2019年のADAC・トタル24時間レース=ニュルブルクリンク24時間レースは6月22~23日、ドイツのニュルブルクリンクで決勝レースが行われ、予選25番手からスタートしたKONDO RACINGのトム・コロネル/松田次生/藤井誠暢/高星明誠組の45号車ニッサンGT-RニスモGT3は、総合10位/SP9クラス9位でフィニッシュ。日本車、日本チームとしてひさびさの総合上位に食い込んだ。
近藤真彦監督がチーム創設20年を間もなく迎えるにあたり、「新たなグローバルチャレンジ」として挑戦を開始した今季のニュルブルクリンク24時間挑戦。ニュルという舞台で、いかにチームの、そしてニッサンGT-Rの力を示せるか……。2018年10月の体制発表以来、チームは多忙なスケジュールを縫って、VLNニュル耐久シリーズや予選レースなどを戦い、VLN3では予選2番手を得るなど、ヨコハマタイヤのパフォーマンスも上々で手ごたえを得ていた。
■「絶対に完走してくれ」近藤監督からの指示を完遂
この本戦までの戦いのなかで、すでにチームは予選上位のグリッドを決めるトップクオリファイに参加する権利を得ていたため、プラクティスや予選1回目/2回目はドライバー個人がきっちり規定タイムを出すことに終始してきた。迎えたトップクオリファイでは、次生がアタックを担当したが、日本で多くのタイトルを獲得した次生をもってしても25番手どまり。
「これ以上ないくらい攻めたのに25番手というのはちょっとショックです」と次生はニュルのスペシャリストたちのタイムを前に、やや衝撃を受けていたようだった。
とはいえ、長い24時間レースで大事なのはきっちりと走りきること。スタート前、近藤監督はドライバーたちに「3年計画の1年目だから、絶対に完走してくれ」と指示を出した。WTCRとダブルエントリーのコロネルをはじめ、次生、藤井、高星は、クルマを労るべく無駄に縁石に乗らないことやミスをしないこと、接触をしないことをルールに決め、厳重に守った。淡々と、しかもハイペースで走る45号車は少しずつポジションを上げていく。タイヤトラブルが多発するレースのなか、ヨコハマタイヤには何のトラブルも起きず、チームの武器となった。
序盤は1スティントずつ交代し、夜以降はダブルスティントで繋いでいった45号車ニッサンGT-RニスモGT3は、少しずつポジションを上げていく。SP9は今季、ポルシェ、メルセデスAMG、アウディによるハイペースの戦いが展開されトラブルも多発するが、それに乗じてまたひとつ、またひとつと順位が上がる。終盤クラッチに不調はあったが、それも問題がないレベルだった。
そして、順番からアンカーになったのは藤井だった。「最後に乗る大役を任されることになりましたが、『クルマは絶対に大丈夫だ』という、経験からくる自信があったんです。マシンを労わりながら自分のペースを守ると決めていたので、冷静に走れました」とチェッカーを受けた。ふだんは冷静な藤井だが、チェッカーの瞬間は「感動しましたね」と振り返っている。
■「来年はもちろんシングルを目指したい」
藤井を迎えるピットでは、周囲のピットから少しずつ歓声が上がっていくなか、近藤監督は腕組みをしながらじっとモニターを見つめ、藤井がチェッカーを受けた瞬間「よし!」と拳を握りしめた。ドライバーたちが4人交代しながら走っていたなか、近藤監督、そしてアドバイザーを務めるミハエル・クルムは、なんと一睡もせずに無線で指示を送り続けたのだという。そんな努力を乗り越えて迎えた歓喜の瞬間。近藤監督は振り返ると、メカニックやドライバーたち、そして訪れていたニスモの片桐隆夫社長や松村基宏総監督らと喜び合った。
「できすぎかな。僕は初めてル・マン24時間で完走したとき(1995年。スカイラインGT-R LM)も10位だったんですが、それを思い出しましたね。その時もニスモと一緒の仕事で、また10位かな。でも最低でも10位でゴールするんだと信用して走らせました」と近藤監督は笑顔で初のニュル24時間を振り返った。
「トラブルやミスは、99%ないです。ドライバーも、それにメカニックも本当によくやってくれました。でも、今年こんなに良かったので来年に向けてプレッシャーになりますけどね!」
近藤監督に、ずばり今日のレースは何点をつけるかと聞くと「100点! もうこれ以上ないですよ。そんなに贅沢は言えないですね」という。
「タイミングモニターに、ドイツメーカーのクルマに挟まれて『NISSAN』と書いてあるのを見ると、本当に頑張った甲斐がありますね。来年はもちろんシングルを目指していきますし、3年目は勝つことを意識していきたいと思います」
この結果に、ニスモの片桐隆夫社長も「1年目はきっちり走りきるという目標があり、それを着実に実現したのでホッとしていると思います。我々のファンも、KONDO Racingが好結果を残してくれることを期待していたと思いますので、良かったです」と喜び合った。
■全員が“プロの仕事”を完遂
また、3人の日本人ドライバーたちも、24時間を戦いきった清々しい表情でピットで藤井の戻りを待った。
「上出来すぎて怖いくらいの結果ですが、ノーミスでやることができれば、こうして結果もついてくると思います。ドライバーもチームも、タイヤメーカーもミスをしなかったのが大きいですね」と次生。
「今までよりもかなりレベルが上がっているので、2周遅れというのはできすぎのような気もしますが、こうして総合優勝争いに向けて頑張っていけば、いつかここで認められるのではないでしょうか。来年に向けて、タイヤもドライバーもさらにレベルを上げていかなければいけないですね」
また高星は「上位5~6台のレベルがすごく高いのは見せつけられましたね。僕たちのタイムも遜色はないのですが、そこを狙うとなるとまた別格の領域になると思います。すべてをレベルアップさせないといけないですね」と次生を同様の意見を語った。
「とはいえ、ニュルは楽しかったですよ。今回はずっとドライで走れましたし、素直に楽しめたと思っています」
そして、「これぞ24時間レースですよね。トム選手も次生選手も、高星選手も、KONDO RACINGのメカさんも各スティントで完璧な仕事を続けていたので、僕もみんなの頑張りをみて、ひとりのドライバーとしていい仕事をして返したくなりました。全員が完璧にプロの仕事をするから結果が出たんだと思います」というのは藤井だ。
「今のニュルブルクリンクでトップ10に入ることは相当難しいと思うので、そのなかでこういう結果を残し、近藤監督も喜ばれていたので良かったですね。本当にすべてがノーミスだったので、あとは細かい上位との差を詰めていければ、もっと上が見えてくるのではないでしょうか」
日本、そしてニッサン/ニスモが誇る3人のドライバー、経験豊富なコロネル、クルムアドバイザー、そしてチームスタッフと、全員が近藤監督の姿勢のもと、一致団結してつかんだひさびさの日本車のトップ10入り。レッドとブラックのGT-Rの“強さ”は、きっと本場ドイツのファン、そしてドイツメーカーの脳裏に刻み込まれたはずだ。