■蒼井優と菊池亜希子の偏愛たっぷり。12人12色の魅力がつまった『アンジュルムック』
「ダンスもそこそこ、歌もそこそこ、だけどなんか許されてるみたいなのは好きじゃない。」(竹内朱莉/『アンジュルムック』より)
ハロー!プロジェクト所属の12人グループ「アンジュルム」。熱狂的なファンである蒼井優と菊池亜希子がダブル編集長をつとめたアーティストブック『アンジュルムック』が発売早々4刷となり、既存ファンに限らず話題を呼んでいる。
書籍の発売が発表された当初、アンジュルムオタク界隈は興奮を隠せなかっただろう。なぜなら、いつも静まり返ったライブの関係者席でペンライトを振りかざし、バラエティー番組やパーソナリティーをつとめるラジオ番組ではオタトークを繰り広げる、オタク側である2人はどんな素敵な物を作り上げるのか、と。「普段の仕事でもこれだけ情熱とプライド、恐れと愛を持って自分を追い込めるか考えちゃうほど、魂を込めました」と他インタビューで答えているように、企画出しやラフ作成、撮影のディレクションや衣装決めなど細部まで関わり、「情熱なめんじゃねえ」と言わんばかりの力作に仕上がっている。
6月18日には結成時から15年間リーダーをつとめ、唯一の初期メンバーであった和田彩花が卒業した。大きな愛を持ってグループを牽引した功労者の卒業は、ファンだけでなくメンバーも思い入れが強かった。そんなタイミングでの初のアーティストブック。本誌に2人は全く登場せず、あくまでも主語はアンジュルムという徹底ぶり。10にも及ぶ企画は12人12色の魅力が様々な角度からとりあげられ、それぞれスタッフも異なる熱の入りよう。公式Instagramには2人のアンジュルム愛が綴られている。
■順風満帆ではなかった。力強い彼女たちを作った長い道のり
<何にも惑わされずに どんな時代にも流されずに>(アンジュルム“大器晩成”)
『アンジュルムック』をきっかけにアンジュルムが気になり始めた方々に向けて、改めてグループを紹介したい。ハロー!プロジェクトに所属するアーティストでは、モーニング娘。に続いて2番目の歴史あるグループとなったアンジュルム。決して順風満帆ではなく、紆余曲折の歴史が美しく、力強い彼女たちをつくった。
2009年に前身「スマイレージ」として結成。翌年『夢見る15歳』でメジャーデビュー、同年『日本レコード大賞』最優秀新人賞を受賞し華々しいデビューを飾った。しかし相次ぐメンバーの脱退や47都道府県ライブハウスツアーを敢行するなど、「どん底時代に戻らないようにしたい」と現リーダー竹内朱莉が語るほど辛く苦しい時代を過ごす。2014年にグループ名を「アンジュルム」に改名。以前コラムにも書いたように既存のアイドル像にとらわれず、オシャレでカッコいい風貌も相まってライブ会場には女性ファンも多い。
アンジュルムの魅力とは一体なにか。非常に個人的見解ではあるが、歌詞やメンバーの言葉を手掛かりに『アンジュルムック』を読んで改めて再確認したアンジュルムの魅力を堂々とお伝えしたい。
■アンジュルムにいて「やっと自分になれた」。「あやちょの部屋」で語られた言葉
<誇れLike it! 堂々とLike it!>(アンジュルム“タデ食う虫もLike it!”)
紆余曲折と言ったように、彼女たちは初めから現在のようなカッコいい印象ではなく、スマイレージ時代の「日本一スカートの短いアイドルグループ」というキャッチフレーズの通り、かわいらしい楽曲が見事にはまる正統派なアイドルだった。
しかし、改名する際にひとつの転機が訪れる。それはつんく♂がプロデューサーから外れたことだ。つんく♂の存在がなくなった時「ものすごく自我が芽生えた」と和田は話す。アイドルとは受け身につくられているイメージが強いが、そうでなくてもいい。誰かの視線にとらわれず自分の“好き”に正直に、自分らしくいることの大切さとよろこびを和田はたびたび発信した。
個性に合ったヘアメイク、メンバーそれぞれ異なる衣装、グループ以外での活動。「こうなりたい」と思い描く自分の道を突き進む姿は力強い楽曲やグループの個性として表出し、かわいらしさから「クールさ」が目立つグループに変貌していった。そうしてメンバーの個性も花開き、たとえばファッション好きな勝田里奈はメンバーの舞台衣装をスタイリングするなど新たな場面で輝き始めている(6月26日に勝田はファッション関係の仕事に携わる夢をおいかけるために、9月で卒業することを発表した)。
「アンジュルームへようこそ」では、メンバーそれぞれが好きなこと、チャレンジしたいことに取り組んだ。ロリータファッションやショートヘアなど女の子らしいチャレンジもあれば、きゅうりでできることを考察する(しかも前夜遅くまで蒼井がかわいいきゅうりを追い求めて切ったもの)など、好きに正直な姿が色濃く反映されている。
