今週末、ポール・リカール・サーキットで開催される復帰2回目となるフランスGPに向けて、ホンダF1がリリースを発表、そのなかでフランスGPでスペック3のパワーユニット導入を決定したことを田辺豊治ホンダF1テクニカルディレクターが明かにしている。
「シーズン第7戦カナダGPを終え、ここからはフランスを皮切りに7週間で5レースという、欧州での転戦が始まります。レースが行われるポールリカールサーキットは、昨年からF1のフランスGP開催が再開された伝統のあるサーキットです」
「4本のストレートに組み合わされたタイトな低速コーナー、長く回り込むような中速コーナー、超高速コーナーのシーニュなど様々なタイプのコーナーが配されており、いつもと同様、PU、車体ともに、それらの特徴に合わせたセットアップの最適化が重要になります」とポール・リカールのサーキット特性について話す田辺氏。レッドブル・ホンダのピエール・ガスリーの母国GPとなる今回のフランスGPでは、スペック3のPU(パワーユニット)を導入することを明かにした。
「なお、このラウンドから(マックス)フェルスタッペン、(ピエール)ガスリー、(ダニール)クビアトのマシンにSpec3のPUを投入することを決めました。今回はパフォーマンスの向上を図るためにICE(内燃機関エンジン)とターボのアップデートを行っています。現在、F1のPU開発においては、さらなる競争力向上を目指し、Hondaのさまざまな開発部門との間で連携を深める事を進めています。特にレース部門との技術的な共通点が多く見られる、航空エンジン研究開発部門との関係を強化し、昨シーズン途中に行ったMGU-Hのアップデート時には、同部門の支援を元にした技術を適用、信頼性を大幅に向上させました」
今回のスペック3が特徴的なのが、航空エンジン研究開発部門の技術、つまりホンダジェットの技術をF1に活かすことを明かにしている点だ。ホンダジェットはご存知、ホンダが主翼上面にエンジンを配置した独自設計のビジネスジェット機。最高巡航速度や最高運用高度、そして長い航続距離とクラス最高のパフォーマンスを有した次世代の小型ビジネスジェット機だ。
その卓越した技術はたしかにF1の先進性とベクトルは同じ。ただ、ホンダジェットの技術を取り入れたからといって、すぐにでもメルセデス、フェラーリを越えることができるというほど、F1の世界は甘くはない。そのライバルとのパフォーマンス差についての理解も、田辺テクニカルディレクターのコメントから伺える。
「今回のターボーチャージャーのアップデートでは、これまでIHIと取り組んできたターボにおける空力設計の分野でも、航空エンジン開発部門が有する知見と技術を反映しています。ただし、今回のアップデートではまだ上位のPUマニュファクチュラーに追いつくだけのパフォーマンスレベルには至っていないと考えていますので、引き続きHondaとして総力を挙げて開発を続けていきます」
田辺氏のコメントから推察するに、今回導入されるホンダジェットの技術はエンジン本体というよりも、タービンへの空気流入量に関しての技術採用と読み取ることができる。もちろん、空気量がアップしてブースト圧を上げることができればパワーアップにつながるが、ノッキングの発生や高まる発熱のクーリング対策など、問題も多くなる。
また、今回のリリースで気になるのがホンダF1の4台のうち、アレックス・アルボン車のみが旧スペックのままであること。これはおそらく、中国GPでアルボンはFP3セッション開始直後に大クラッシュをしているなど、他の3台に比べて現スペックのパワーユニットの走行距離に余裕があるのが理由と考えられるが果たしてどうか。
今回、第8戦目でスペック3を投入することにより、年間3基と制限されているパワーユニット制限数を考えると4基目以降の投入はほぼ確実な状況になる。実際、今回でトロロッソの2台はおそらく4基目の投入となることから、4基目以降の投入時に受けるペナルティのタイミングをトロロッソの2台でずらすという狙いも考えられる。いずれにしても、今回のスペック3投入はホンダF1とチーム側の戦略的なものなのは間違いないだろう。
果たして、スペック3がどのような効果を見せるのか、フランスGPのホンダF1のパフォーマンスが見逃せない。