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ホンダ浅木泰昭PU開発責任者インタビュー(2):当初は他部門からの助けにスタッフが反発も、「いきなりの改善に雰囲気が一変」

2019年06月28日 07:11  AUTOSPORT web

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マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)
ホンダは第8戦フランスGPに3人のドライバーに『スペック3』のパワーユニット(PU/エンジン)を投入したのに続いて、第9戦オーストリアGPでは、アレクサンダー・アルボン(トロロッソ)にも投入することを発表した。これでホンダがパワーユニットを供給する4人全員にスペック3が投入されることになる。

 このスペック3はHRD Sakura(栃木県の本田技術研究所)だけでなく、埼玉県和光市の航空機エンジンR&Dセンターにある航空エンジン研究開発部門が有する知見と技術が入っている。

 F1第8戦フランスGPには、2018年の1月からHRD Sakuraのセンター長としてF1のパワーユニットの開発を率いている浅木泰昭氏が訪れていた。その浅木センター長に航空エンジン研究開発部門との協力関係について聞いた。


――ホンダのターボチャージャーは、IHIさんとも共同で開発しています。今回の航空エンジン研究開発部門の知見は、それとは別なのでしょうか。
浅木泰昭センター長(以下、浅木センター長)IHIさんと共同で開発しているのは空力設計の部分で、ターボそのものの形状(タービンのファンや渦巻き形状)とコンプレッサーです。それ以外のモーターとシャフト、そして軸受(ベアリング)はホンダで開発しています。

 航空エンジン研究開発部門にサポートしてもらったのは、ホンダ側で開発するべき部分なので、IHIさんとは今後もこれまで同様、共同で開発していきます。

――航空エンジン研究開発部門の知見とは、例えばどういうものだったのでしょうか。
浅木センター長:これだけ長いシャフトをこれだけの高回転で使用することは市販車ではあり得ないのですが、航空エンジンは元々、高回転、高温で使用しつつも、人命に関わることなので、圧倒的な信頼性を要求されます。そういう環境のなかで開発しているので、その部分に関しては知見を持っていましたし、シミュレーション技術も非常に精度が高い。

 航空エンジン研究開発部門以外にもさまざまな部分で知見を持ち寄ってオールホンダでF1を戦っていますが、それがどこかは話せる時期が来たら、お知らせします。

■HRD Sakuraエンジニア達からの反発とこれから
――ほかの部署からサポートを得ることに対して、HRD Sakuraのスタッフからの反発はなかったのですか。
浅木センター長:いい意味でエンジニアというのは、プライドがあります。逆にないようではいけません。だから、自分たちが困っているからといって、ほかの部署の知見を取り入れるにあたって“ちくしょー”と思う気持ちがなかったと言ったら、嘘になります。

 私がHRD Sakuraに赴任したとき、ホンダは新しいコンセプトにしたパワーユニットに苦しんでいて、マクラーレンからプレッシャーを受けていました。ホンダのなかにも、ホンダはなぜF1をやっているのか、お金を使ってブランドイメージを落としているだけじゃないかという辛い時期でした。

 そこでセンター長が集まる定例会で足りない部分を正直に話し、助けてもらうことにしました。サポートしてもらったら、いきなり正解を出してきたので、われわれHRD Sakuraのスタッフたちの雰囲気も変わりました。

――では、航空エンジン研究開発部門のスタッフの皆さんに、HRD Sakuraのスタッフ方々は感謝しているんですね。
浅木センター長:当然、感謝しています。もし、あのままMGU-Hが壊れ続けていたら、レッドブル・レーシングとも契約できていなかったと思います。

 今回は航空エンジン研究開発部門から技術と知見をいただきましたが、今後は人を移動させて経験を積むことで異なる部門で身につけた知見を生かすことも考えています。