2019年から投入されたフォードの新型マスタングが猛威を振るうVASCヴァージン・オーストラリア・スーパーカーは、第7戦となる“ダーウィン・トリプル・クラウン”の週末もマスタングの勢いは衰えず。6月15~16日のヒドゥンバレー・レースウェイでの2ヒートともに、王者スコット・マクローリン(フォード・マスタング)とDJRチーム・ペンスキーが勝利し、チャンピオンはすでに今季12勝と早くも独走状態に入った。
北部ノーザンテリトリーの州都、ダーウィン郊外に位置する伝統のトラックでの1戦も、今季序盤の流れをそのまま反映した王者無双の展開となった。
開幕からの連勝劇を受け、VASCシリーズのテクニカル部門もこの新型モデルの技術的アドバンテージをなんとか是正しようと、あの手この手で“対策”を講じてきた。
シーズン中の強硬策を承知で、ウエイトをルーフに移設してのセンター・オブ・グラビティ(車両重心位置)調整や、リヤウイングエンドプレート縮小、フロントガーニー追加のエアロ調整などを強行。しかし議論を巻き起こしたそれらの策を持ってしても、マスタングの速さは衰えることを知らず。
さらには、2018年まで使用されたツインスプリングダンパーからシングルコイルのリニアスプリングダンパーに変更された新規定でのセットアップも、DJRチーム・ペンスキーと王者マクローリン、そして名チーフエンジニアのルード・ラクロワによる理解度の高さで、いち早く最適解を見つけ出すなど、トリプルエイト・レースエンジニアリングを筆頭としたホールデン陣営のライバルたちを逆に突き放す強さを見せている。
この週末も全長2.87kmのトラックで堂々予選を制したマクローリンは、自身キャリア56度目のポールポジションからレース1を支配。42周の間に一度もトップランを脅かされることなく、シーズン11勝目を手にしてみせる。
「今日は勝ててよかった。(データエンジニアの)リチャード・ハリスのお父さんがイギリス時間の早朝に亡くなられて、彼は急きょUKへと戻ったんだ。(予選ポールと連勝の)トリプルクラウンを達成したいと思っているけど、それはこの状態でまずやってみないとね。何よりもこの勝利をリチャードの父上に捧げたい」と、クルーの身の上を気遣ったマクローリン。
フロントロウから発進したホールデン陣営の急先鋒、エレバス・モータースポーツのデビッド・レイノルズ(ホールデン・コモドアZB)は、23Red Racingのウィル・デイビソン(フォード・マスタング)とピットロードで絡むなどし3位ポディウム確保が精一杯。
代わって6番グリッドスタートのティックフォード・レーシング、チャズ・モスタート(フォード・マスタング)がアーリーピットによるアンダーカットに成功し、逆転2位表彰台に。4位にもティックフォードのキャメロン・ウォーターズ(フォード・マスタング)、そして5位にようやく、レッドブル・レーシング・オーストラリアの“セブンタイムス・チャンピオン”ジェイミー・ウインカップ(ホールデン・コモドアZB)が続き、トリプルエイトの窮状を示すリザルトとなっている。
明けた日曜午前の予選も前日をリピートするかのような1日となり、マクローリンは"キング・オブ・マウンテン"の異名をとるシリーズ史上最も成功を収めたドライバーのひとりであるピーター・ブルックに並ぶ歴代2位、57度目の最前列を獲得。
そして午後のレース2でも余裕のクルージングで勝利を挙げ、今季16戦中12勝目となる圧倒的強さでポイントリードを拡大。僚友のファビアン・クルサード(フォード・マスタング)を含め、連覇に向け敵なしの状況を作り上げている。
「ここダーウィンでの20年近いヒストリーのなかで、僕らのDJRチーム・ペンスキーとマスタングが初のトリプルクラウン獲得者になれて本当に光栄だ。改めてシェルVパワー・レーシングとフォード・パフォーマンス、そしてチームのクルー全員に感謝したい」と語ったディフェンディングチャンピオンのマクローリン。
「僕は本当にただただラッキーな男だとしか言いようがない。26歳にして伝説的なドライバーと並ぶ記録を打ち立てるなんて想像もしていなかった。『レースカーをドライブしたい』という夢を追いかけてきただけだが、こんな速いマシンをドライブできて最高の気分だよ」
このレースで3位に終わったクルサードに対し、ポイントスタンディング上で319点差としたマクローリン。続くVASCシーズン第8戦は、7月5~7日に北クイーンズランド地方最大の景勝地で争われる“タウンスビル400”が控える。