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岡田准一の姿はジャッキー・チェンにも重なる!? 『ザ・ファブル』に見るアクションの凄み

2019年06月25日 10:21  リアルサウンド

リアルサウンド

『ザ・ファブル』(c)2019「ザ・ファブル」製作委員会

 闇社会で「ファブル」(岡田准一)と呼ばれ伝説となっている殺し屋が、とある事情から佐藤アキラという偽名で一般人として暮らすことに。相棒のヨウコ(木村文乃)と普通の暮らしをしようとするが、子供の頃から殺し一本で生きてきたので、なかなか上手くいかない。もちろん人を殺しすぎて都市伝説と化している男を周囲が放っておくわけもなく……。はたして伝説の殺し屋は普通に暮らすことはできるのか?


参考:岡田准一主演『ザ・ファブル』にも抜擢 江口カンが語る、映画初監督作『ガチ星』を経て感じたこと


 本作『ザ・ファブル』(2019年)は、『週刊ヤングマガジン』で絶賛連載中の同名作品の実写版だ。まず結論からいうと、本作はおおむね満足のいく内容に仕上がっているように思う。南勝久先生の原作に漂う不穏さや、本当にファブルはいるんじゃないかと思うようなリアルさ・生々しさは薄れているものの、派手さを優先した画作りは楽しい。掴み、中盤、クライマックスにきちんと見せ場がある。そして何より本作の大黒柱、ファブルを演じる岡田准一である。なにはともあれ岡田准一だ。この岡田准一という極めて特殊な俳優によって、「ファブル」という存在が確かに実在するように見えた。この点だけでも、実写化としては成功だと言っていいだろう。


 岡田准一はハンパではない。まず共通認識として、この点を大事にしていきたい。岡田准一は近年、ゲスト枠でバラエティ番組に出るたびに、だいたい誰かに何らかの技をかけている。最近は当たり前の光景になりつつあるが、冷静に考えてみると凄い光景である。なぜなら、これは往年のジャッキー・チェンと同じ“アクションスター”としての扱いだからだ。今、日本のゴールデンタイムのバラエティで誰かに関節技を極めることが求められる俳優が他にいるだろうか? これだけでも岡田准一という男の凄みが伝わってくる。


 そして本作が『ザ・ファブル』として成立しているのも、岡田准一の力に依る部分が大きいように思う。主演俳優として格闘・スタントをこなしつつ、原作にならってちゃんと全裸になるなど、色々な意味で体を張りまくり。格闘シーンの動きもいいが、個人的には壁と壁の間に手足を突っ張らせて登っていくシーンのインパクトが大きかった。岡田准一はごくごく普通に登っていくし、特殊効果も何もなく普通のことのように撮っているが、あれはまったく「普通」ではない。往年のジャッキーがサラっと数メートルある壁を跳び越えるような驚きを感じた。さりげないが、だからこそ伝説の殺し屋を表現するのに相応しい。フィジカルの説得力に満ちたシーンだ。


 さらに注目すべきは、岡田准一がファイトコレオグラファーとしてもクレジットされていることだ。つまり(全部ではないにせよ)自分でアクションを考えて、自分で演じていたということになる。『散り椿』(2018年)でも主役を演じる一方、自ら殺陣を考えていたというが、演者/監督の両面からアプローチするのはアクションに対する並々ならぬこだわりを感じる。そして、こうした姿勢は確実に将来の財産となるはずだ。いわば2つの面から「アクション」に向き合っているのだから。思えば世界で活躍しているアクションスターは、自分で振り付けもできる人が多い。たとえば古くはブルース・リー、ジャッキー・チェンやサモ・ハンもそうだし、今をときめくドニー・イェンも同様だ。


 もちろん、まだまだ荒削りな部分もあるし、映画本編に物足りないと感じた部分もあった。ただ、これは映画全体が原作の序盤なので仕方がない部分もある。というか、もっと見たいのでシリーズ化してほしい。そうすればアクションシーンも磨かれていくだろうし、原作のエッセンスをより活かせてくるかもしれない。発展途上なところはあれど、岡田准一が持つ可能性を垣間見ることができること、そして次への期待が高まるのは確かだ。(加藤よしき)