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本当は働いたのに「残業なし」で出勤簿提出 後から請求は無理?

2019年06月18日 09:51  弁護士ドットコム

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看護師として働き始めて3カ月になる女性。「超勤があるのに『超勤なし』と書いて認印を押した場合、後々、残業代を請求することは可能なのでしょうか?」と弁護士ドットコムのLINEに自身の体験談を寄せました。


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会社の就業規則などで決められている「所定労働時間」を超えた勤務は「超過勤務」にあたります。



女性の職場では、労働時間は紙の業務日誌に自己申告する形で記録しています。リーダーを中心にチーム単位で患者の看護ケアをおこなう「チームナーシング制」を取っており、超勤をつけてもらう際には、リーダーに「記録をするので、30分超勤をください」などと申告しなければいけません。



しかし、実際には、先輩看護師に「超勤つけられないから17時までに業務を終わらせて」と言われることがほとんど。まれに、気を利かせたリーダーが「業務時間終わってるけど記録書いてるし、超勤つけておくね」と言うこともありますが、先輩看護師からは「えっ、超勤もらったの?」と非難するようなことを言われます。



●超勤している証拠が残らない…

そのため、女性は長い時は1時間以上、給料支払いが発生しない状況で記録をしたり、ケアに入ったりします。最終的には、業務管理日誌の超勤欄に「/」と斜め線を引いて、確認印を押しています。「紙の業務日誌なので、そこに『超勤なし』と書かれてしまえば、超勤はつかないし、超勤している証拠も残りません…」と嘆いています。



一方で、1年目ということで「先輩看護師のように早く仕事ができません。早く仕事ができないくせに、超勤をいただくのはよいことなのか…。不安に思います」とも話します。



実際には超勤があるのに、「超勤なし」にチェックを入れて認印を押した場合、あとから残業代を請求することは可能なのでしょうか。杉山和也弁護士に聞きました。



●法的には、あとから残業代を請求できる可能性

自分で残業していないと一度でも申告すると、残業はなかったことになってしまいますか。



「残業した時間をどのようにして証明するのかという問題はありますが、法的には、あとから残業代を請求できる可能性があります。



その申告によって、法的に残業していないことになってしまうのではないかと心配される方も多いと思いますが、そのようなことはありません」



記録と実際の勤務時間に差が生まれても良いのでしょうか。



「使用者(会社)には、従業員の労働時間を適正に把握・記録する義務があります。



具体的な方法として、(1)タイムカードなどで出退勤時刻を記録する、(2)使用者が直接目で見て出退勤時刻を確認する、(3)従業員に自己申告させるといった記録方法があります。



実際には、残業を申告すること自体がはばかられる職場の雰囲気であったり、タイムカードを打刻させた後に残業を命じる上司がいたりするなど、記録と実態が乖離していることもあるでしょう。



使用者は、そのような事態が生じている可能性も視野に入れて、絶えず労働環境に目配りしながら、記録と実態を一致させるべきであると考えられています」



●自分宛にメール、業務終了時刻の記録化も有効

相談者は勤務終了時間までに業務を終わらせることができない状況が続いています。



「超勤を許可する立場のリーダーは『超勤つけられないから業務終わらせて』と、達成不可能なことを指示しています。



これは客観的には、後輩が毎日残業していることを認識しながら、超勤の申請は受け付けないと宣言していることになります。実際に、申請を行うと非難されるとのことなので、組織的に残業代の申告を断念させている職場と評価されてもやむを得ないでしょう。



相談者は、自分の事務処理が先輩に比べて遅いことを気にしているようですが、先輩の方が業務に習熟していることは当然であり、新人だからといって、残業代が発生しないということにはなりません」



やむを得ず、実態と違う自己申告をする場合は、どうすれば良いでしょうか。



「事後的に、本当に残業した時間を証明しなければ、残業代の請求は認められません。



パソコンのログイン・ログアウトの時刻を記録化する、業務終了時に職場のパソコン端末から自分宛にメールを出す、ICカードで会社の最寄り駅の通過時刻を記録化する、自分のスマートフォンの位置情報で業務終了時刻を記録化する、日記をつける、家族に帰宅時刻を記録してもらうなどの方法が考えられます」




【取材協力弁護士】
杉山 和也(すぎやま・かずや)弁護士
労働事件を中心に、中小企業の法務、相続、離婚に注力。特に、解雇・パワハラ・セクハラ問題について取扱多数。「オーダーメイドの法律事務所」として、一人ひとりの依頼者に寄り添いながら、ぴったりの解決方法を提案することをモットーとしている。

事務所名:鳳和虎ノ門法律事務所
事務所URL:http://www.houwatoranomon.com/