2019年07月05日 10:12 弁護士ドットコム
大家から突然の立ち退き要求。引っ越し費用がないのだけど、どうしたら良いでしょうか――。そんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
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立ち退きを要求されているのは、相談者の母親。大家さんの子どもが住むためだといいます。
しかし、母親はこの家に10年近く住んでいるそう。高齢で身体が弱く、わずかな年金で細々と暮らしているため、引っ越し費用がないといいます。
荷物はそんなに多くはないものの、仏壇があることも悩みの種です。輸送費もですが、旧居・新居での法要で数万円が必要になる可能性があります。
引っ越し費用を大家に負担してもらうことはできるのでしょうか。小西徹弁護士に聞きました。
建物を貸している大家さんが入居者に立ち退きを要求する場合は、たとえ契約更新時であっても、「正当事由」が必要です(借地借家法第28条)。
つまり、大家さんからの立ち退き要求も、絶対ではありません。入居者が立ち退きを拒否できる場合もあります。
また、入居者は立ち退くとしても、多くの場合で「立退料」を受領できます。
正当事由があるかどうかは、大家さんと入居者のそれぞれが建物使用を必要とする事情、建物の状況、大家さんが入居者に提示した立退料などの様々な事情を考慮して、裁判所によって判断されます。
大家さん側の建物使用の必要性は厳しく判断される傾向にあります。今回のケースのように、大家さんが子どもを住まわせたいという程度では、正当事由が認められづらいです。その分、少し多めの立退料が必要になるでしょう。
立退料の金額は、明確な判断基準はありませんが、①立ち退きによってかかる移転費用、②立ち退きによって失う利益(営業補償)、③立ち退きによって消滅する利用権(借家権)などを考慮して決められると考えられています。
今回のように、借りている建物を住居として使用している場合は、主に①移転費用の補償となります。
具体的には、転居先として新たに借りる建物の敷金・礼金・仲介手数料、引っ越し業者に支払う引越代などを考慮して、家賃の4~8カ月分くらいになることが多いようです。
仏壇についても、過去の裁判例は見当たりませんが、輸送費のほか数万円の法要の費用でしたら、考慮できる可能性が十分あると考えます。
まとめますと、今回の相談者の母親は、家賃の約6~7カ月分程度の立退料を大家さんに求めてみるのが良いと考えます。併せて、明渡し時期も交渉しておきましょう。
今回とは異なり、借りている建物を店舗として使用している場合には、立退料に、①移転費用の補償と併せて、②営業補償も算入される場合が多いです。
この②営業補償は、移転期間に営業ができないとか、他の場所に移転すると固定客が離れて売上がしばらく減ってしまう等で、減少する売上を補償してもらうということです。
このように店舗として利用している場合には、家賃の数年分の立退料を取得できる場合がしばしばあります。
なお、賃貸借契約が「定期建物賃貸借契約」の場合には、更新がありませんから、原則として立退料は取得できません。また、家賃の不払いなどの債務不履行で解除となって立ち退きを求められた場合にも、立退料は取得できません。ご注意ください。
【取材協力弁護士】
小西 徹(こにし・とおる)弁護士
東京弁護士会所属。民事事件を広く取り扱っており、特に不動産、企業法務、交通事故を得意とする。新しい法律問題にも積極的に取り組んでおり、近時、民泊について、不動産会社や管理組合から多数の相談・依頼を受けている。
事務所名:目黒・白金法律事務所
事務所URL:http://www.meguro-law.com/index.html