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福山雅治が最後に出した結論とは? 『集団左遷!!』コンプライアンスドラマとしての本質を探る

2019年06月24日 06:11  リアルサウンド

リアルサウンド

『集団左遷!!』(c)TBS

 日曜劇場『集団左遷!!』(TBS系)最終回が6月23日に放送された。


参考:福山雅治が戦っているのは抗うことのできない現実だ 『集団左遷!!』第一章/第二章でテーマの変化


 ダイバーサーチとの提携を進めるため政治家に賄賂を渡した横山(三上博史)。その不正を明らかにした片岡(福山雅治)の努力もむなしく、横山は副頭取に選任されてしまう。最後の手段として、片岡と常務の隅田(別所哲也)はマスコミへの告発を考える。


 「銀行員としての正義」を追求する片岡に襲いかかるジレンマ。端的に言えば、それは「銀行そのものがなくなったら、どこに実現すべき正義があるのか」という問題であり、「本当に会社を変えたいと思うなら、私のところまで上がってきてください」という横山の言葉とも相まって、最終回にふさわしい深遠な問いかけとなっていた。


 「平成最後の下剋上」を掲げてスタートした『集団左遷!!』の原作は、江波戸哲夫著『集団左遷』と『銀行支店長』(講談社文庫)。どちらもリストラの嵐が吹き荒れた平成初期を舞台に組織の論理に抗するサラリーマンの奮闘を描いた作品である。2作をベースに大胆な改変が施された『集団左遷!!』には原作のエピソードや人物が随所に登場する。銀行本部に舞台を移した第2章(第7話以降)は小説『集団左遷』の後日譚に着想を得ているが、ほぼドラマオリジナルのストーリーで新鮮さがあった。


 第2章は専務そして副頭取に昇格した横山の不正を片岡が暴くという構図で展開。片岡のとった方法は、頭取への直訴、役員会での糾弾、マスコミへの情報提供など、形式は異なるがすべて内部告発であり、第2章の裏テーマはコンプライアンスだったと言える。昨今、日本でもコーポレート・ガバナンスは会社の存続に不可欠なものとして認識されているが、法令遵守を強調することはあっても、どこまでなら許されるかという基準はあいまいであり、各企業や現場の判断にまかされているのが実状だ。不正な行為が社内で行われていることを知っても、言い出せずにジレンマに陥っている人も多いと推察される。


 迫力ある対決シーンや社内の派閥争いが前面に出ているため気づかれにくい部分もあったが、内部告発が制度化され、コンプライアンスが叫ばれる世相を映した作品が『集団左遷!!』であり、片岡が出した結論に溜飲が下がる思いをした視聴者も多かったのではないか。フィクションに仮託して現実の病巣をあぶり出すのがドラマの使命のひとつだとすると、「令和最初の下剋上」を目指した『集団左遷!!』はその使命を全うしたと言える。


 劇中でも触れられていたが、現在、メガバンクを筆頭に金融機関の人員削減と合理化が進められている。人口知能やICT技術と連携した金融サービスはすでに海外では目新しいものではないが、生き残りをかけた変化に挑む横山の姿には切実なリアリティーがあり、最後に崩れ落ちる姿は、まさに信念に殉じ理想が挫折した人間のそれだった。


 最終回では、告発をためらう片岡を叱咤する真山(香川照之)や、片岡の心中を察して「手負いの獅子ほど怖いものはない」「ぶれるなよ」と釘を刺す梅原(尾美としのり)をはじめ、久々の登場となった岩盤浴ブラザーズなど、あらためて片岡をめぐる人々がクローズアップされた。横山にも仲間はいたが、同じ銀行員である片岡と横山の命運を分けたのは、利害得失のない人間関係だったとも考えられる。


 こうして“平成最後”にして“令和最初”の下剋上は幕を閉じた。文字どおり時代を駆け抜けた主演の福山雅治をはじめ、懐かしい蒲田編の登場人物、存在が薄くなる一方の宿利(酒向芳)と、対照的に回を追うにつれてキャラが濃くなった鮫島(小手伸也)など、多くの印象深いキャラクターに感謝しつつ本稿をしめくくりたい。


■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。