6月30日、タイのチャン・インターナショナル・サーキットで開催されたスーパーGT第4戦。GT500クラスで白熱の戦いが展開される一方、GT300クラスでは映像に映らないなかでさまざまなドラマが展開されていた。レース後、GT300の上位を争ったそれぞれチームに話を聞いた。
■ニッサンGT-R同士のトップ争いはGAINER TANAX triple a GT-Rに軍配
今回のチャン・インターナショナル・サーキットでのレースは、このサイト内でもお届けしてきたとおりニッサンGT-RニスモGT3が素晴らしいパフォーマンスを披露してきた。予選こそHOPPY 86 MCの松井孝允が素晴らしいアタックを披露しポールポジションを奪ったものの、オープニングラップからリアライズ 日産自動車大学校 GT-Rを駆るサッシャ・フェネストラズが持ち前のスピードでトップを奪い、平峰一貴に交代してからも首位を快走していた。
もともとそのスピードを高く評価されていた平峰は、フェネストラズともいいコンビネーションを築いており、チーム力も高い。「路面が良くなったのか全体的にファーストスティントよりもタイムも良かった(平峰)」と嬉しい初勝利は目前と思われていたが、残り5~6周で急激にペースが落ちてしまった。
一方、そのリアライズ 日産自動車大学校 GT-Rを追い上げていたのは、終盤導入されたセーフティカーのリスタート時に、接触しながらもD’station Vantage GT3をかわしてきた石川京侍。「セーフティカーのタイミングなどレース展開も味方してくれました。硬めのタイヤを履いていたので、最後粘っていればどこかでチャンスが来るかなと思っていた」という千載一遇のチャンスを逃さず、平峰とのギャップを詰めていく。
ファイナルラップ、GT500クラスのマシンが平峰を抜いたタイミングで、うまく合わせた石川がこれをパス。劇的な逆転でGAINER TANAX triple a GT-Rが今季初優勝を飾ることになった。
「最終コーナーを狙っていたんですけど、最終コーナーは平峰選手も警戒してくるだろうなと思っていたので、どこかでチャンスがあればと思っていました。瞬間的にチャンスだと思ってオーバーテイクしました。平峰選手もクリーンなバトルをしてくれたので、そこは平峰選手にも感謝したいです」
石川はフォーミュラでステップアップを積んできたドライバーで、その速さはもともと評価されていたが、GT300で掴んだGAINERのシートというチャンスを確実に活かしてみせた。また、このレースの前に「ウォームアップでバランスが良くなかったので、フロントのスプリングを調整したんですが、それが当たりましたね(小笠原康介チーフエンジニア)」というチームの判断も奏功した。
また、今回GAINER TANAX triple a GT-Rとリアライズ 日産自動車大学校 GT-Rは同じニッサンGT-R×ヨコハマという組み合わせだが、小笠原チーフエンジニアによれば「違う種類のタイヤ」だというのもこの戦いを演出したファクターだろう。
今回は石川も初優勝だが、「これは結果として受け入れるしかありませんが、すごく悔しいですね。仕方ないです」というのは同じく初優勝がかかっていた平峰。一方は泣き、一方は笑ったが、今後も同じパッケージで切磋琢磨してくれるはずだ。
■ピットで順位を上げたLEON。一方GAINER TANAX GT-Rは惜しくも3位を失う
一方、レース終盤に3番手争いを展開していたのは、リスタートでD’station Vantage GT3をかわしたGAINER TANAX GT-Rを駆る平中克幸と、同じく終盤D’stationをかわしてきたLEON PYRAMID AMGの蒲生尚弥だ。
LEON PYRAMID AMGは、序盤5番手を走っていたが19周目にピットイン。この際黒澤治樹から蒲生に代わるとき、タイヤを「フロントのみの二輪交換(溝田唯司監督)」とする作戦を採った。
蒲生は非常に長いスティントを走ることになるが、そこはチーム、LEON PYRAMID AMG、そしてブリヂストンと蒲生という組み合わせ。終盤までペースを落とすことなくファイナルラップまでGAINER TANAX GT-Rを追いつめていった。