「あやちょの部屋」でも、多くのメンバーがアンジュルムにいる喜びのひとつとして「やっと自分になれた」と語った。「自分になる」――それは人前に出る職業である以上簡単なことではないが、意志を持って信じた道を貫く大切さを伝え続けた和田イズムが活きた、アンジュルムを象徴する言葉だ。
■12人いれば、12通りの「かわいい」がある。受け継がれる和田の美学
<誰も彼もきっとちがう同士 わかんなくても当然ダイバーシティ>(アンジュルム“46億年LOVE”)
卒業時に「アンジュルムにいて、みんな違っていいんだと気付かせてくれた」と語った和田。「自分の感性を出すってとっても素敵なこと」「自分の好きと思う気持ちを大切に」など、和田の美学はグループの支柱となり加入後のメンバーの変貌ぶりには目を見張るものがある。
たとえば、最年少メンバー15歳の笠原桃奈に対する言葉。リップの色が濃いとファンに指摘された笠原に対して、和田は「好きなリップを塗りなさい」とメッセージを贈った。たったそれだけのことでも気付きは大きい。視線にさらされ続けるアイドルにとってファンは大切な存在だが、歩み寄ることだけが正解ではない。自身を強く持つことで、より素敵なアイドルになることだってあるはずだ。
彼女たちが輝きを増していく理由。それは、互いを認め合い刺激を受けるグループだからこそと再確認した企画が「あの子のチャームポイント」だ。
12人いれば、12通りの「かわいい」がある。メンバーが互いのチャームポイントを褒め、自身でもチャームポイントを褒め、ヘアメイクの草場妙子によって個の魅力が引き出されたメイクがほどこされている。12人の表情から「人はそれぞれ魅力が必ずあるんだよ!」というメッセージが伝わってきて、私も私を褒めたくなった。
■変わり続けることを恐れない。家族でも親友でも仲間でもある、12人の同志感
「いい意味で私を忘れて、みんなが好きと思う気持ちを大切にできるグループであれば、どんな形でもいいんじゃないかな」(和田彩花/『アンジュルムック』より)
和田はたびたびこうも言った。「今のアンジュルムが完成形ではないから、変わり続けてほしい」。スマイレージのかわいらしさも、アンジュルムのカッコよさも、その時々に自分たちがなりたいグループに向かって変化を恐れず突き進んできた彼女たち。バッサリと髪を切ってしまったり、私服がうんと派手になったり、わかりやすい見た目の変化もあれば「君のとなりにアンジュルム」でメンバーそれぞれが選んだ歌詞にあるように、精神的にも変化を恐れず野望を抱くプロ魂を感じる。
半年前に加入したばかりの伊勢鈴蘭も<夢を抱くのが仕事なら 遠慮なんてしないから>(“エイティーン エモーション”より)という、攻めて守って戦うアンジュルム精神あふれる歌詞を選び、半年の濃厚な成長ぶりを垣間見せた。
きっと、チームワークの良さが変化を乗り越えていく強さを生んでいるように思う。「1泊2日の旅じゅるむ」では、12人全員でのお泊まり会の様子がおさめられている。メンバーに写ルンですを渡して撮り合ってもらったオフショット、ステージ上よりもすこし穏やかではっちゃけた笑顔に、家族でも親友でも仲間でもある、同志感を感じ胸が熱くなった。
ファッション、ヘアメイク、食事や振る舞い。些細なことひとつでも日常を自分らしく彩ることで、今いちばんの輝きが放たれるのかもしれない。12人12色のカラフルなきらめきを切り取り、日常に昇華した『アンジュルムック』を通して改めて、そんな毎日を体現している彼女たちの魅力を再確認した。
■和田彩花の卒業公演に見た、「今が最高」を更新し続ける姿
もちろん、ステージに上がったメンバーも最高にカッコいい。日本武道館で行なわれた和田彩花卒業公演では重ねてきた歴史やメンバーに思いを馳せながら、新たなダンスナンバーも披露。凛々しく大人びて時おり少女のように無邪気に笑う、ひとつにとらわれない自由な姿は美しい女性そのもので、「今が最高」を更新し続ける人たちだと実感した。
卒業公演定番のドレスは、和田らしく白いパンツスタイルで登場。ひとり歌い終え、無音の中武道館中央のランウェイを闊歩する姿は「明日からは和田彩花として生きますね」という言葉と重なった。「よく食べて、よく寝て、お互いやるべきことをやりましょう」。何事にも真剣に取り組む真っ当な人こそ、大きな夢を叶えるのだろう。
和田はCD手渡し会で哲学的なメッセージをファンに残すことで知られる。中でもハッとさせられたのは「私は笑いながら夢は世界平和という。聞きやすいように笑いながらいうけれども、本当にそれを願っているしそれが私の夢」。彼女たちは常に笑いながらも、アイドル的なあり方にしばられず「自分らしく生きるって、楽しい!」を体現する。そんな姿は多くの人々を勇気付けるはず。『アンジュルムック』で、ライブで、楽曲で、その姿を目撃してほしい。
(文/羽佐田瑶子)