2019年06月29日 09:51 弁護士ドットコム
「パパはいつ帰ってくるの」。家族が逮捕され、突然いなくなったことに戸惑い、傷つく子どもたち。中には不登校になったり、精神的に不安定になったりする子どももいる。親やきょうだいが起こした事件に巻き込まれた子どもたちのために、なにができるのだろうか。
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加害者家族を支援するNPO「World Open Heart(WOH)」(本部・宮城県仙台市)が6月23日、当事者となった家族に向けた勉強会を都内で開催。
WOH理事長の阿部恭子さんのほか、韓国で受刑者家族の子どもたちを支援する「児童福祉実践会セウム(セウム)」の李京林さんなどが参加。韓国でおこなっている支援について語り、家族や専門家が耳を傾けた。(編集部・吉田緑)
勉強会では、息子が事件を起こしたという加害者家族の女性も体験談を語った。女性には息子以外に2人の娘がおり、事件当時、長女は大学生、次女は中学生だった。
「逮捕された日、家は報道陣に360度囲まれました。引っ越した先にも報道陣が現れ、子どもたちをどのように報道の目から守っていくかで悩んだ」と女性は当時を振り返った。
突然、事件に巻き込まれ、一変する日常。阿部さんによると、次々と起こる出来事に心身ともに疲弊する加害者家族も少なくないという。
女性も体調を崩し、仕事ができなくなり、経済的に困窮。長女はアルバイトを始めたが、高額な学費を払うことはできず、大学3年で退学した。
子どもたちは、刑務所の雰囲気やきょうだいとのアクリル板ごしの面会にもショックを受けたという。「日本の司法制度、刑務所の中のことなど、子どもたちと情報を共有し、痛みを分かち合いながら今日ここまで来ている」と女性は語った。
「韓国では、日本よりも子どもたちへの支援が進んでいる」と阿部さんは話す。
セウムでは医療費や住居費、面会に行くための費用などの経済的なサポートをはじめ、子どもに対するケア、面会の同行などの支援をおこなっているという。学生のメンターが子どもの学習をサポートすることもあるようだ。
セウムが受刑者家族の子どもたちへの支援を開始したのは2015年。「当時は政府の関心はなく、子どもたちを支援するための制度もなかった」と李さんは話す。
しかし、セウムの活動などにより、徐々に子どもたちへの支援の必要性が認識されるようになったようだ。
李さんによると、未成年の子どもと面会する受刑者は「受刑服ではなく普段着を着用すべき」とする指針が2017年に示されたほか、受刑者と未成年の子どもが面会する場合は接触ブロック設備のない場所(アクリル板による仕切りがなく、子どもと触れ合うことができる場所)でおこなうことができるとするなどの法改正が今年4月におこなわれたという。
また、家族面会室の設置を進めている刑務所もあるようだ。中には、おもちゃを置いたり、家のような造りにしたりするなど、子どもに優しい雰囲気の家族面会室を設置する刑務所もあるという。
WOHでは家族が受刑してからではなく、事件が発生してから支援をおこなっている。難しいのは、子どもたちに真実を伝えるかどうかだ。
阿部さんは「判決が出るまで先のことは誰にも分からない。中には、報道されない事件もある。子どもたちに事件のことを告知すべきかはケースによる」と語った。