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ユースケ・サンタマリア、滝藤賢一、西島秀俊、藤木直人……40代俳優たちの“甘さとほろ苦さ”

2019年06月17日 06:11  リアルサウンド

リアルサウンド

『わたし、定時で帰ります。』(c)TBS

 今期のドラマを振り返ると、大人の男の魅力を放つ40代俳優の活躍がとにかく目立った。飲み物で例えるならば、勢いで注目されるタピオカミルクティーでも、期間限定の甘さで勝負のフラペチーノでもなく、通が好み日常の癒しにも刺激にもなる、香り高い自分好みの珈琲のおいしさを再発見した感覚。ときには甘く、ときにはほろ苦く、作品によって変幻自在。30代でもなく、50代でもない、40代という年齢だからこそ生まれる彼らの魅力について検証したい。


●『東京独身男子』滝藤賢一


 6月8日に最終回を迎えたドラマ『東京独身男子』(テレビ朝日系)で高橋一生、斎藤工とともにAK男子(あえて結婚しない男子)の弁護士・岩倉和彦を演じた滝藤賢一も不惑を超えた42歳。シリアスからコメディまで自在に演じ分ける実力がある滝藤だが、本作では大人の男の色気を感じさせる場面がとくに印象に残った。


 2018年に連続テレビ小説『半分、青い。』(NHK総合)でヒロイン鈴愛(永野芽郁)の明るく情にもろい父親役を好演し、同じく2018年4月期に『花のち晴れ~花男Next Season~』(TBS系)で真逆の冷酷な父親を演じるなど、さまざまなお父さんを演じ分けてきたが、本作ではあふれる父性を封印。AK男子3人の中では一番年上で遊びも仕事も順調そのもの、兄貴的存在のハイスペックでモテる独身男を嫌味なく演じていた。


 部下の日比野透子(桜井ユキ)との結婚に関しては、自分の父親の介護の問題があって簡単には進めないでいたが、最終的には彼女の立場を尊重し、深い愛を感じさせる提案をした。その決断により、父親も安心させるというアラフォー男子の鑑となるような男気を見せつけた。その結果、彼女のほうからのプロポーズを受けることになるのだが、この余裕と自信。30代では重みや説得力に物足りなさが残ったかもしれない。


 『あさイチ』(NHK総合)のプレミアムトークに出演した際、無名塾で10年間の下積み生活をしていた話に触れ、「仲代(達矢)さんに『自分を磨きなさい。君は40歳からが勝負だ』と言われていたので、それを信じて」と語っていた。その言葉通り、2008年公開の映画『クライマーズ・ハイ』で注目を浴びたのが31歳のとき。それ以降、確実に知名度を上げ、さまざまなドラマで存在感を発揮してきた。40歳を過ぎてからさらに色気や甘さも漂わせ、より男としての魅力も増しているようだ。


大人の苦み☆☆ 大人の甘さ☆☆ 色気(香り)☆☆


●『きのう何食べた?』西島秀俊


 そして、大人の男の色気といえばこの人、西島秀俊(48歳)を忘れるわけにはいかない。内野聖陽(50歳)とW主演を務める『きのう何食べた?』(テレビ東京系)は最高のキャスティングが絶賛され、原作ファンも納得の筧史朗(シロさん)を演じている。


 西島秀俊演じるシロさんは弁護士といっても、先に紹介した『東京独身男子』の岩倉(滝藤賢一)のように大手弁護士事務所を経営するボス弁ではなく、プライベート重視の、雇われ弁護士。仕事帰りにスーパーで値引き品を賢く購入、冷蔵庫にある残り物と合わせてベストな献立を整えるのが日課の、これまたアラフォー主夫(主婦)の鑑のような存在だ。


 こんなにもエプロンの似合う俳優がかつていたであろうか。2019年1月期のドラマ『メゾン・ド・ポリス』(TBS系)では、訳あってシェアハウス「メゾン・ド・ポリス」に雑用係として暮らす元警視庁捜査一課の敏腕刑事だった夏目惣一郎を演じた西島秀俊。CMなどで見せる温かみのある表情でのエプロン姿とはまた別の顔、訳ありの匂いがドラマを盛り上げた。


 40代の魅力の一つとして、経験を積んだ大人としての安定感が挙げられるが、「いいお父さん」「いい夫」としての安心感だけでは色気は生まれてこない。ガツガツと前のめりではない落ち着きや、自信といったものがあって、程よい大人の男の色気というものが多くの人の心をとらえるのではないだろうか。


 人懐こくて情に厚い美容師のケンジ(内野聖陽)とのやりとりも自然で、繊細なその演技は癒しさえ与えてくれる。年齢を重ねるほどに魅力を増す俳優であることを、今期のこのドラマでも証明してくれた。