一方終われる平中は、「タイヤはずっと厳しかったんですが、GT-Rのいいところを活かして、加速とターン4でなんとか抑えていました。ファイナルラップまではそういう状態だったんですが、うしろからGT500がバトルをしながら近づいてきてしまって」と最終周の状況を明かした。
「ターン5のブレーキングで詰まってしまって、蒲生選手が外側から迫ってきてしまい、僕は外に行き場がなくなってしまったんです。ステアリングを切った瞬間にスピンしてしまいました」
GAINER TANAX GT-Rにとっては、グリップも残っておらず「まわりにヒットしてペナルティを受けるか、スピンするか(福田洋介チーフエンジニア)」という状況になってしまったのは不運だった。これでGAINERのダブル表彰台というチャンスは潰えてしまったが「10号車が勝てて良かったです。(星野)一樹さんも京侍も苦労しているのは見ていましたし、一緒に表彰台に乗れれば良かったですが、素直に嬉しいですね」と平中は語った。
■上位を争ったチームのそれぞれの戦い
一方、上位を争ったマシンたちにはそれぞれのドラマがあった。セーフティカー導入時に2番手を争っていたD'station Vantage GT3は、今回セットアップが進みトップ争いをするまでにポテンシャルを上げていた。
序盤からHOPPY 86 MCを追っていたD'station Vantage GT3のジョアオ・パオロ・デ・オリベイラは、タイヤをもたせながらペースを守り、一瞬のチャンスを狙って2番手へ。今季これまで1ポイントも得ていないチームは、優勝をもぎとるべく戦略を練っていた。
採った戦略は、ピット作業時間を短縮するべく、左側のみの二輪交換というもの。セーフティカー導入直前にピットに入っていたため、そのままリアライズ 日産自動車大学校 GT-Rの後方に出ることに成功した。
ただリスタート時、トップを狙った藤井誠暢は前にいたラップダウンに一瞬詰まり、加速に優るGT-R勢に先行されてしまった。それでもLEON PYRAMID AMGとのバトルを展開し、今季初ポイントを目指していたものの、右リヤタイヤのパンクチャーに見舞われてしまい、悔しい結末になってしまった。
トップを争っていた集団では、HOPPY 86 MCはポールポジションだったものの4位フィニッシュ。タイヤ無交換作戦は採っていたが、「予想どおりになったね(土屋武士監督)」という結果となった。筆者はグリッドで土屋監督と話していたが、そのとき出ていた予想順位が4位だったのだ。
「ここは速いクルマが何台かいて、無交換や二輪交換をするチームが多いと思っていた。タイでウチが速いイメージがあるのは、松井孝允がいるだけなんです。クルマで勝つのは至難の業」という。
ちなみに、HOPPY 86 MCにとってポジティブな要素としては、タイヤ開発がさらに進んだこと。そして土屋監督はこうも言う。
「ひとつみなさんに言いたいのですが、よく『MCは直線も速い』と言われますが、直線も速いクルマはストレートで抜かれませんよねと(笑)。スタート直後も一切ミスはしていないですから。直線が速いのではなく、ペラペラなダウンフォースで走って、ストレートエンドが伸びるようにしている努力を知ってほしいです」
そして同じくタイヤ無交換作戦を採ったのは、序盤トップ10圏内を争ったグッドスマイル 初音ミク AMGだった。ただ、LEON PYRAMID AMGと同時期にピットインを行おうとしたものの、「そうしたらどんどん前を走っているクルマがピットに入ったので、前が開けた(河野高男エンジニア)」と空いているスペースができていった。
もともと無交換作戦ならば、終盤までピットインを遅らせて燃料搭載量を減らす方がタイヤには優しい。そんななかでGT500クラスのアクシデントが起きるのだが、「セーフティカーにはならないと思った」とピットインのタイミングを逸してしまう。わずかなタイミングのズレで、グッドスマイル 初音ミク AMGにとっては機会を逸することになってしまったのだ。
ちなみに、このチャン・インターナショナル・サーキットでのスーパーGTでセーフティカー(SC)が導入されるのは、この2019年大会が初。もともとランオフも広いコースなので、SCが出づらかったのだ。
上位陣にはさまざまなドラマがあったスーパーGT第4戦タイ。結果的にトップ争いはGT-R同士の争いとなったが、その他にも多くの見応えがあるレースとなった。