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なぜホンダはメルセデスを凌げたのか。13年ぶりの快挙を手助けした『標高』のテクニカルな要因と次に勝てるサーキットを推察

2019年07月03日 18:31  AUTOSPORT web

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オーストリアGP、オランダから大挙してサーキットを訪れたファンを背景にポーズを決めるマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)
第9戦オーストリアGPでF1復帰後、初優勝を飾ったホンダ。前戦フランスGPからスペック3と呼ばれる新仕様パワーユニットを投入し、その内容について「信頼性向上が主眼であり性能向上はわずか」と説明していたが、これは謙遜なのか、はたまた“三味線を弾いて”いたのか……。

そのコメントを信じるとして、ホンダがピークパワーでメルセデスにまだ肩を並べていなかった場合、それでもオーストリアGPで互角以上の戦いができたポイントとして注目したいのが、舞台となったレッドブル・リンクの標高である。

 山岳地帯の裾野にあるレッドブル・リンクの標高は660m。標高0mと比べると約7.5%酸素濃度が低い計算となる。現行規定のF1パワーユニット本体、エンジン(ICE)は時間あたりの燃料流量が規制されており、使用回転数や吸入吸気量の制限はない。ターボのブースト圧にも同様に制限はないので、標高が高くてもエンジンパワーが落ちることはないように思える。

 しかし、標高0m付近の平地でターボチャージャーの能力を使い切っていたとしたら、標高が高くなり空気が薄くなる分、ターボ回転数を上げても平地と同じ量の酸素量が確保できなくなる。

 このこと自体は規則と気圧の問題であり、どのエンジンにも平等に条件が悪化するのだが、最大のピークパワーを誇るメルセデスだけが、この条件悪化をモロに被っていた可能性がある。

 燃料流量制限があって、空気量が無制限なので、いかに薄い燃料を効率良く燃やすかがピークパワー向上の重要な鍵。ピークパワー最大のメルセデスは熱効率も最も高いはずで、少なくとも4メーカーの中でメルセデスが一番大きな影響を受けることは間違いないだろう。高地レースだけ容量の大きいコンプレッサー(ターボチャージャー吸気側)を使用するようなことが許されれば、この問題は解消するかもしれないが、規定がそれを許していない。

 このような仮説の根拠はスーパーGTにある。GT500の現行エンジン規定は、F1同様燃料流量制限で空気量は無制限。ただし、レクサス、ニッサン、ホンダの3メーカーともターボチャージャーは共通で変更不可となっている。14年からの継続した開発で熱効率が高まり、必要な空気量がどんどん増して、コンプレッサー容量がもはや不足しているとエンジン開発担当者は語る。熱効率改善のさらなるネタをみつけてもコンプレッサー容量の限界でピークパワー向上は制限されているのが現状なのだ。

 2016年に3メーカーが話し合い、ターボチャージャーをスペック変更してコンプレッサー効率を高めたにも関わらず、開発スピードがそれを上回った。結果、トップエンドのピークパワー競争は標高の低いサーキット(しかも気温がある程度低い条件下)でなければできない状況となっている。標高の高い場所にある富士やオートポリスはコンプレッサー容量不足によって、ある程度ピークパワーが制限されてしまう。

 F1の話に戻り、ホンダがピークパワーにもしまだハンデを抱えていたとしても、オーストリアGPではその影響が最小あるいは皆無になっていたのはレース内容からも明らかだ。

 今後、ペナルティ覚悟で“スペック4”を投入して、ピークパワーでもメルセデスに並ぶ、あるいは越えることを目指していると想像されるが、もしそれが達成できなかったとしても、標高を条件にすると、このあとも活躍が予想されるラウンドがある。第18戦メキシコGPだ。

 舞台のエルマノス・ロドリゲスは標高2300m、酸素濃度は平地の76%となる。オーストリアGPよりさらに条件は悪化、吸入空気量が不足して最高の熱効率では走れない可能性が高い。技術の最先端であるF1も自然の支配から逃れられず、戦況に変化が生まれるとしたらそのこと自体が興味深い。ホンダ・ファンにとっては日本GP後も目が離せない展開となりそうだ。