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清原果耶が『なつぞら』に新風を吹き込む 空白の13年間を表した迫真の演技

2019年07月05日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

清原果耶『なつぞら』より(写真提供=NHK)

 広瀬すずが清々しいヒロイン像を体現する『なつぞら』(NHK総合)で、彼女の生き別れた妹役として登場し、さらなる清らかな風を呼び込むこととなった清原果耶。笑顔のまぶしい女優である。


 清原が朝ドラに出演するのは、これで2度目だ。『あさが来た』(NHK総合、2015年10月~)が、彼女の女優としてのデビュー作でもある。今作『なつぞら』で彼女の存在を知ったという方も多いのであろうが、17歳とあってキャリアはまだ短いながらも、清原はじつに多くの作品で多彩さを発揮し、その存在感の大きさを示してきた。


【参考】清原果耶が明かす、千遥登場までの裏側


 2016年公開の『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』や『3月のライオン』(2017)、『愛唄 -約束のナクヒト-』(2019)では透明感溢れるヒロインに扮し、後者では、表題曲を優しく歌う姿も劇中で見せている。そして、『ユリゴコロ』(2017)や連続ドラマW『イノセント・デイズ』(2018)では、心に闇を抱える少女を自然体で好演。この2作においては、彼女の透明感があってこそ引き立つ不穏さというものがあったのだ。


 今作『なつぞら』以前に広瀬と対面した『ちはやふる -結び-』(2018)では、シリーズ作品の完結編にいきなりの登場ながら、スポーティで好戦的な少女を演じ、これまた清らかな力強さを映画に与えていた。さらに、俳優・山田孝之がプロデュースをはじめ裏方に徹した『デイアンドナイト』(2019)でも、ヒロインを担当。野田洋次郎が作詞・作曲・プロデュースした主題歌「気まぐれ雲」を、清原は劇中で演じた大野奈々名義で瑞々しく歌い上げ、「人間の善と悪」をテーマに描いた本作に、彼女はささやかな光をともした。


 ドラマでは、昨年放送された『透明なゆりかご』(NHK総合)で初主演し、続くNetflix配信ドラマ『宇宙を駆けるよだか』でもヒロインを担当。このあたりで知名度も上昇した。こうやって清原のキャリアを振り返ってみると、いかに彼女がいま注目され、必要とされている存在なのか、一目瞭然なのである。


 さて、そんな清原が『なつぞら』で扮するのは先に触れたように、ヒロイン・なつの生き別れた実の妹。この、大役にして注目のキャラクターを誰が演じるのか、早くから話題となっていた。こうして実際に、清原が妹・千遥役として登場してきたわけだが、やはり、申し分のない存在感である。


 なつの故郷である十勝の大地にさらりと登場した彼女は、淡紅色の衣装に身包み、凛とした佇まいが印象的である。一見、無表情のようにも見える彼女の顔は大人びたものに感じられるが、何か感情を押し殺しているようにも見える。カメラはじっと彼女の表情を大きく捉えるが、喜怒哀楽の変化はあまり見られなかったのだ。この流れからの、電話を介して姉妹が声で再会するシーンは、今のところ本作の名シーンの一つに数えられるだろう。千遥が感情を露わにする場面である。


 13年ぶりに言葉を交わす姉妹だが、相変わらず千遥の表情は硬く、無表情に近い。しかし、姉の声を聞き想いを受け止めた彼女は、そのほとんど無表情を保ったまま、瞳の揺れ、頬の震え、口元の痙攣で、うちに秘めたる感情を訴えてみせた。ここで彼女に求められていたものは、あまりに大きかっただろう。言葉や身振りに頼らずに、彼女はキャラクターを表現しなければならなかったのだ。画面に大映しにされた彼女の瞳からはとめどなく涙がこぼれ落ちるものの、例の表情のままである。


 この場面を目にしたときに、作り手たちの清原に対する信頼度の高さと、彼女自身の演者としての力量の大きさを思い知った方は多いはずである。限られた情報だけで、清原は千遥の空白の13年間を視聴者に伝えたのだ。世間の注目と期待とに、まさに完璧に応えたといえるだろう。これがあったからこそ、やがてなつの家族との触れ合いによって見せた笑顔は、とてもまぶしかったのだ。


 そんな清原果耶だが、知名度が急上昇しているこのタイミングで、出演した映画『いちごの唄』が本日より公開。『なつぞら』での彼女とを見比べてみて、その才能の無限性に触れられる絶好の機会となるのではないだろうか。いま女優として、一番最初の成長期にあるように思える清原が、『なつぞら』にどのような影響を与え、そして成長していくのか、実に楽しみである。


(折田侑駿)