2019年07月01日 10:31 弁護士ドットコム
「朝、駐車場で子どもを騒がせるな。静かにさせろ。できなければ何があっても文句を言うな」。こんな手紙を幼稚園児宅の郵便ポストに投函した70代の男性が、脅迫の疑いで逮捕された。
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産経新聞(6月10日)によると、男性は送迎バスを待つ幼稚園児の声に腹を立て、以前から「声がうるさい」と園児が住むアパートに苦情を入れていたという。「脅迫文として投函したわけではない」と容疑を否認しているそうだ。
法的にはどこからが「脅迫」に当たるのだろうか。泉田 健司弁護士に聞いた。
ーー刑法の条文は、どうなっていますか。
刑法222条1項は、「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する」と規定しています。これが脅迫罪の条文です。
刑法の条文では、人に対して害を加える旨を告知したか、が条件になっています。このことを、法律用語で「害悪の告知」といいます。
ーーどのようなことを言えば、「害悪の告知」となり、脅迫罪に該当するのでしょうか。
「殺すぞ」は、典型的な害悪の告知であり、脅迫罪に当たります。
「犬をほえさせるな、さもないと犬を殺すぞ」は、犬という財産に対して害を加えると言っていますので、脅迫罪に当たります。犬は、動物ですが、法的には、「物」です。
「村八分にするぞ」。村八分は名誉に対する害悪の告知として、脅迫罪にあたると考えられています(1957年9月13日、大阪高裁判決)。
「刑事告訴するぞ」は、権利の行使として正当であるならば罪に当たりませんが、適当なことを言った場合には、脅迫罪に当たることがあります。
「天罰が下るぞ」は、現実的な害悪ではないので、脅迫罪には当たりません。
「宿題しなさい、できるまで晩ごはん抜き!」。これが脅迫罪にあたると考える人はいないと思います。
ーーポイントはどのような点になるのでしょうか。
結局、害悪の告知は、一般に人を畏怖させるに足りる程度のものでないといけません。
また、「殺すぞ」「痛めつけるぞ」というのは直接的で分かりやすいですが、暗にほのめかす態様の場合にも、脅迫罪に当たることがあります。「おまえ、どうなるか分かってるよな!」とすごむ行為も脅迫罪に当たるでしょう。
ーー今回の事件は「何があっても文句を言うな」と書いた手紙が自宅に投函されました。
これは、直接的ではありませんが聞いた人は、何かされると感じるでしょう。とくに、子どもになにか危害が加えられると感じるのではないでしょうか。ですから、一般に人を畏怖させるに足りる程度といえ、脅迫罪に当たると思います。
もちろん、脅迫罪は、殺人罪や強盗罪のような重罪とは違います。そのため、罪に当たるからと言いって、必ずしも逮捕されるとは限りません。今回、逮捕にまで至っているのは、子どもに危害を加えることをほのめかしていることが重視されたのではないでしょうか。おそらく、この件は、前科にもよりますが、被疑者が認めれば、重くても略式裁判で罰金刑ではないでしょうか。
子どもが騒がしいとき、イライラする人と、ほほえましく見守る人とふた通りに分かれると思います。イライラしてしまう人は、その騒いでいる子供ではなく、ほかに何か原因がある場合が多いと思います。このような極端な行動をとれば逮捕もありうるということで、イライラしがちな人は戒めとしてください。
【取材協力弁護士】
泉田 健司(いずた・けんじ)弁護士
大阪弁護士会所属。大阪府堺市で事務所を構える。交通事故、離婚、相続等を中心に地域一番の正統派事務所を目指す。
事務所名:泉田法律事務所
事務所URL:http://izuta-law.com/