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Yahoo!スコアで議論白熱、信用スコアはユーザー行動を「ハイスコア取るゲーム化」させ、歪める懸念も

2019年06月16日 10:41  弁護士ドットコム

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ヤフーは7月1日から、ユーザーの購買履歴や行動履歴から独自に算出した「信用スコア」を外部企業に提供すると発表した。「Yahoo! スコア」と呼ばれるもので、ヤフーはユーザー本人から同意を得て、本人の利益になる場合だけしか提供しないと説明している。


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しかし、スコアの作成にあたっては、ユーザーの「同意」はデフォルトで設定されており、ユーザー自ら手続きしないと同意したものとみなされるオプトアウトの手法がとられている(外部提供については同意を取得する)。また、同意を拒否する手続きも分かりづらいなど、発表当初より問題点が指摘。ネットで議論となっている。



これを受け、情報法の専門家らでつくる一般財団法人情報法制研究所(JILIS)は6月15日、東京大学・本郷キャンパス(東京都文京区)で開かれたシンポジウムで緊急に「信用スコア問題」のパネルディスカッションを行なった。近年、こうした個人を格付けする「信用スコア」ビジネスに参入する動きが活発化しているが、なぜ多くの人が懸念を示しているのか、社会にどう影響を与えるのか、さまざま角度から議論された。



●中国の信用スコア「芝麻信用」はどう使われている?

パネルに登壇したのは、情報法の専門家やブログやFacebookなどでいち早く「Yahoo!スコア」に対して懸念を示した識者ら。その一人である武蔵大学の庄司昌彦教授(JILIS上席研究員)はまず、信用スコアの事例として、中国・アリババグループのアント・フィナンシャルが運営する「芝麻(ジーマ)信用」を紹介した。(発表資料: https://www.slideshare.net/MasahikoShoji/ss-149830622 )



「芝麻信用」は、アリババグループの決済サービスの一部として2015年にスタート。アリババグループのサイトでの購入履歴などから、ユーザーのスコアを算出するという。庄司教授によると、ユーザーのメリットとしては、スコアが高ければ低金利でローンが組めたり、レンタルサービスでデポジットが不要になったりする。また、ホテルや病院の予約で優遇される、シンガポールなどのビザが取得しやすくなる、婚活サイトで有利になるといったこともある。



一方、今回注目を集めている「Yahoo!スコア」は「芝麻信用と似ている」という。スコアは、本人情報の登録率や、信用行動として、「Yahoo!ショッピングの利用状況」「知恵袋での活躍」「飲食店のキャンセル率」などによってスコアが生成される。庄司教授は、「それがどのように評価されるのか、現時点では自分で確認できないし、IDを持っていれば、デフォルトでスコアが生成されます」として、メリットと同時に信用スコアのブラックボックス化という問題を指摘した。



●「利用者は十分に規約を読んでいないことを前提に」

今回、「ユーザーが自分の信用スコアすら確認できない『Yahoo!スコア』提供が浮き彫りにした問題点」( https://news.yahoo.co.jp/byline/fujisiro/20190610-00129403/ )と題した記事を公開して、いち早く懸念を示した法政大学の藤代裕之准教授 も、「ユーザーが知らないうちにスコアがつくられている。信用スコア自体は不可避だが、こういうスタートでは今後、良い方向にならないと思い、問題提起しました」と語った。



また、ブログ( http://oritako.hatenablog.com/entry/2019/06/12/130910 )でやはり問題点を指摘した関東学院大学の折田明子准教授(JILIS上席研究員)は、自身がヤフー知恵袋のヘビーユーザーで、ショッピングも度々利用しているユーザーであることを明かしたうえで、「オプトアウト以前に、Yahoo!スコアがあることを知りませんでした。びっくりしてメールなども探しましたが、ヤフーからお知らせはありませんでした」と話す。



折田准教授は、利用者の理解や同意の問題を指摘。「利用者は規約を十分に読んでいるでしょうか?」と疑問を投げかけた。専門家が多い会場でも、「利用規約を全て読んでいる人はいますか?」と質問したが、JILISの高木浩光理事らごく一部しか挙手がなかった。折田准教授は「幅広い層が利用するヤフーで、利用規約を読んでボタンを押したから同意した、ということは難しいです」とし、それを前提として実質的な同意を求める必要性を訴えた。



また、京都大学の岩下直行教授は、「芝麻信用は病院の予約など微妙なところにも使われていますが、日本でやったらNGだと思います。信用スコアシステム自体はアメリカで30年前から始まっているものの、インターネットベースでは使いにくい現状がある。新しく生まれてきたYahoo!スコアも悪いとは思いませんが、踏み越えてはいけない線があります。それを議論していけたら」と話した。



●「内心の自由や表現の自由が制限される可能性も」

今後の信用スコアの方向性として、藤代准教授はジャーナリストの立場から、「内心の自由や表現の自由が、信用スコアによって制限されるということが起こりうる」と警鐘を鳴らした。



「現在、香港では交通系カードを使うと位置情報が当局にバレるので、切符を買う人が並んでいるというツイートを見ました。じゃあ、日本は今後、そういう国にならないと言えるのか。日常的に利用しているサービスでスコアが作られ、それが外部に提供された先でどう使われるのか。何かが起きてから議論してからではもう遅い」



●「国にとって最適な羊のような人物をつくるのにも使える」

パネルの司会を務めたJILIS理事長で、新潟大の鈴木正朝教授も、「ポイントカードの時にも指摘されましたが、自分の店の顧客の購買履歴をためて、自分の店のサービスのために使うことは問題ないが、複数の事業者で横断的に展開した途端、同じIDで多様な購買履歴が分析できるようになります。その結果、その人の情報が形成されるようになる」と根本的な問題を指摘した。



信用スコアについては、「ユーザーの行動がハイスコアを取るゲームになってしまうのではないか。その結果、ある一方から高い評価を受ける、たとえば、国にとって最適な羊のような人物をつくるのにも使えます」と危惧を示した。



個人情報保護法の改正案は3年ごとに見直されることになっているが、「それが年内にまとまる時期に、この問題が出てきました」と指摘して、次のように議論をまとめた。



「(個人情報保護法の)中核的な義務は何かと考えた時、AI時代の前哨戦として、コンピューターのデータベースの濫用的な取り扱いについて、規律するための法律ではなかったのではないでしょうか。その原点に立ち返って、本当に悪いところは厳重に管理する、それ以外のところは利活用に関わる手続き的規律としておさめる。そのようなメリハリのついた保護と利用のバランス論に持っていければと思っています。悪い方向ではなく、ハッピーで便利なIT社会になるよう、議論を続けたい」



(6月17日12:30:第2段落に(外部提供については同意を取得する)点を追記しました)