2019年06月27日 17:22 弁護士ドットコム
ストーカー被害にあっていた30代女性の警護中、わいせつな行為をしようとしたとして、静岡県警の男性警察官が6月1日に逮捕、同21日に起訴された。男性警官は容疑を認めているという。停職6月の懲戒処分を受け、依願退職した。
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報道によると、男性は身辺警戒の任にあたっており、一人で女性宅を訪問。相手をベッドに押し倒すなどしたという。
男性の逮捕容疑は「強制わいせつ未遂」と「特別公務員暴行陵虐」。しかし、前者については不起訴となっており、後者のみでの起訴となっている。
市民を守る立場の警察官が、あろうことか立場を利用してストーカー被害者をさらに傷つけてしまった今回の事件。聞きなれない表現だが「特別公務員暴行陵虐罪」について、本間久雄弁護士に聞いた。
ーー「特別公務員暴行陵虐罪」はどんなときに適用されるのでしょうか?
「特別公務員暴行陵虐罪は、刑法195条1項で次のように規定されています。
『裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者が、その職務を行うに当たり、被告人、被疑者その他の者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたときは、七年以下の懲役又は禁錮に処する』
本罪の実行行為は、『暴行又は陵辱若しくは加虐の行為』です。
『暴行』とは、人の身体に対する不法な有形力の行使のことをいい、『人の身体』に直接に有形力を加えること(直接暴行)だけでなく、それにより間接的に一定の人に物理的・心理的に感応を与えるようなものであれば、『物』に対して加えられた有形力(間接暴行、たとえば、着衣を破るなど)でも、暴行に含まれるとされています。
『陵辱・加虐』の2つは明確に区別できる概念ではなく、2つまとめて暴行以外の方法で精神的または身体的に苦痛を与える行為であるとされています。
たとえば、わいせつな行為をしたり姦淫したりすること、食事を与えなかったり睡眠を妨害したりすることなどが『陵辱・加虐』の具体例だとされています。
本罪は、職務違反行為を処罰する趣旨で設けられた規定であることから、職務違反となるか否かは被害者の意思、同意の有無とは直接関係がないとされています」
ーー罪を犯した警察官はいつも「特別公務員暴行陵虐罪」に問われるということですか?
「条文では『その職務を行うに当たり』との限定が付されていることから、本罪が成立するためには、『裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者』が職務を行う機会になされる必要があり、職務の執行に関係しない暴行陵虐行為は本罪にはあたりません」
ーー「7年以下の懲役または禁錮」とありますが、実際はどの程度の罪になるのでしょうか?
「警察官や刑務官等のわいせつ行為に起因して本罪で起訴されて有罪となったケースの殆どで実刑となっています。
たとえば、名古屋地裁平成17年1月13日判決は、刑務支所内で看守の職にある者が被収容者の女性に対して姦淫行為に及んだ事例です。
被収容者の女性は、姦淫行為に対する同意があったものの、刑務官の職務の適正に対する国民の信頼を著しく失墜させるものであって、職務に精励する一般の刑務官の志気のみならず社会に与えた悪影響も相当に大きいという事情が考慮され、懲役3年の実刑となっています。
今回のケースは、被告人である元警察官が、ストーカー被害者の警護中であったことと、新聞記事から判断するに被害女性の同意がなかったと思われることから、その悪質性に酌量の余地はなく、実刑はほぼ免れない事案だと思います」
ーー「強制わいせつ未遂」については不起訴になっているそうです
「事実関係及び法定刑が本罪(特別公務員暴行陵虐罪)とほぼ同じであることから、強制わいせつ未遂の不起訴が量刑に与える影響は少ないものと思われます。
大阪地裁平成5年3月25日判決は、警察官が職務執行中に所持品検査を装って15歳の少女に対してパトカー内等でわいせつ行為に及んだ事案ですが、主犯格の元警察官に対して懲役2年、部下の元警察官に対して懲役1年の刑が下されています。
これとの対比、わいせつ行為については未遂的態様であること及び近年の性犯罪に対する厳罰化の傾向に鑑みると、懲役2年前後の刑が下されるのではないかと思われます」
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【取材協力弁護士】
本間 久雄(ほんま・ひさお)弁護士
平成20年弁護士登録。東京大学法学部卒業・慶應義塾大学法科大学院卒業。宗教法人及び僧侶・寺族関係者に関する事件を多数取り扱う。著書に「弁護士実務に効く 判例にみる宗教法人の法律問題」(第一法規)などがある。
事務所名:横浜関内法律事務所
事務所URL:http://jiinhoumu.com/