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TWICE「TT」など手がけるリア・キムが明かす、K-POPにおけるダンスと振付の重要性

2019年07月02日 11:41  リアルサウンド

リアルサウンド

リア・キム

 J-POPシーンの最前線で活躍する振付師にスポットを当て、そのルーツや振付の矜持をインタビューで紐解いていく連載「振付から紐解くJ-POPの現在地」。今回は特別編として、TWICE「TT」の振付などで知られるリア・キムにインタビューを行った。コレオグラファー/ダンサーとしての活動のほか、1MILLION DANCE STUDIOで講師を務めたり、ショーアイコンとしても活躍し、世界的に知られる存在に。しかし、日本でインタビューを受ける機会は、これまでほとんどなかったそうだ。そんな彼女のルーツから、振付する際に意識していること、K-POPにおけるダンスの重要性まで、じっくりと語ってもらった貴重な内容になった。(編集部)


(関連:Red Velvet、IZ*ONE、TWICE……K-POPガールズグループによる、強力な個性伝えるサマーソング


■連載「振付から紐解くJ-POPの現在地」インデックス
第1回:s**tkingz
第2回:TAKAHIRO 前編/後編
第3回:辻本知彦
第4回:YOSHIE


■「怖がらず、自信を持って全部やってみたい」
ーーリアさんはコンテンポラリーやジャズなどオールラウンドに踊りこなしていますが、ルーツはどこにありますか?


リア・キム:もともとストリートダンサーを長くやっていて、ダンスバトルにも出たりしたのですが、ポップピン、ロッキング、ヒップホップ、ワッキングなど、たくさんのジャンルを習いました。大学に進学せず、お父さんを説得してダンススクールに通ったのが役に立っていると思います。


ーーリアさんの振りは女性らしい身体を活かした、しなやかな動きやセクシーな腰つきが印象的です。これにはこだわりがあるのですか。それとも感覚的に身につけたものですか。


リア・キム:ワッキング(WAACK)という、ゲイダンサーから生まれたダンスが好きでずっと練習していました。あえて女性らしさを意識してやったわけではなく、ゲイダンサーが踊るワッキングは少し過剰な動きなので、そこからセクシーさが身についたんじゃないでしょうか。ヴォーギング(VOGUE)やワッキングが流行ったときに、男性ダンサーさんが踊っている映像をたくさん見ました。特にジョンテさん(JONTE’ MOANING)は、自分が若いときから活躍していましたね。


ーーK-POPのガールズグループのダンスはキュートさやセクシーなポーズが1つのシンボルになっているような気がします。


リア・キム:昔、たくさんのガールズグループやアイドルをトレーニングしていた時、私を含めたダンサーたちが、そういう振り付けにハマっていました。だから意識して作ったというよりは、自然に影響されたのかもしれません。


ーーリア・キムさんはどんな手順で、どんなことをヒントにして振り付けを考えていますか?


リア・キム:以前は海外の有名な振付師を意識して、それよりもっと技術的に上手く見せたいという欲がありましたが、最近はやっとその欲を排除できて。音楽を聴いて素直に感じることを表現するようになりました。長い間ダンスをしてきて、身体にしみこんでいるので、音楽を聴いたら感覚的に振り付けが出てくるようなイメージです。K-POPの場合、最初から鏡を見て作るというよりは、音楽を繰り返しちゃんと聴いて、机に座って、そこから全体の構成を作って、まず一番ポイントになるところの振り付けをします。花束で例えると真ん中にバラがあって、それを中心にどう花を飾るかを考えるように、ポイントとなる振り付けが一番輝けるよう、他の振り付けを配置するという形で作ります。


ーーTWICEの「TT」の振り付けはとてもキュートですが、キャッチーな振り付けを生み出すポイントはありますか。


リア・キム:そのアーティストが持っているキャラクターと、曲が持っているカラーと似合うかをメインで考えています。韓国は音楽番組で顔にズームアップすることが多いので、顔周りで目立つ振りや、みんなが覚えやすく踊れるような振りを意識しています。作っている時は世界的に人気が出るかどうかはわからないので、自分が作った振りに確信を持ったことはほとんどありません。自信があってもそんなに人気が出ないときもあるし、これはまあまあかな、と思ったものが人気になるときもあります。


ーーリアさんはスタイルがとても良いですが、コレオグラファーとして気をつけていることや、マイルールはありますか。


リア・キム:振付師は、アーティストではありますが、アスリート並みのフィジカルが重要だと思うので、踊るための体力や食事など自己管理は徹底的に意識してやっています。ダンサーの中には、お酒をたくさん飲んだり、あまり気にしない人もいるんですけど、自分は長くハッピーに踊りたいので、管理をしっかりしています。アスリート並みの管理が必要だと思います。スタイルを意識するというよりは、体力作りや健康管理をしっかりしているから、自然と今のような体型になったんだと思います。


