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『スマブラSP』で『バンカズ』の歴史詰め込まれた「クルクルやまのふもと」セルフアレンジ公開

2019年06月27日 07:11  リアルサウンド

リアルサウンド

大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL

 『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』(スマブラSP)に、1998年発売のNINTENDO64用ソフト『バンジョーとカズーイの大冒険』のキャラクター、クマのバンジョーとトリのカズーイの実装が決定。公式サイトで「クルクルやまのふもと」が視聴可能になっている。この楽曲は、オリジナル版を担当したGrant Kirkhope(グラント・カークホープ)が新たにセルフアレンジを担当。バンジョーとカズーイのこれまでを踏まえたと思しき楽曲に仕上がっている。


(参考:祝『スマブラSP』参戦! 箱庭アクションの傑作『バンジョーとカズーイの大冒険』を振り返ろう


 その説明をする前に、まずは今回の実装の経緯をまとめておきたい。先だって公開された告知動画には、バンジョーとカズーイの実装を待ちわびる『ドンキーコング』シリーズの登場キャラクター、ドンキーコング、ディディーコング、キングクルールが登場し、2人の実装に歓喜する姿が収められていた。これはなぜか。まずはここに、とても重要な意味がある。


 というのも、『バンジョーとカズーイの大冒険』を開発したレア社は、もともと任天堂が株を保有していた開発会社で、スーパーファミコン時代から『ドンキーコング』シリーズの開発を担当。カズーイとコンビを組む前のバンジョーが初めてゲームに登場したのも、実は同社によるNINTENDO64用ソフト『ディディーコングレーシング』であり、もともと2作品は距離の近い「兄弟」的な関係にあった。


 ところが、レア社は2002年に任天堂から、Xboxの販売をはじめたばかりのマイクロソフトに売却。それ以降『ドンキーコング』の版権は任天堂が、『バンジョーとカズーイ』の版権はマイクロソフトが保有し、19年間もの間、任天堂の作品にバンジョーとカズーイが登場することはなかった。つまり今回の実装は、かつて権利の関係で引き離されてしまった作品のキャラクターたちが、時を経てふたたび出会う「奇跡の再会」としての側面があるのだ。日本版の告知動画のタイトルが「仲間たち」になっているのも、そうした経緯ゆえ。2社間の協力によって実現した今回の再会は、様々なタイトルから人気キャラが集結する『大乱闘スマッシュブラザーズ』だからこそと言える。


 そうした今回の実装に際して、オリジナル版の作曲者であるGrant Kirkhopeがセルフアレンジを施したのが、今回公開された「クルクルやまのふもと」だ。Grant Kirkhopeはイギリス生まれ、現在はアメリカの市民権を獲得しているゲーム音楽家で、バンド活動を経て1995年にレア社に入社。同社では『バンジョーとカズーイの大冒険』や『ゴールデンアイ 007』『パーフェクトダーク』などの音楽を手掛け、現在はフリーランスとして活動している。ちなみに、彼は『バンジョーとカズーイの大冒険』と『バンジョーとカズーイの大冒険2』で複数の登場キャラクターの声を担当しており、同時に『ドンキーコング64』でもドンキーコングの声を担当していた人物。つまり、彼自身も今回の再会に大きく関係のある人物であり、そんなキーマンのひとりによって時を経て再アレンジされたのが、今回の楽曲となる。


 もともとオリジナル版の「クルクルやまのふもと」は、ゲームのスタート地点となる同名ステージで流れる楽曲で、バンジョーで演奏される、ゆったりとしたテンポのカントリー風のサウンドに、牧歌的なメロディと鳥のさえずりや動物の鳴き声を乗せた楽曲だった。また、『バンジョーとカズーイの大冒険2』の同ステージでアレンジされた際には、バンジョーの要素を取り除き、よりテンポを落とした楽曲に変化していた。今回のセルフアレンジ版では、1作目『バンジョーとカズーイの大冒険』のオリジナル版に通じる雰囲気をバンジョーを使って再現しつつ、よりテンポを速めることで、『大乱闘スマッシュブラザーズ』らしい非常に賑やかな雰囲気を表現。途中で加えられるストリングスも印象的なものになっている。


 とはいえ、この楽曲の最大の聴きどころは、注意深く聴いていくと、『バンジョーとカズーイの大冒険』と『バンジョーとカズーイの大冒険2』から、様々な楽曲の要素を引用しているように感じられることだろう。まずは序盤、「クルクルやまのふもと」のメロディの裏でそっと加えられているのが、琴楽器によって表現されたと思しき「おたからザクザクびーち」(『バンジョーとカズーイの大冒険』)のメロディの一部。他にも「フローズンズンやま」(『バンジョーとカズーイの大冒険』)、「グランチルダのとりで」(『バンジョーとカズーイの大冒険』)、「マヤヤンしんでん」(『バンジョーとカズーイの大冒険2』)、「サビサビみなと」(『バンジョーとカズーイの大冒険』)のフレーズがそれぞれ挿入され、バンジョーとカズーイのこれまでを連想させる。つまり、音自体に同シリーズの歴史が詰め込まれているのだ。


 今回のセルフアレンジ版「クルクルやまのふもと」は、オリジナル版の作者による、バンジョーとカズーイへの「おかえり」を表現した楽曲ということなのかもしれない。実装は今年の秋頃を予定。任天堂作品で19年ぶりに活躍するバンジョーとカズーイに期待したい。


(杉山 仁)