6月16日、第87回ル・マン24時間レースはTOYOTA GAZOO Racingのセバスチャン・ブエミ/中嶋一貴/フェルナンド・アロンソ組8号車トヨタTS050ハイブリッド、僚友のマイク・コンウェイ/小林可夢偉/ホセ-マリア・ロペス組7号車トヨタによる2年連連続ワン・ツー・フィニッシュで幕を閉じた。この結果、トヨタは伝統のレースで日本メーカー初となる2勝目を連覇で達成したほか、8号車を駆る一貴が日本人として初めて、サーキットレースでのFIA世界チャンピオンに輝いている。
2018年5月に開幕したWEC世界耐久選手権“スーパーシーズン”の最終戦として行われた2019年ル・マン24時間。昨年の総合ウイナーそして、前戦スパ・フランコルシャンでチームチャンピオンを決め、シリーズ王者としてル・マンに臨んだトヨタの7号車と8号車は、15日現地15時にスタートが切られた伝統の耐久レースをワン・ツー体制で支配していく。
24時間レースの序盤はコンウェイ、可夢偉とつないだポールシッターの7号車トヨタがLMP1プライベーターだけでなく僚友8号車に対しても大きなギャップを築いていく。だが、レースも4分の1を過ぎるとアクシデントが頻繁するようになり、その度に導入されるセーフティカーやフルコースイエローまた、この間のピットタイミングによって2台の順位は目まぐるしく入れ替わっていった。
しかし、レースの折返しとなる12時間を超えると、エアロバランスに苦しむ8号車に対して、スピードで勝る7号車がふたたびチームメイトとのギャップを徐々に広げていく。チェッカーまで残り6時間となった段階で2台の差は1~2分程度まで拡大した。
その後、レース残り2時間を切って8号車との差を2分以上としていた7号車だったが、可夢偉からドライバー交代したロペスが思いもよらぬアクシデントに見舞われてしまう。
7号車はスタートから22時間47分後にピットインし、給油を行って首位でコースに復帰した。だが、そこからわずか7分後、ロペスがタイヤのスローパンクチャーを訴えて緊急ピットイン。この際、チームは右フロントタイヤのみを交換してマシンをコースに送り出したが直後、7号車がスローダウンしているのが国際映像に映し出された。
■タイヤの内圧センサーにトラブル
2分以上あったチームメイトとの差はみるみるうちに縮まり、ついに残り59分となったところで、一貴駆る8号車が7号車を逆転。総合トップに躍り出た。2番手に後退した7号車はふたたびピットに戻り、タイヤ4本を交換して戦線に復帰していく。
その後ペースを回復した7号車だったが、残り時間55分で約60秒に開いたギャップは簡単に埋められるものではない。そうした状況のなかでも、ロペスは鬼気迫る走りで挽回を図る。しかし、最終的には僚友8号車が2年連続でトップチェッカーを受け、7号車は16秒972秒及ばず2位に終わった。
なお、友山茂樹GAZOO Racingカンパニープレジデントは、レース後のコメントのなかで終盤のアクシデントについて語り、7号車のタイヤセンサーに問題あったと説明する。
「87回目を迎えた伝統のル・マン24時間レースにて、2年連続の優勝をワン・ツー・フィニッシュで飾ることができました。『ル・マンに勝つにはクルマが速いだけではダメで、クルマもチームも、もっと強くならないといけない』と、昨年の優勝に満足することなく、改善を積み重ねてきたことが連覇に繋がったのではないかと思います」
「しかし、喜んでばかりはいられません。終始レースをリードしていた7号車に、残り1時間のところでパンクが発生、そこにタイヤセンサーのトラブルも重なり、大きなタイムロスにつながりました」
「『まだまだクルマもオペレーションも改善が足りない!』と、ル・マンの女神が言っているのだと思います」
レースに“タラレバ”は禁物だが、適切な対応ができていれば、結果は異なるものになっていた可能性も充分にあったようだ。
また、村田久武TOYOTA GAZOO Racing WECチーム代表も、連覇を成し遂げたチームを誇りに思うとしながらも、複雑な気持ちであると胸の内を明かした。
「ル・マン24時間レースの連覇を達成できましたが、優勝に十分値する活躍をしたマイク、可夢偉、ホセ-マリアには大変申し訳ないことをしました」と村田氏。
