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石橋静河×古舘佑太郎が語る、『いちごの唄』で得たもの 古舘「自分で大丈夫なのか不安だった」

2019年07月05日 13:51  リアルサウンド

リアルサウンド

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 脚本家・岡田惠和と銀杏BOYZの峯田和伸による同名小説と同時に企画が進行した映画『いちごの唄』が全国公開中だ。本作は、銀杏BOYZの楽曲「漂流教室」「ぽあだむ」などをイメージソースに生まれた青春ラブストーリー。1年に一度、たったひとりの親友の命日である七夕に会う約束をするコウタと“あーちゃん”こと千日を巡る恋と友情を描く。


 W主演を務めたコウタ役の古舘佑太郎と千日役の石橋静河に、初共演となるお互いの印象、銀杏BOYZへの思い、峯田との共演についてまで話を聞いた。


参考:撮り下ろし写真ほか多数


ーー『いちごの唄』の撮影を終えた感想は?


古舘佑太郎(以下、古舘):物語の中心となる人物を演じる難しさは、今回初めて経験したことだったので、改めて、色んな人に支えられていないと自分って何もできないんだといい意味で実感しました。今は、どんな風にお客さんに届いていくのか楽しみです。


石橋静河(以下、石橋):私は、役に対する取り組み方をすごく考えさせられました。今までいろんな役をやらせていただきましたが、また次の道に行くきっかけをもらったような作品でした。


ーー『いちごの唄』が1つのターニングポイントになったと。


石橋:『いちごの唄』はコウタの視点から色んなことが描かれているので、私が千日という役の視点だけで現場にいるのでは何か足りないと感じることがあって。だから、一歩引いて冷静になって作品全体を見ていました。役の演じ方にも、色んなアプローチがあるということを今回この役を演じて気づきました。


ーー古舘さんは、その石橋さんの変化を、一緒に共演する中で感じることはありましたか?


古舘:僕は、石橋さんのことを“あーちゃん”としか見ていなかったので、石橋さん自身の変化は知りませんでした。それこそ役と一緒で石橋さんを神格化していたから、石橋さんのパーソナルな部分をあまり知らないんです。だから「そんな風に思ってたんだ」って今聞いて驚きました。


ーーお2人は初共演となりますが、お互いの印象は?


石橋:私も、初めてお会いした時から古舘さんのことをコウタとして見ていたんです。コウタは、すごく変わった男の子で、普通だったらここまで振り切って演じるのってちょっと恥ずかしかったりするんじゃないのかなと思うんですが、古舘さんはそういう恥ずかしさを全然感じさせなくて。一緒にお芝居をしていても、動きとかが本当におかしくて、何度も笑って、NGを出してしまいました(笑)。でも、古舘さんは人を笑わせている自覚がないみたいで、「なんで笑ってるんだろう?」みたいな顔で私を見るんです(笑)。それって、自分がどうとか考えないで、本当に振り切って演じている証拠だと思います。そういう振り切れた演技ができるのは、もしかしたら古舘さんがもともとミュージシャン、パフォーマーだからなのかなと感じました。


ーー古舘さんは、今の石橋さんの言葉を聞いていかがですか?


古舘:僕は音楽をずっとやってきた人間で、その後に役者を始めたという経歴なので、正直役者としての基礎や技術は未だにないと思っていて。だからこそ気持ちやテンションでカバーしなきゃとは常に考えています。撮影前に、石橋さんがこれまで出られている作品を観た時に、こんな自分で大丈夫なのかすごく不安だったんです。いざ撮影が始まったら、石橋さんが笑ってくれたりしたんですが、「なんで笑ってるんだろう」でその表情になっていたんじゃなくて、「気を使ってわざと笑ってくれてるのかな、申し訳ないな」という気持ちでした。


石橋:NG出してまで、わざと笑わないですよ(笑)。


古舘:「笑って僕の気持ちをほぐそうとしてくれてるんだ。優しすぎて申し訳ない!」と思っていました(笑)。テンションだけでやっている僕を、受け止めてくれたことがすごく嬉しかったです。


ーー本作は、銀杏BOYZの楽曲も大きなモチーフの1つです。2人にとって銀杏BOYZは役を演じる前から身近な存在でしたか?


古舘:僕は中学校2年生の時、近くのレンタルCD屋でCDを借りるのが趣味だったんですが、そのレンタルCD屋に銀杏BOYZとオナニーマシーンっていうバンドのCDが並んでいたんですよ。借りたかったんですが、その名前の並びですし、ポップにも結構下ネタが書いてあったので、怒られるんじゃないか……と思ってやめたのが、銀杏BOYZという名前を知ったきっかけでした。


 だから、「名前は知ってるけど聞いたことない」という期間が続いていたんですが、中学3年生になってランニングに行こうと思って、姉ちゃんのiPodを借りたら銀杏BOYZが入っていて聞いてみたんです。それで衝撃を受けて、家に帰ってすぐYouTubeで他の銀杏BOYZの曲を探していたら「BABY BABY」という曲が流れて。今までの音楽体験で初めてだったんですが、うわーって感情が爆発しちゃって、部屋で1人で暴れまわったんです。ベッドの上で飛び跳ねたり、本棚を倒したり……。「この感情はなんだろう?  なぜかわからないけど部屋をぐちゃぐちゃにしちゃった」と衝撃を受けたのを覚えてます。


石橋:私は、名前は知っていたんですが恥ずかしながら聞いたことがなくて、脚本を読んでから聞き始めました。やっぱり千日という役のことを考えていると、悲しい気持ちになってきて、体も心もどうしたらいいかわからないって思ってしまう時があるんです。そういう時に、本当に峯田さんの歌に助けられて。撮影が終わってからも聞いています。急に自分の近いところに来てくれた音楽という感じがします。


ーー銀杏BOYZの峯田さんとは今回共演もされていますが、峯田さんからアドバイスはありましたか?


古舘:僕は、撮影前に峯田さんに1度「お話を聞かせてください」という趣旨のメールを送ったんですけど、無視されて(笑)。でもそれは無視という名の返事だと受け止めました。そうしたら撮影で一緒になった後に、「そのメールを返さなかったのはわざとだ。俺のことなんか気にせず自由にやってくれ」って言ってくださったんです。僕もそれですごくのびのびやれるようになって、峯田さんが「お前、すごいおもしれえな」と言ってくれました。その一言だけですけど、すごく嬉しかったです。


石橋:私は撮影で初めてお会いしたんですが、現場ではおそらくあえて、その役をやるために現場に来ているという雰囲気でいらっしゃって。だから、私も全く気負うことなく自分がやるべきことに集中できたので、そうやっていてくださったのはかっこいいなと思いました。


ーーお2人は、本作はどんな作品だと感じていますか?


古舘:僕が銀杏BOYZを最初に聞いて暴れまわったのって、理由は説明できないものだと思うんですね。言葉に言い表せない、何でかわからないけど「うわー」ってなることは、銀杏BOYZなどの音楽に限らず、映画でもありました。自分がかつてそうなったみたいに、今度は『いちごの唄』が誰かにとってそういう作品になれば嬉しいです。


石橋:改めてこの作品を観ると、優しい映画だなと思います。この映画は、青春や恋愛という明るいものが根底にあるけれど、そうした要素とは別に、あーちゃんやコウタだけでなく、震災で被災した女の子も出てきて、それぞれの人たちが色々な葛藤を抱えています。その葛藤を包み込むような、すごく風通しのいい優しさが流れているので、それをぜひ観て体感してもらいたいです。


(取材・文・写真=島田怜於)