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Rude-αは、新たなポップスターに? ヒップホップのみにとどまらない越境的な音楽性を分析

2019年07月01日 12:51  リアルサウンド

リアルサウンド

Rude-α『22』

 もともとはヒップホップの一要素であったはずのラップが、ひとり歩きして今はユニバーサルなスキルとなっている。こういう話をネットですると議論の対象となり「ヒップホップとは?」ということになるので控えめにしたい。しかし世界中でラップがポップな表現方法になっているのは確か。ラッパーからポップスターになる事例も数多く、現在BillboardTOP100で1位に君臨しているのも20歳のラッパー、Lil Nas Xの「Old Town Road」だ。


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 日本ではテレビ番組『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日系)が2015年に放映開始されたことで即興ラップの人気がお茶の間に達した。同番組では、多くのラッパーが紹介されたが、瞬間芸術であるフリースタイルMCで長く生き残るのは難しい。時代に響く作品を残さなくてはポップスターにはなれないからだ。


 そんな戦局のなかで、ひときわ輝きを放つ若手ラッパーがRude-α。高校生でストリートダンスとラップに開眼した彼は『BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権』の第6回大会で沖縄代表として出場し、準優勝を勝ち取った。これを足がかりにバトル大会で活躍して成りあがるルートを行くと思いきや、彼はそれを選ばなかった。かと言って、純粋にヒップホップを極めるというわけでもなく、上京してから制作やミュージシャンとのセッションに励んでいく。Rude-αが選んだのは、いちラッパーとして他の音楽と混血していく道だった。


 特にDALLJUB STEP CLUBのドラマー・GOTOとの楽曲「19」は異色のコラボで、緻密なリズム割りのビートにひるまない19歳のRude-αのラップが聴きどころ。そして彼は現在、主にバンドセットでライブをしており、生演奏ならではの空気感やグルーヴを活かしたパフォーマンスを得意としている。日本ではシーンが離れているためか、ラッパーと演奏家が出会いづらい雰囲気を感じるが、今や彼はミュージシャンたちと意思疎通できる貴重なMCのひとり。それができるのも、ヒップホップというジャンルから飛び出すことを恐れなかったからだろう。


 彼の越境的なセンスは随所で見ることができる。ひとつはカバーの選曲だ。YouTubeにアップロードされている動画だけでも、Suchmos、ASKA、FUNKY MONKEY BABYS、あいみょん、THE HIGH-LOWS、ORIGINAL LOVEなどの曲を取り上げていた。統一感はあまり感じないが、Rude-αを構成している音楽的な要素としてJ-POPが大きいことがうかがえる。彼が音楽の原体験として挙げるORANGE RANGEも、幅広い影響源から引用して作品を生み出していたが、それに似た雑食ぶりを感じる。


 また自主企画『TEEDA』の対バンの顔ぶれも面白い。これまで迎えたアーティストはAFRO PARKER、ゆるふわギャング、LUCKY TAPES、踊Foot Works、DATS、SUSHIBOYS、Michael Kanekoら。ヒップホップからロックまでジャンルを絞らず、クリエイティブなグループを指名している印象だ。この横断的な姿勢は、沖縄のコザ市で生まれ育ったことと無関係ではないだろう。今もアメリカ文化が色濃い、この地で分け隔てなく音楽やカルチャーを吸収したことが今の活動に結実したと感じる。


 そして満を持して発表されるのが、メジャーデビューEP『22』。ソウルフルなフックから2倍の速さのバースとなる「wonder」をはじめ、傾向の違う5曲が収録されている。Rude-αのラップと歌をシームレスにつなげるスタイルは、冒頭に示した世界的なポップスのスタンダード。しかし『22』はヒップホップやR&Bではなく、J-POPとして聴こえるのはなぜだろう。全体のサウンドとネイティブ風の発音が少ない明瞭なラップによるものだろうか。


 ヒップホップ以降の世界的なポップスとして日本の音楽を展開していこうとするなら、Jポップシンガーはリズムと向きあう必要がある。1つの音符に1つの言葉を当てることの多い、日本語をフロウさせるのは難しく、下手をすると単調なグルーヴになってしまうからだ。乱暴すぎるくらい簡単に考えると「バトル」は音符3つ使うが、「battle」は音符1つで済む。ケイン・コスギにはCMの撮影で「ファイト一発!」が言えずに、どうしても「fight一発」になってしまったという逸話がある。つまり日本語は音符を英語よりも多く消費する分、明確にかっこいいリズムのパターンをイメージして構築しなければいけない。


 アメリカでは幼少期から日常でラップしたりして感覚をつかむのかもしれないが、文化的に日本人はハンデがあるかもしれない。しかし近頃は、そのフロウ感覚を持っている日本語シンガーが台頭してきている。Rude-αがそのひとりとして、世界的なJ-POPシンガーになることも十分予想できるだろう。ラッパーがポップスターとして生まれる未来が日本でも近づいているはずだ。成功の最初の一歩に『22』がなることを期待したい。(小池直也)