刑を軽してくれてんで』とつなげられると、被告人の納得も深かった」
「よほど人徳のある裁判官が、しっかり聴く準備のできている被告人に説諭するような、ごくごく例外的なケースを除いて、被告人に感銘を与えることは不可能だと思う。裁判官の自己満足に終わることの方がずっと多い」
説諭が罪に向き合い、更生の支えとなることがある一方、過度の期待や救いを求めてもいけないのだろう。