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橋本愛が『いだてん』で再び触れた“宮藤官九郎哲学” 「みんなそれぞれの可笑しみがある」

2019年06月19日 08:11  リアルサウンド

リアルサウンド

橋本愛(写真提供=NHK)

 2年連続でNHKの大河ドラマに出演中の橋本愛。昨年の『西郷どん』では西郷吉之助(鈴木亮平)の最初の妻・伊集院須賀として登場し、現在の『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(以下、『いだてん』)では遊女・小梅役を演じている。


【写真】遊女時代の小梅(橋本愛)の姿


 自身も魅了されているという宮藤官九郎・脚本、そして残すところ2回となった「第一部・金栗四三篇」での小梅の行く末について語ってもらった。


■連続テレビ小説『あまちゃん』以来の宮藤官九郎・脚本


ーー遊女という役どころで、『西郷どん』の時よりも今回とても華やかな衣装が多いですね。


橋本愛(以下、橋本):衣装は知らず知らずのうちに影響を与えてくれる魔法ですね。私は小梅のように普段ちゃきちゃきしてないというか、友達に暴言を吐けるような性格ではないので、自分をさらけ出して人間関係を築ける彼女の強さや優しさを、衣装をまとうことでもらっていたように思います。


ーー『いだてん』出演が決まって、物語が進んでいくにあたり、どんな気持ちで過ごしていますか。


橋本:初めは遊女という職業に対して身構えていたんですが、自分の役のことよりもまず作品の面白さに心を奪われて。「うわ、すごいドラマだ……一年間、宮藤さんの哲学に付いていけるんだ……」という感覚がずっと続いていて、すごく幸せだなぁと感じます。『あまちゃん』でも宮藤さんの脚本を読んでいましたが、あの時は見つけられなかった宝物がいっぱいあって、台本を読みながら土を掘り起こしているような感覚があります。


ーー自身の視野が広がったというか。


橋本:当時は、ここはどうやって演じればいいんだろうと必死で、照準も近くてピントがブレブレな状態だったので、感じ取るものは今よりも段違いに少なかったと思います。今の状態でもう一回『あまちゃん』の本が読みたい(笑)。


ーー『あまちゃん』のキャストとスタッフも多いですが、当時を思い出して気づいた自身の中での変化などありましたか。


橋本:昔はもっとバランスが悪かったと思います。理想的なお芝居が五角形だとしたら、ガクガクした形の悪いものだったと思うし、感覚的な部分がとても強かったので、一度台本を読んだらその印象をすごく大事にしていたところがありました。今はやり方を変えてから、あの頃はこういうところが瞬発的にできていたんだなとか、逆に足りいなかったから、悶々としてしまっていたんだなとか、そんな風に当時の自分を重ねて気づかされることはあって。あと、あの頃ご一緒したスタッフさん達は、今も17歳の私だと思って接してくださるので(笑)。若返るではないけれど、いつも武装している鎧の皮が、1枚剥がれた状態で現場に居られるというのは幸せでした。


ーー登場人物みんなが魅力的で、全員が主人公のような、一人ひとりにエピソードがあると思います。そんな宮藤さんのキャラクターの描き方は、実際に小梅さんを演じてどう感じていますか。


橋本:どこを見ても脇役と呼べるような人がいないんですよね。みんなが粒立っていて、みんなそれぞれの可笑しみがある。宮藤さんの人間観察と根底にある人間愛に何度も心打ち震えました。小梅は頻繁に登場する人物ではありませんが、すごく宮藤さんの役柄への愛を感じるんです。このドラマにおいての小梅の存在にすごく大事なものがあるような気がして、そのおかげでモチベーションも保てるし、私自身も愛情を持って演じられています。


■美川、清さん、孝蔵……小梅を取り巻く男たち


ーー小梅が美川(勝地涼)と一緒になるはずだったのが、急に清さん(峯田和伸)と結ばれましたが、その展開はどう考えました?


