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ホンダNSX-GT、悪夢のような3台同士討ちはどうして起きたのか。3ドライバーのコメントで状況を振り返る

2019年07月01日 03:01  AUTOSPORT web

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7コーナーで接触してしまったRAYBRIGとMOTUL NSX-GT、そしてARTAのホンダNSX3台
ホンダファンにとっては目を覆いたくなるようなまさかの同士討ちがスーパーGT第4戦タイの決勝、37周目の7コーナーで起きてしまった。しかも、3台のホンダNSXが絡んでしまうクラッシュで、このアクシデントで2台がリタイア、1台が14周遅れのチェッカーとなってしまった。ホンダNSX3台による同士討ちはどのような状況で起きてしまったのか。

 スーパーGT第4戦の決勝34周目に16号車MOTUL MUGEN NSX-GTはピットインしてステアリングを中嶋大祐が握り、その翌週の35周目には1号車のRAYBRIG NSX-GTが山本尚貴からジェンソン・バトンに乗り替わるピットインを行っていた。

 アクシデントが起きたのは37周目。MOTUL NSX-GT、RAYBRIGより前にピットインを済ませていたARTA NSX-GTの野尻智紀の前に、16号車が入り、その翌周、1号車がコースインして間に入る形になった。1号車のバトンはまだウォームアップ走行中だ。バトンが振り返る。

「僕がマシンに乗り込んだときフィーリングは問題なかった。タイヤがまだしっかり温まっていないタイミングでGT300のGT-Rに引っかかったんだ。ターン5だったかな」(バトン)

 GT300のマシンに引っかかったのを、後方の#16中嶋大祐は見逃さなかった。すぐに5コーナーで並び掛かり、2台は並走する形で6コーナーを過ぎて、高速の右コーナーの7コーナーに向かっていった。

「ちょうど1号車が5コーナーの立ち上がりでGT300のGT-Rに引っかかる形で、そこで僕が外から行って6コーナー先で一瞬、僕が前に出る形になったんですけど、7コーナーでインに入ったときにまだ外にジェンソンがいるのが見えました。これはぶつかると思ってアクセルを抜いて引いたんですけど、もともとの(自分の)ラインが内側で無理があるので姿勢を乱しつつ、2台で当たってしまうような形になってしまいました」(中嶋大祐)

 一方のバトンもクラッシュまでの状況を振り返る。

「(前を走っていた)ナカジマさんはアウトからGT300をオーバーテイクしていき、僕はターン7でGT300を抜こうとした。問題だったのはターン7が高速コーナーだったことと、(16号車と)位置取りが離れていたこと。僕の左(アウト)側にはあれ以上のスペースはなかったんだ。お互いがターンインしていく角度もよくなかった。その結果、ぶつかってクラッシュしてしまった」とバトン。

 さらにホンダ陣営にとって不運だったのが、この2台の直後に#8のARTA野尻が付けており、2台が接触した隙を狙ってインに入ったところ#16のMOTUL NSX-GTに接触してしまい、クラッシュしてしまったことだった。野尻が振り返る。

「あの7コーナーで2台で並んで入っていくのは角度的に窮屈だし、位置関係としては1と16は並んではいましたが、僕からは当たるような雰囲気もありました。ただ、僕としては中嶋選手がスピン状態でインに撒いてくるとは思っていなかった。2台が外に行くと思ってクロスラインを狙って細心の注意を払ってインに切り込んでクロスを狙っていきました」

「インに入ったところで16号車がインに巻いてきた感じになって、僕のフロントが(16号車に)引っかかって、ぶつかってしまいました。もうちょっと後ろだったら……もうちょっと前だったら避けられたかもしれない」とクラッシュを悔やむ野尻。

「(バトンと)当たったあとの動きはよくわからないですけど、8号車はもう本当にもらい事故というか、可哀想な形のクラッシュになってしまいました」と話すのは中嶋大祐。

レース後、チーム同士、そしてドライバー同士それぞれ長い時間をかけて話し合いを行ったホンダ陣営

 結果として、ホンダNSX3台のクラッシュになり、ARTAはその場でマシンを止めてリタイア。MOTUL NSX-GTは右フロントのサスペンションが折れ、ガレージにマシンを戻したが再スタートはできなかった。また、RAYBRIGは一時コース上にマシンを留めていたがピットイン。リヤウイングが破損しており、その修復を終えてコースに戻ったが10周以上のラップダウンとなり、実質レースを終えていた。

 レース後、コントロールルームに中嶋大祐が呼ばれ、結果としてドライブスルーペナルティが課されることになった。レース後、コントロールタワーから返ってきた中嶋大祐が話す。

「RAYBRIGのチームの方とホンダの方たちと話をして、僕は相手が悪いと思っていませんし、レーシングアクシデントだったと思っているんですけど、裁定としては自分にペナルティが出てしまいました。裁定は尊重しますし受け入れますけど、ペナルティを受けたということは100パーセント自分が悪いということになるので、悔しいですね。当事者同士としては話をしていますので(遺恨のようなものは)ないと思っています」と大祐。

 野尻も「あの状況なら、10人中8人のドライバーはクロスラインを狙って内側に切り込んで加速で抜こうとするはずですので、僕が間違った判断をしたとは思わないですけど、もしあそこで一歩引いていたらとも思うし、でも、それをしたらレースではないなと思う」と話せば、バトンもすでに気持ちを切り替えているようだ。

「最悪と言えるようなアクシデントがあったし、とにかく今日はタフな1日だった。チームメイト、同じホンダ同士でクラッシュしたいなんて誰も思わないからとにかく残念だけど、これもレースだ。僕たちは限界ギリギリでレースをしているわけだし、クラッシュしてしまうこともある。そうならないよう細心の注意を払っていてもね。とにかく同じことを起こさないように努力し続ける。いつかまた起きてしまうかもしれないけど、できるだけ避け続けるよ」とバトン。

 ホンダの佐伯昌浩GTプロジェクトリーダーも、今回は開幕戦での同士討ちとは事情が異なるとの感想を述べた。

「開幕戦(の同士討ち)とは違い、今回はペナルティが出たとしても見てるなかではクリーンな戦いをしているなかでの接触からの巻き添えみたいな形で、GT300を処理しているところでのタイミングだったので難しい状況だったと思います。この結果を受けて何かすることはありません。特に次回のレースもいつもどおりです」と佐伯氏。

 ホンダNSXの、まさかの3台同士討ちというショッキングなアクシデントが起きてしまったスーパーGT第4戦タイの決勝レースだが、3台のチーム、ドライバーともレース後にそれぞれかなりの時間、話し合いを行い、ホンダ陣営内では遺恨はなさそうだ。むしろ、今回の接触よりも一時、下位5台がホンダNSXで並んでしまった決勝でのパフォーマンスの方が、可及的課題かもしれない。