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パワーだけではない、低・中速コーナーのバランス不足がカナダGP低迷の一因か/トロロッソ・ホンダF1コラム

2019年06月16日 16:11  AUTOSPORT web

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F1第7戦カナダGP ダニール・クビアトとカルロス・サインツJr.のバトル
F1第6戦モナコGPで今シーズン初のクリーンな週末を戦い抜いたトロロッソ・ホンダは、その2週間後に超低速のモナコとは真逆の高速戦となる第7戦カナダGPに挑むことになった。

 壁に囲まれた公道サーキットであることは共通しているが、コース特性も速度域もあまりに違う。F1ルーキーのアレクサンダー・アルボンにとってはここもまた初体験のサーキットだ。

「レッドブルのシミュレーターで数日間走ってきたけど、普通の市街地サーキットとは違う印象だったね。もちろんマージンは残して走らなければいけないけど、コンクリートウォールに囲まれているというのはそれほど意識しないんだ。縁石の使い方などはトリッキーだしオールドスクールなサーキットだね」

 走る前はそう話していたアルボンだったが、実際に走ってみるとそのスピードの速さがウォールの恐怖感を増幅させた。

「一番の違いはウォールだ。シミュレーターにはリセットボタンがあるから気にしないけど、実際に走ってみると感覚は全然違っていた。シミュレーターではアドレナリンも出ないし恐怖もないし汗すら掻かないんだけど、実際に走ると全然違う。全開でプッシュしているとは言ってもシミュレーターでのドライビングと比べるとマージンが残ってしまっていたりするんだ。ついつい最終コーナーのウォールからは離れて走ってしまったよ(笑)」 

 金曜は路面が極めてダスティでグリップレベルが低かったこともあり、トロロッソ・ホンダは2台ともに苦戦を強いられてしまった。

 しかし金曜の夜の間にファクトリーでデータ分析を進めマシンセットアップを煮詰めたことで、土曜には見違えるようにフィーリングが向上した。これも昨年までのトロロッソには少なかったことで、チームとしての成長を窺わせる事実だった。

 しかしアルボンはQ2のアタックラップでミスを犯し、最後はケビン・マグヌッセン(ハース)のクラッシュで赤旗終了。ダニール・クビアトもQ2で敗退して久々にQ3に進めない予選となってしまった。

「昨夜の間にマシンをオペレーティングウインドウに入れるという点ではとても良い仕事ができていたから、この結果にはガッカリだよ。Q3進出は可能だったはずだよ。最後のアタックの前に車重計測に呼ばれたことでアタックラップに向けた準備に少し妥協を強いられてしまったんだけど、それよりも大きかったのはあまりに多くのミスを犯してしまったからだ。ターン10でミスを犯し、その影響で残りも駄目になってしまった。Q1でもトラフィックのせいで1周しかアタックできなかったんだけど、Q2ラップよりもそっちの方が良かったくらいだからね」

 アルボンはそう語るが、クビアトは「差はコンマ数秒とはいえQ3はちょっと射程圏外だったと思う」と異なる見解を示した。

 翌日の決勝では想定よりも下位のグリッドからスタートしたことが、アルボンにとってはさらなる悲劇を呼んでしまった。

 スタート発進は良かったものの、メインストレートからコース幅が狭くなるターン1でイン側にセルジオ・ペレス(レーシングポイント)、アウト側にアントニオ・ジョビナッツィ(アルファロメオ)と両サイドをサンドイッチされるかたちになり、行き場を失ってしまった。

 どうすることもできず、接触でフロントウイングを失い、1周目にピットイン。セーフティカーが出ることを期待しながら走り続けたものの、その願いが届くこともなくアルボンのレースは終わってしまった。実質的に1周目の1コーナーで終わっていたと言っても過言ではなかった。

「避けようとしたけど行き場がなくなってしまったんだ。あれは誰のミスでもないけど残念だよ。そこからは青旗を見てばかりのレースだった。それは別としてもペースに苦しんだし、しっかりと分析する必要がある」

 60周を走ったところでポイント獲得のチャンスは絶望的と判断し、最後はパワーユニット(PU/エンジン)のセーブと次戦に向けた新品ギヤボックス投入のためにマシンをピットに戻しリタイアを選択した。アルボンにとっては予選・決勝ともに全くの不完全燃焼のカナダGPとなってしまった。

 その一方でクビアトは、スタートタイヤが自由に選択できる中での最上位である10番グリッドからミディアムタイヤでスタートしそのポジションを守った。

 しかし実際には中古ソフトタイヤのルノー勢やマクラーレン勢についていくことができず、レーシングポイント勢からのプレッシャーを受ける厳しいレースだった。12周目でミディアムを捨ててハードタイヤに交換。これでペレスのアンダーカットは何とか防いだものの、もう一台のランス・ストロール(レーシングポイント)にオーバーカットを許すことになった。

 ブレーキのオーバーヒートのためレース序盤早々にタイヤ交換を強いられたカルロス・サインツJr.(マクラーレン)が最後にペースを落としてくれたおかげでオーバーテイクして10位に滑り込んだものの、実際にはかなり厳しいレースだった。

 無線の不調も抱えており、クビアトとしてはレース展開が全く見えない中での難しい戦いを強いられていた。

「無線がオンオフして僕の声が伝わっていたりいなかったりというトラブルを抱えていたから難しいレースだった。最後はカルロスがタイヤに苦しんでいたのは分かっていたし、僕の方がタイヤが良い状態だったのも分かっていたから抜くことができた。ポイントを獲ることができて良かったよ」

 1ポイントを獲ることができたとは言え、実状はトロロッソ・ホンダとしてかなり苦しい戦いを強いられた。

 パワーサーキットのカナダだけにその理由をパワー不足に求めるのは簡単だが、必ずしもそれだけではなさそうだ。両ドライバーともにレース状況の中でパワー不足を感じる場面はなかったと話している。

「パワー不利はそれほど感じなかったよ。他チームと比べてダウンフォースレベルの違いなどもあるし、詳しいことは僕には分からない。2000馬力のエンジンをくれるなら喜んでそうするけどね。メルセデスAMGやフェラーリとの差は以前ほど大きくないし、レースでは僕らも充分に戦える。パワーの問題ではないよ」

 ジル・ビルヌーブ・サーキットはストレートが長いレイアウトではあるが、ラップタイムとしてはいかに低速・中速コーナーで稼ぐかが重要になる。ストレート速度を稼ぐためにダウンフォースを削りながらも、いかにコーナリングスピードを確保するか。その根本的なポテンシャルがライバルに劣っていたのか、そのバランスを見出す術が劣っていたのか。

 いずれにしてもそれをきちんと分析し解明することが今後のマシン開発とセットアップ技術の向上に繋がる。そんな厳しいレース週末でさえしっかりと1ポイントを持ち帰ることができたことも、トロロッソ・ホンダの成長を表わしていると言えた。