第87回ル・マン24時間耐久レースは6月16日、決勝レースのチェッカーが振られた。レースの大半をリードしながら、残り1時間でのトラブルにより悲願の初優勝を逃すことになった7号車トヨタTS050ハイブリッドの小林可夢偉は、レース後メディアに対し、その思いを語った。
2018年は、トヨタのワン・ツーフィニッシュの一翼を担いながらの2位となっていたマイク・コンウェイ/小林可夢偉/ホセ-マリア・ロペス組の7号車。レース前、可夢偉はチャンピオン争いよりも、初優勝を目指すことを公言していた。
そんな可夢偉組の7号車は、予選1回目でコンウェイのドライブ中に、不運なアクシデントによりシャシー交換を強いられる。可夢偉によれば、それによりフィーリングは「ネガティブな方向に」転じ、ポールポジションこそ獲得したものの、「これじゃキツいという感じで、なんとかしなきゃ」とセットアップ変更を検討した。
決勝日朝のウォームアップで、可夢偉組はセットアップを変えるが、トライしたのは昨年のル・マンでのもの。ただこれが功を奏し、ドアによる空力面の不具合でペースに苦しんだ8号車をリードしていくことになった。悲願の初優勝は目前まで近づいていたが、ちょうど残り1時間というところで、ロペスのドライブ中にセンサー関連と思われるトラブルにより、まさかの逆転を喫した。
最終的には2位に食い込み、2年連続のワン・ツーフィニッシュを飾ることになったが、可夢偉は表彰台でも悔しい表情を浮かべ、優勝した8号車のドライバーたちも7号車の3人に同情の気持ちを示した。レース後、可夢偉は記者会見に臨むと、英語でこう切り出した。
「今のところ、僕はル・マンが嫌いです」
詰めかけた世界中のメディアからは思わず笑いもこぼれたが、今の可夢偉としてはその発言が出る心情は大いに理解できた。
「セバスチャン(ブエミ)が6回挑戦して勝てたと言ってましたが、僕は4回ですからね。まだチャンスはあると思います(苦笑)。僕たちはベストを尽くし、23時間目までは勝てると思っていました。この現実を受け入れるのは難しいですが、これもレースです。来年またハードワークをこなしてこの場所に戻ってきたいと思います」
「それと、これだけの台数が参戦しているレースで、夜はまさにジャングルでした。参戦していた全員に誰も怪我をせずにこのレースを終えたことを祝いたいと伝えたいです。2位ですが、このジャングルの中で完走できたことを誇りにしたいですね」
世界中のメディアには笑顔を含みながら語っていた可夢偉ではあったが、その後の日本メディアの取材に対しては、悔しい表情をあらわにした。
「僕たちは絶対勝たなければいけないポジションにいましたから、今日みたいなことがないように、いろいろ考えながら準備していました」
「偶然が偶然を呼んでしまったのかもしれないですけど、これが人生なんだなって」
質問に対しても言葉少なだった可夢偉。2020年のル・マン24時間では表彰台の中央に立つ姿を心待ちにしたい。