ーーファッション界でもショーアイコンとして活躍されていますが、服に関するこだわりはありますか。


リア・キム:自分の中ではルールはないです。服は自分のイメージを表現できるものだと思います。コレクションを見ているときも、独特なものにインスパイアされたり、「どうやって作ったの?」というクリエイティブなものに反応します。そういうファッションデザイナーが好きで、デザイナーの芸術的な作品として、服を所有したい、そういう服で踊りたい、写真を撮りたいと思います。独特でクリエイティブなものが好きですね。


ーーダンサーとしては最近、ナ・ユンソンさんのMVで、これまでにないアーティスティックなダンスを披露されていました。


リア・キム:常に新しいアイデアが出ていて、ダンス以外にも、ファッションやミュージカル、映画など様々なものにインスパイアされています。アーティストとして、音楽家、美術家、ファッションデザイナーともコラボできると思うし、オープンマインドなので、多様な活動をしていて、独特に見えると感じる人も多いと思います。好奇心と冒険心があるので、新しい提案をいただいたときには怖がらず、自信を持って全部やってみたいと思っています。


■肩書きは“ダンスを中心としたアーティスト”
ーー日本人ではDA PUMPのKENZOさんと共同で振り付けしたダンス動画の公開、MIYAVIさんとのコラボレーションがありました。今、日本で注目しているアーティストやダンサー、クリエイターはいますか?


リア・キム:ONE OK ROCKが日本でもすごく有名だと聞いています。韓国であったエド・シーランのライブのサポートアクトにONE OK ROCKが出ていて。ライブがすごく格好良くて、それからよく聴いています。また、菅原小春さんが昔から好きで、会ったこともあります。s**tkingzも好きだし、日本には好きなダンサーがたくさんいて、映像はたくさん見ています。あと、コラボしたある日本のアーティストがいて。映像を見たときに、才能が多彩で驚きました。楽器、ダンス、作曲も全部できる人は韓国にも少ないかと。一緒にコラボする間刺激されたし、その才能が他の人にも届けられたらなと思います。日本ではないのですが、「HandClap」という曲を歌っているFitz and the Tantrumsというバンドがいて。私がダンス動画をアップしたら、大きな反響があり、バンド側が『SEOUL JAZZ FESTIVAL』に招待してくれてコラボしました。客席の反応がとても熱かったです。


ーー日本人で言えば、TWICEのモモさんのダンススキルを高く評価していますよね。日本からダンスを学びに韓国に行く若者が増えているように思います。


リア・キム:私がトレーニングした日本の学生は、全体的にすごく慎重で真面目にレッスンを受けています。最初は韓国の練習生の方が上手いかもしれないですけど、日本の学生は安定的に成長している。以前は日本に韓国人が習いに行くという時期もあって、今はお互いに交流し、一緒に発展できているので嬉しく思います。


ーーBTSをはじめ韓国のアーティストが世界で高く評価されています。その理由について、どう考えていますか。


リア・キム:大きな理由は、トレーニングシステムじゃないかと思います。テクニカルな部分で考えると、ボーカルトレーニングや言語、ダンス、演技、楽器など、芸能事務所が支援して教育するので、もともと才能がある人がさらに成長できる環境がある。また、アルバムをリリースする過程にも短期間でハイクオリティなものが求められる。韓国には“빨리빨리(早く早く)”という国民性があって、短期間で正確に良いものを作るというのも、世界で評価される理由の一つだと思います。


ーー以前s**tkingzを取材したときに、韓国の音楽文化はダンスの存在がすごく大きくて、振り付けにあわせて、歌割りや歌詞が変わることもあると聞きました。


リア・キム:韓国では、作曲家が私に意見を求めたり、芸能事務所の方が、この曲は踊りやすいですか? と聞いてきたりします。時には「パフォーマンスを提案してくれれば、曲を少し変えますよ」と言われるくらいダンスが重要です。数は少ないながらバラード歌手やバンドもいますが、韓国では今はダンスミュージックがメインなので、ダンスが重視されていると思います。


ーー振り付けを作るだけでなく、様々なアーティストたちに指導をしていますが、気をつけていることは何ですか。


リア・キム:大事だと思っているのは3つ。体力と基本のきと表現力です。体力がないとライブしながらダンスができないし、習うこともできないから、最初はそのための運動から始まります。体力をつけて準備ができてから、ダンストレーニングをする。その後のダンスも「基本のき」からしっかり勉強してもらう。その後は表現力だけ重点的にトレーニングさせるようにしています。


ーーあえてつけるとすれば、ご自身の肩書きは何だと思いますか。


リア・キム:私はダンサーである一方、様々なアートに興味があるので、振り付けだけじゃなく、1MILLIONの映像ビジュアルも自分で手がけたり、写真を撮るときに企画したりもします。だから、ダンスを中心としたアーティストだと思います。


ーー最後にこれからの展望などを教えてください。


リア・キム:ONE OK ROCKのように、グローバルな活動をたくさんしたい。最近はパリのアーティストやデザイナーにすごく興味を持っていて、パリでも何かコラボがしたいです。また、日本の独特な雰囲気もすごく良いと思うのでコラボしたいです。これまで韓国で経験を積んできたので、今後は海外でたくさん活動してきたいですね。


(取材=鳴田麻未/構成=編集部)