2019年F1第9戦オーストリアGPは、レッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンが今シーズン初優勝。そしてホンダF1としては2006年以来、13年ぶりの勝利となった。F1ジャーナリストの今宮純氏が週末のオーストリアGPを振り返る。
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F1第9戦オーストリアGP決勝、フェルスタッペンの勝利は内外に『POWERED BY HONDA』をアピールするものだった。レッドブルチームはすすんでホンダ田辺豊治F1テクニカルディレクターを表彰台に上げた。
パワーユニット(PU/エンジン)のサプライヤーであるホンダとレッドブルの連帯意識が見られる光景だった。
ドライバーではない日本人技術者として初めて表彰台に立った田辺TD、シャンパンファイトも堂々と。1990年に担当エンジニアを務めたゲルハルト・ベルガーが“2位プレゼンター役”で現れ、田辺TDに祝福のハグ。すると彼の目から“汗”が流れるように見えた。
15年にハイブリッドPUで復帰してから90戦目。正式には言われていない『ホンダF1第4期』の1勝目を上げるまで4年かかった。
くらべるなら2006年ハンガリーGP、ジェンソン・バトンによる勝利は『第3期』参戦115戦目であった。あのときのバトン担当が若き田辺エンジニア、どちらにもかかわったベテランのHONDA戦士、彼自身はインディ500マイル以来の勝利だ。
71周レースをフェルスタッペンは<三段戦法>でいった。スタートで完全に出遅れ1周目は7番手、7周目に6番手、9周目に5番手へ、次々にランド・ノリス(マクラーレン)とキミ・ライコネン(アルファロメオ)をかわす。一撃離脱の挽回戦だ。
21周目にバルテリ・ボッタス(メルセデス)、22周目にセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)がピットインし3番手に上がると、しばらくミディアムタイヤをケア。我慢の走りに切り替え、次のスティントまでを先延ばしにすることで終盤にそなえた。
31周目にピットへ。TV画面にはとらえられなかったがレッドブル・ホンダは、タイヤ交換を素早く済ませ静止タイム2秒09(2番目)。ちなみに最速はウイリアムズのロバート・クビサの2秒02だ。
32周目、1番手ルクレール~2番手ボッタス~3番手ベッテル~4番手フェルスタッペン、首位とは12.914秒差。
ここから追撃戦の開始だ。ラップタイムを1分08秒台にアップし、じわじわとベッテルに接近、50周目の4コーナー手前で抜き3番手。
次はボッタス、1分07秒台にペースアップし、3コーナーでインから抜き2番手。このオーバーテイクの合間にも彼はラインをわずかにずらし、超高温コンディションに対応しつつ勝負にそなえる。
■ホンダPUもフルパワーで稼働
55周目を過ぎてさらにペースを上げた。「エンジン・モード・イレブン」の指示があり、60周目からはトップのルクレールを視野内にとらえる。
ホンダPUのモード設定で限りなく予選に近いフルパワーが与えられ、マッチレースへ。ルクレールの前方には周回遅れのピエール・ガスリーがいたが、彼はルクレールとチームメイトにすんなり譲った。
67周目に0.535秒差に接近すると、1コーナー通過後にラインをまたずらした。フェイントに見えたがそうではなく、クーリングのためにそうした(のだろう)。
この動きがルクレールには“牽制アクション”に映り、3コーナーでインサイドに入られそうになった。並走のまま4コーナーでルクレールはきわどく守ったものの、リヤのトラクションが明らかに低下、きびしい。
68周目を0.598秒後方で通過。そして1コーナーを力強く加速、フェラーリのテールにすっぽり入り込むと、2コーナーで右へ急角度に瞬間移動(!)。
ルクレールの後方視界から一瞬姿を消すかのようにまっすぐインサイドへ。そして3コーナーにふたりがほぼ同時に進入した直後、クリッピングポイントから並んだまま両者はタッチ……。
思い出されたのは2016年のF1オーストリアGP最終ラップだ。全く同じ場所でイン側のニコ・ロズベルグとアウト側のルイス・ハミルトンが接触。
ウイングにダメージを負ったロズベルグは失速し4位へ、ハミルトンが勝利となった。そして審議対象となりロズベルグに対し10秒タイムペナルティが科せられた(順位変化は無かったが)。
あれとは異なるフェルスタッペンとルクレールの動きを、スチュワード・メンバーはレース後に時間を費やして精査。
レーシングインシデントと裁定。カナダGPから3戦つづいた競技の終了後、<結果がコース外で決まる>事態にはならなかった。今後に向けてこれが一つの判例になるだろう。
モータースポーツにおける勝利の瞬間は、競技(レーシング)のなかで決するのが好ましい。――最後にスクーデリア・フェラーリが上訴はせず、結果を受け入れたことを加えておきたい。