「そのため気持ちは複雑です。近日中に今回起きたことの真の要因を突き止め、再発防止を図ります。しかしながら我々が示すことができた総合的なパフォーマンス、最後の1時間を含めた戦うチームスピリットについては誇りに思います」
「また、WECワールドチャンピオン及び2回目のル・マン制覇を果たしたセバスチャン、一貴、フェルナンドを祝福します。TOYOTA GAZOO Racing にとって、歴史的なWECスーパーシーズンの最後に相応しい成果で、来年のタイトル防衛に向けての弾みとなります」
■小林可夢偉「ル・マンで勝つことがどんなに難しく厳しいかを見せつけられた」
「ル・マンは厳しく残酷なレースの歴史でもある。残念ながら我々は今日、それを見せつけられることになってしまった」と語るのはレース最終盤に起こったドラマの中心にいたロペス。
「チームメイトのマイクと可夢偉の素晴らしいレースを誇りに思う。(本当に)素晴らしいレース内容だったよ。次のル・マンには、必ずやもっと強くなって戻ってきたいと思う」
チームメイトのコンウェイもまた落胆を隠せない様子で「ずっと目指してきたものが最後の最後に不運なパンクで水泡に帰し、とても受け入れがたい結果になってしまった」とコメント。
「これがル・マンなんだろうか。チームの全員、とりわけ7号車のクルーたちは素晴らしい仕事をしてくれた。終始トップを走ることができる車両に仕上げてくれたことがその証だ」
そして、可夢偉は「ル・マンで勝つことがどんなに難しく厳しいかを見せつけられました」と語り、「これまで4回チャレンジしましたが、来年こそは実現できるように頑張り続けます。全力を尽くして決して諦めないことです」と続けた。
「勝利を目指して本当に努力しました。23時間まではとても上手くいっていましたが、結果は厳しいものでした。8号車と今日の結果を目指して来た方々にはお祝いを申し上げます。24時間レースは完走も簡単ではありません。素晴らしい仕事でした」
■「最後まで7号車の方が速かったことは誰の目にも明らか」とブエミ
一方、連覇を果たした8号車のクルーのひとりであるアロンソはレース後、次のように述べた。
「2度目のル・マンで勝利を上げられて最高の気分だが、この勝利はまったく予測していなかった。今回、我々は7号車に対して勝てる速さは持っていなかったのだからね」
「今日の結果は運が大きく影響しましたし、それはモータースポーツの一面でもある」
「僕は彼らチームメイトをチームメイト以上の、友達だと感じている。彼らは勝利にふさわしかったですが、勝利の女神は我々を選んだ。僕たちの目標は世界チャンピオン獲得であり、それを達成できたことを本当に誇りに思うよ」
アロンソと同様に、運がレース結果を左右したと語るのは一貴だ。
「今年、ル・マンの勝利は実力と言うよりも運によって決まったと思っています。とても厳しいレースで、7号車に起きたことはとても信じられません」
「僕たちは2016年のル・マンでよく似た状況に遭遇しただけに、チームメイトの彼らがどんな気持ちなのかよく分かります」
「我々がル・マンで勝利を上げられたこと、そして世界チャンピオンになれたのは、チームメイトである7号車と互いにしのぎを削ってきたおかげですし、彼らとスーパーシーズンの長きにわたって切磋琢磨して来たことを本当に誇りに思います」
8号車のスタートドライバーを務めたブエミは「スタート時は7号車について行こうと思っていたが、僅か5周したところでそれは無理だと分かった」とコメント。
「我々は諦めずに力強く戦い続けたが、最後まで7号車の方が速かったことは誰の目にも明らかだった。7号車に起こってしまったことは本当に残酷だ。彼らは本当に素晴らしいレースをしていたのだからね」
双方にとって晴れ晴れとした結果とはならなかった2019年のル・マン24時間レースだが、この伝統の一戦での勝利によって8号車を駆るブエミ、一貴、アロンソ組のWECドライバーズタイトル獲得が決定。これによりトヨタはすでに確定していたチームチャンピオンとあわせて2014年以来、4シーズンぶりのダブルタイトル獲得を果たしている。