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急増する『レイプドラッグ』、飲食物に薬を入れられた3人の女性が語る実被害

2019年07月05日 21:00  週刊女性PRIME

週刊女性PRIME

写真はイメージです

 性暴力に関する裁判で、無罪判決が相次いでいることへの抗議と、性暴力の撲滅を訴える「フラワーデモ」が全国的な広がりを見せている。

 3回目となった6月11日は東京、名古屋、札幌、仙台、大阪、神戸、下関、福岡、鹿児島の計9か所で実施。それぞれの場所で数百人から数千人が集まる大規模なものとなった。

 JR東京駅前の行幸通りには約300人が集まり、被害当事者団体『スプリング』のメンバー岩田美佐さんは「16歳で集団レイプに遭い、進学もできなくなった。いっそ殺されたほうがよかった」と語った。岩田さんや被害者たちの叫びを聞いて涙を浮かべる参加者の中で、深くうなずきながらすすり泣く女性がいた。

急激に増えている『レイプドラッグ』

 藤本ありささん(仮名・36)だ。自身もレイプ被害に遭ったというが、

「何も知らない人に話すと必ず言われることがあるんです。“記憶がないだけマシだね”って。励ましてくれてるのかもしれないけど、それを聞くのもしんどい。意識明瞭で性暴力を受けた女性でさえありえない無罪判決が出ているのを見ると、襲われているときの記憶がない私は裁判をとても闘えないなって思うんです」

 昨今、食べ物や飲み物に薬物を混入され、意識がもうろうとしたところで性暴力の被害に遭う女性が増えている。相手の抵抗力を奪い、性的暴行をする目的で使われる薬物は『レイプドラッグ』と呼ばれ、ここ最近では逮捕者も出ている。

 市販の睡眠導入剤や処方された睡眠導入剤を使うなど犯行の手口は異なるが、容易に手に入れることができ、飲み物などに混ぜると無味無臭なうえ、体内からもすぐに消えてしまい証拠が残らないため手軽に使用されてしまうのだ。

 こうした薬物の使用が疑われる性犯罪の摘発件数は、2015年度、'16年度はいずれも30件程度だったが、'17年度には85件と急増している。

 性暴力救援センター東京によると、

「薬物を使用した性犯罪は以前からあります。数としては変わらないと思いますが、いろいろなところでレイプドラッグが話題になることで被害者本人の認識が変わり、告発しやすい雰囲気ができあがってきたのだと思います」

 と解説。

 前出の藤本さんも、

「テレビなどで同じような被害者がいることを知って勇気をもらいました。私も自分の経験を話すことで、ひとりでも多くの被害者を少しでも楽にできたら、と思いデモに参加しました」と述べ、つらい記憶を振り返った。

藤本ありささん(仮名・36)の被害

「被害に遭ったのは2年前の夏です。相手は仕事でかかわりのあった50代の男で、ちょうど休職中の私に、いい条件の仕事をちらつかせて誘ってきました。以前からの知り合いということで疑う気もなく食事に応じました」

 1軒目はレストランで仕事の話をし、盛り上がったという。しかし、藤本さんは2軒目以降の記憶がぷつりと途切れてしまう。

お酒は強いほうなんですが、2軒目でビールを飲んでからの記憶がないんです。1軒目は仕事の話ということもあり、お酒を飲まなかったので、飲んだのはビール1杯だけです。普段はビール3杯以上飲んでも酔いません。日本酒もワインも平気で飲めるのにおかしいですよね」

 気づいたときには、見知らぬホテルのベッドに裸で横たわっていた。隣を見ると50代の男が裸でいびきをかいていたという。

「ゾッとしました。何が起きたのか本当にわからなくて、頭はボーッとしていてとにかく恐怖でこの場から離れなくてはと思って急いで服を着て逃げるようにホテルを出ました。動悸がずっと止まらなかった」

 藤本さんは取材中、何度も後ろを気にする様子を見せ、誰もいないとわかると安心したような表情になった。

「あれ以来、男性が近づいてくると怖いんです。だって相手は本当に普通の人のよさそうなオジサンだったんです。何をされたか本当に何も覚えてなくて、でもなかったことにはできなくて。今思えば勇気を出して警察とかに行けばよかったのかもしれない」

 藤本さんは、男と1対1で会ってしまった自分を責めている。

「警戒すればよかった。やっぱり自分の落ち度を探してしまうんです。それで自分を責めては嫌になって、の繰り返しです」

品川仁美さん(仮名・28)の被害

 警戒していても卑劣な性犯罪者は隙あらば女性を狙う。品川仁美さん(仮名・28)は、大学1年生のときにレイプドラッグを使用されたという。

「今から約10年前になるのですが、大学のテニス&イベントサークルに入りました。田舎の母がサークルの飲み物に気をつけろ、としつこく言うので、お酒は絶対に飲まないようにしていました。飲み物に目薬を入れられて強姦される、みたいなサークルのニュースが当時あったんです」