大人の苦み☆☆☆ 大人の甘さ☆☆ 色気(香り)☆☆☆


●『なつぞら』藤木直人


 年齢を重ねるほど魅力を増すといえば、記念すべき朝ドラ100作目『なつぞら』(NHK総合)に出演中の藤木直人も46歳。1995年に映画『花より男子』の花沢類役でデビューし、1999年には朝ドラ『あすか』(NHK総合)で主人公の相手役を演じ、20年後には主人公の育ての父を演じるというイケメン俳優の鑑となるようなキャリアを積んでいる。


 現在放送中の連続テレビ小説『なつぞら』で藤木が演じるのは、主人公・奥原なつ(広瀬すず)の育ての父である柴田剛男。頑固で無骨な義父(草刈正雄)に対して強く物が言えない婿養子をおおらかにチャーミングに演じて、その優しい笑顔を印象づけた。


 2005年から出演しているトーク番組『おしゃれイズム』(日本テレビ系)ではゲストの魅力を引き出す役柄に徹しているが、ただ空気を読むのではなく、より良い状況を作り出すような柔軟な対応力のような大人の力を感じさせる存在でもある。かっこいいイケメン俳優としての需要に応えるだけでは、ここまでのキャリアを築けなかっただろう。自らよい状況を作りだし、賢い選択をしていく、そういった力が備わって現在のポジションがある。老若男女問わず、熱い視線を浴びる理由がここにあるのだ。


大人の苦み☆ 大人の甘さ☆☆☆ 色気(香り)☆☆


●『わたし、定時で帰ります。』ユースケ・サンタマリア


 そして、6月18日に最終回を迎える『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)で主人公、東山結衣(吉高由里子)のブラックな上司・福永を演じて話題のユースケ・サンタマリア(48歳)。


 公式サイトのインタビューで「WEB制作会社に勤める主人公・結衣の上司。現実でもよくいる人だと思います。ブラック上司だって言われているんですけど、僕の年代ってこういう感じなんじゃないかなと」と本人が語るように、会社勤めをしたことがある人ならばわかる、とらえどころのない困った存在を飄々と演じている。


 自分が悪いとも、周囲を困らせているとも思っていないが、「必ず定時で帰る!」「残業しない!」をモットーに生きる結衣にとっては大きな壁となって立ちふさがり、チーム最大の敵役となるのが部長の福永であり、ユースケ・サンタマリアだ。


 福永が以前社長で売却した会社はブラック企業体質で、社員がごっそり逃げ出したとか、心身ともに病んでしまった人が多くいたという噂もある。実際、結衣の周囲にいる制作4部の人たちも福永部長に言いくるめられて、ファミレスに仕事を持ち込んでサービス残業するなど疲れが目立ち始める。部下には残業をするように仕向けて、フォローは副部長の種田晃太郎(向井理)任せ。ドラマの中で福永が仕事をしているように見えないところもSNSなどで指摘されている。


 お調子者で部下に対して明るく声をかけながらも、目は笑っていないという理不尽な上司をこんなにもナチュラルに演じられる人はユースケ・サンタマリアを置いてほかにはいないかも? とさえ思える。


「今回はいつもよりはみんなに話しかけたりしなかったんです。ネットヒーローズのメンバーの中では僕が最年長。しかも、役どころ的にめちゃくちゃみんなから慕われている人でもない。だから役作りってわけじゃないんですけど、距離が少しあった方がいいかなと思って。あえて孤立して話しかけない雰囲気を作っているわけではないんですけどね。普段はコミュニケーション取った方がいいかなと思って、積極的に話しかけたりしてたんですけど、今回は大丈夫かなって。だから、すごく楽です。好きなときに会話に入っていって、自由に現場で過ごさせてもらっています(笑)」(公式サイトのインタビューより)


 おちゃらけキャラで場を盛り上げるイメージが強いが、役柄も実年齢も48歳の大人の男。日常に潜む理不尽を体現するような、周囲にとけ込みながらも人々の意識に影響を与えていく福永の得体の知れない不気味さをここまでリアルに演じられるのはユースケだからこそ。経験を積むことでさらに自由になり、気負いなく難しい役柄に挑めるというのは、年齢や性別に関係なく見習いところ。年長者の鑑ともいえる。


 明るく軽いタッチながらも、現代の生き方を問う『わたし、定時で帰ります。』を最後まで盛り上げる理不尽ブラック上司役がハマったユースケ・サンタマリア。やっぱり40代俳優は面白くて、味わい深い魅力にあふれている。


大人の苦さ(ブラック度)☆☆☆☆☆


(池沢奈々見)