橋本:小梅は、もう4回ぐらい転生してるので(笑)。美川さんと恋仲になっていた頃は、彼に期待していたところがあったとは思うんです。けど、まぁ、美川さんがあんな感じなので(笑)。愛想が尽きたじゃないけれど、やっぱり真のパートナーではないという思いはずっとあったんだろうなと。そんな時に清さんと向き合って、「割れ鍋に綴じ蓋」とセリフにもありますけど、自分のことを分かってくれて、肯定してくれて、守ってくれて、本当に頼もしい存在がこんなに近くにいたことに気づいて。美川さんへの不満が強ければ強いほど、清さんとの幸せを感じられるのは、すごく実感していました(笑)。


ーー清さんを演じる峯田さんと共演した印象はいかがですか。


橋本:峯田さんのお芝居、歌みたいだなと思っていて。ご本人が音楽をやられているのが関係しているのかは分からないのですが、流れるような聴き心地のいい語りというか、“あ、歌みたいだ”と一番初めに感じました。清さんとは、実際は触れ合っていなくても、ずっと隣にいて守ってくれているような気配を強く感じるので、フィクションを軽やかに超えられる人なんだなという印象が残っています。


ーー峯田さんが小梅を抱きしめてグッと引き寄せるシーンで、うまくできたかどうか……と話をしていたのですが。


橋本:うまくというか、気持ちはちゃんと伝わりました。引き寄せる時のセリフが、「俺が死ぬ気で守る」みたいなセリフで。言う人によっては、まぁ、例えば美川さんが言ったら絶対嘘に聞こえるんですけど(笑)、もう、真実なんですよ。真実が宿っているから、素直に感動しました。小梅が一番欲しかった言葉なんだろうなと思いましたね。


ーー小梅と孝蔵(森山未來)は同じような空気感を持っていると思うのですが、特に印象に残っているシーンはありますか。


橋本:孝ちゃんが初めて高座に上がった時です。あの時は私自身が感動しちゃって、小梅としてのリアクションに引き戻すのが大変でした。初高座なのにお酒を飲んで、清さんからの心のこもった贈り物も曲げちゃって、どうしようもないやつって思わなきゃいけないのに、気迫が物凄くて、拍手してしまいそうになりました(笑)。あのほとばしる化け物感を生で見せてもらって、一生の宝物になりました。


ーーこのドラマにおいての落語のシーンは大きな見どころですよね。


橋本:落語というかなりハードルの高い芸術を、限られた時間の中でどう表現されるのかなと内心興味津々でした。森山さんも松尾さんも、お芝居の延長線上に落語を据えているからこそ、ただ落語を落語としてやるのではなく、孝蔵や円喬の人格が滲み出ているというのが、物凄いことだなと。それでいて落語自体がどんどん上手くなっていく過程も表現に落とし込んでいて、具体的にどんな準備をされたのか聞いてみたいくらいです。


■小梅のその後


ーー小梅は熊本の阿蘇から東京に出てきていますが、橋本さん自身も熊本出身という共通点がありますね。


橋本:熊本の土地柄というより、地方から東京に出てきた人のコンプレックスや期待感、東京への特別な想いのようなものが、全ての行動に根付いている気はしています。自分の理想とする江戸っ子に、自分を当てはめるように生きているのではないかと感じました。


ーー第23回の放送では、関東大震災が起こるシーンが描かれました。今後の小梅は清さんとどんな展開になっていくのでしょうか。


橋本:小梅や清さんは、被災してもその悲しみや苦しみに足を取られず、強く踏ん張って生きていきます。前に進むしかない! というエネルギーでなんとかみんなを引っ張っていくのですが、二人にもみんなと同じように深い深い傷がある。でもだからこそ寄り添うこともできるし、笑い飛ばすこともできるというのが、私自身小梅を通して、ほんの少しではあるけれど”当事者”になれた気がして、貴重な経験になりました。震災後しばらくして、私が台本を何度読んでも涙が出るくらい大好きな「復興運動会」のシーンが訪れます。小梅も苦しい中で生きてきて、やっとみんなの嘘のない笑顔が見られたことは、ご褒美のようだったのではないかと思います。運動やスポーツの持つ力が、私があの日抱きしめた実感と同じように、見てくださる方々にも届くといいなと思います。


(大和田茉椰)