 飲み会には参加せず、趣味のテニスを充実させられたら、という思いで入会したという。入会の契約を交わしにサークルの事務所に行ったときに事件は起こった。

「妙にタバコくさい事務所で早く帰りたいなと思っていました。でも女性の先輩もいたし、襲われる心配はしていませんでした。事務所にはそのとき4年の男性2人とその女性の先輩が1人いました。男性の先輩が出してきたお茶は警戒して手をつけなかったんですが、女性の先輩が出してくれたヨーグルトを口にしたら意識がもうろうと……

 気づいたときには事務所から近い駅前のベンチに寝ていたという。

「性行為をされたという記憶はまったくなくて、どうして? 私何しているの? という混乱した気持ちでいっぱいでした。何かされたと気づいたのは翌日でした。事務所にいた女性の先輩から《けっこうエッチなんだね》というメールが届いたんです。もう頭の中がパニックになりました。

 記憶はないけど何かそういうことをされたんだ、という直感というか被害者感情がこみ上げてきて、でも怖くて詳細を聞けなくてそれから1週間外出できませんでした」

 インカレサークルだったため、その後、彼らと顔を合わせることはなかった。それでも後遺症は大きい。

「被害に遭った場所の最寄り駅に怖くて今も近づけないんです。もしかしたら私のいやらしい映像とか撮られていたかもしれない。そういうものがサークル内にばらまかれているかもしれない、そう思うと怖くて10年たった今でも近づけないんです」

 また夜10時以降はひとりでは外を歩けず、ヨーグルトを食べることもできなくなった。

「人間不信は今でも直りません。彼氏はいますが、付き合う前に必ず信頼している女友達と数回会ってもらって、女友達が“大丈夫”と言ってくれる相手でないと、その先に進むことができないし、3か月くらいはびくびくしながら食事をしています。こんなことが死ぬまで続くと思うと、悔しいし、つらい」

佐野あいさん(仮名・31)の被害

 佐野あいさん(仮名・31)は、婚活サイトで知り合った自称商社マンの男(36)にクスリを盛られた、という。

「その日は2回目のデートで普通に誘われたら性交していたと思います。いま思えばそんなやつにそんなことを思っていた自分が嫌ですけど」

 と、当時の自分の気持ちを冷静に振り返る。

「暑い日でビアガーデンに行きました。でも、途中からすごく風が強くなってきて、テーブルの上のおしぼりとか吹き飛ばされてました。私の帽子も結構遠くまで飛ばされてそれを取りに行ったんです」

 その瞬間、男がカバンから何かを取り出すのが見えたという。

「サプライズで指輪とかくれるのかと期待してあまり見ちゃいけないと思い見ないふりをしたんです。席に戻ったら焦った様子でまたカバンをガサゴソしていて。そこから記憶がありません。そんなかわいらしいことを考えていた自分が恥ずかしい」

 純粋な乙女心は粉々に打ち砕かれた。朝起きると汚いラブホテルの床に裸で寝かされていたという。

「ベッドの上には男がいて、私を見下ろしていました。SMみたいなプレーをしたいようなことを言っていましたが、そのときは何が起きたのか頭の中が整理できず、“気分が悪いから帰りたい”と叫んで帰りました。男はびっくりした様子でした。それから連絡もありませんし、私もしていません。同じように被害に遭っている人がたくさんいると思います。絶対に許さない」

レイプを立証するには証拠が

 被害者たちの多くは被害を訴えることなく、加害者の逃げ得が許されてしまっている。今からでも被害を訴えることは可能なのか。

 性犯罪裁判に詳しいアディーレ総合法律事務所の正木裕美弁護士は、

「客観的証拠もないうえに、事件発生時から数年という相当時間が経過しているのであれば、そもそも立証は困難。起訴に足る証拠が不十分とされる可能性が高いと思われます」

 と、事件化する難しさを指摘する。万が一、被害に遭い、裁判で闘うとしたら証拠をひとつでも多く残すことが勝訴につながる道だという。

被害直後は耐えがたくつらい時間だと思いますが、できるだけ早く警察、医療機関へ行くことが大事です。事件時に着用していた洋服や所持品などはそのまま、もしくは新しいビニール袋に入れて持参し、トイレに行かず、風呂にも入らずそのまま警察へ行くことです。

 警察に行くこと自体、非常に勇気がいる行為ですし、さらに気持ち悪く耐えがたい苦痛を強いるものだと思いますが、加害者の責任を問うためには、レイプを立証する証拠を散逸させないことが不可欠です」

 今回、話をしてくれた3人の被害者たちはともに記憶がなく、もうあの男と対峙したくない、という思いから事件当時は泣き寝入りをした。しかし今どんな結果になろうと被害者として弁護士に相談を始め、今からでもできる方法で被害を訴えていくという。

 フラワーデモを最初に呼びかけたひとり、作家の北原みのりさんは、

「性犯罪の被害を受けた人が声を出せなくなるのは本当にひどいし許せない。声をあげた被害者をひとりにさせない。そんな思いからフラワーデモを始めました。実際に、想定していたよりも多くの人たちが集まってくれて“私も”と言いたい人がこんなにいるんだと改めて感じました。これからも女性たちが声を上げやすい空気をどんどん作っていきたい」

 と、話す。

 各地で女性たちは声を上げ始めている。卑劣な性犯罪者の逃げ得はもう許さない!