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『ラジエーションハウス』、『HERO』鈴木雅之監督の手腕と個性の強い登場人物で新たな「月9」に

2019年06月24日 06:11  リアルサウンド

リアルサウンド

『ラジエーションハウス特別編~旅立ち~』(c)フジテレビ

 天才的な放射線技師の五十嵐唯織が、目には見えない病の根源を見つけ出していくという「グランドジャンプ」で連載中の同名コミックを実写ドラマ化したフジテレビ系列月9ドラマ『ラジエーションハウス』。第4話こそフタ桁を割る視聴率になってしまったとはいえ、全11回の平均視聴率は12%を超え、17日に放送された最終回は過去最高の13.8%。終盤に向かうにつれてぐんぐん上昇傾向にあったことは見逃せないポイントだ。


参考:場面写真ほか多数


 かつてはトレンディドラマの宝庫として多くの名作ラブストーリーを輩出し、近年では娯楽性の強いジャンルの作品を次々と打ち出してきたフジテレビの看板枠「月9」。次クールに放送が予定されている『監察医 朝顔』や前クールの『トレース~科捜研の男~』、その前の『SUITS/スーツ』『絶対零度~未然犯罪潜入捜査~』と、ここ最近は民放連ドラ全体のブームにあやかるように、ひとつの職業にフォーカスを当てた作品、いわゆる“お仕事モノ”が目立ちはじめており、本作もその流れにのったドラマであるといえよう。


 もとより“医療ドラマ”というのは“刑事ドラマ”“法曹ドラマ”と並び安定した人気を誇るジャンルであり、個別のエピソードで起こる事象が明確になると同時に、いくつものエピソードを貫いて展開する重厚なドラマ性やミステリー性、またラブストーリーとしての要素など、あらゆるものを組み込みやすい。その分「全話順を追って観ないとわからない」ことは起きづらく、またターゲット層を非常に幅広く見据えることができる。「月9」に限定すれば、2008年に別の枠で放送され2010年に同枠に進出した『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』が最大のヒット作であろう。2017年にシーズン3、そして昨年には映画版が製作され大ヒットを記録したことが記憶に新しい。


 同作のような救命救急を題材にした作品であったり、往年の名作にあるような大学病院内での軋轢や天才外科医の活躍など、様々なタイプの“医療ドラマ”がある中でも、この『ラジエーションハウス』で扱われるのは放射線外科医と、ドラマとして扱うにはなかなか控えめなものだ。あまり前例がないタイプの物語をあえてこの「月9」という強いイメージを持った枠で放送するという挑戦的な姿勢もさることながら、それを紛れもない成功作へと導いた最大の要因は、演出チーフを務めた鈴木雅之にあるのではないだろうか。


 既存のドラマではあまり扱われていなかった職業にフォーカスを当てた点や、ひとつの空間に集う個性の強い人物たちの群像性。シリアスさを持ったストーリーの中で、各登場人物の掛け合いによってコミカルさが際立つテレビドラマとしての観やすさ。本作の見せ方の下敷きにあるのは、間違いなく木村拓哉が主演を務めた『HERO』であろう。一般の視聴者には漠然と「違う」ということしか理解できない“技師”と“医師”の違いは検察官と事務官のそれに通じるものがあり、また物語の舞台となる甘春総合病院の“ラジエーションハウス”の扉やエレベーターを象徴的に映し出す空間の作り方。ひいては鈴木監督らしい表情に寄ったコミカルなカットで、ますますその印象を強くしていく。


 そして極めつきは、最終回で窪田正孝演じる五十嵐がアメリカに旅立つのをメインキャスト全員が横並びで見送るその姿。言うなればヒット作のテンプレートに当てはめたに過ぎないという否定的な見方もすることはできるが、法曹を扱った『HERO』から医療を扱った『ラジエーションハウス』へと畑を変えてここまでしっくりとはめ込むことは決して容易ではない。何よりもその演出のおかげで五十嵐の少し風変わりな部分をはじめ各登場人物のキャラクター性がしっかりと引き立てられ、また淡い恋愛要素の一端を感じさせた五十嵐と杏(本田翼)との関係の収束点も綺麗に、のびしろを持たせた状態でまとめられる(いや、これもまた『HERO』の久利生と雨宮と言ってもいいかもしれない)。


 そんな最終回の展開に、SNSなどを中心に困惑する声も多々見受けられたが、このドラマが『HERO』と同じ系譜上にあるならば正しい選択であったといえるだろう。さっそく24日に連続ドラマの後日談となる2時間SPの特別編が放送される。唯織がアメリカへ向かう機内の中で、第1話に登場した写真家・菊島(イッセー尾形)と再会し、そこで急病人を救う唯織の姿と、同時進行でラジエーションハウスの人々の物語も展開していくとのことだ。『コード・ブルー』と『HERO』の後を継ぐ作品として、今後続編や映画版が作られる可能性を充分に秘めたストーリー展開が、「特別編」では繰り広げられるのではないだろうか。 (文=久保田和馬)