2019年06月15日 10:21 弁護士ドットコム
生涯、縁もない人もいれば、人生をかけて足を運ぶ人もいる。裁判所とはそんな場所だ。裁判や調停にのぞむ当事者にとっては一大事だけに、当日、どんな服装で行けばいいのか気になるものだろう。
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実際、離婚調停を経験した女性は「何を着ていけばいいのかわからなかった。弁護士にも聞きづらい」と話す。この女性は悩んだ挙句、幼稚園の入園式で着た紺色のスーツで行ったそうだ。そこで今回、弁護士ドットコムに登録する弁護士に、依頼者に対してどのような助言をしているのかアンケートを実施。155人の弁護士から回答が寄せられた。
助言した経験の「ある」弁護士は148人で95.5%。「スーツ着用」「ジャージの禁止」といった意見や、離婚による生活の変化を示すために「着古したブランド品」の着用を勧める弁護士もいた。
詳細は以下の通り。
Q1 裁判や調停の前に、依頼者に服装などの見た目についての助言をした経験はありますか。
ある→148人(95.5%) ない→7人(4.5%)
Q2 裁判や調停の結果に、服装などの見た目が影響することはありますか。
自身や周辺で実例があった→15人(9.7%) 実例はないが、ありえる→100人(64.5%) 実例もなく、ありえない→10人(6.5%) わからない・なんとも言えない→30人(19.4%)
具体的に、弁護士たちは、どのような助言をしているのか。
「結婚の挨拶で相手の両親に会うような服装を」「過度にラフな服は避ける、ヤンキー的な外観を与えないようにする」など、いわゆる「きちんとした服」を推す弁護士が多かった。
ただ、そうはいってもさじ加減は難しい。より詳細な助言を紹介していく。
「以前は『調停には学校の保護者会に行く時のような服装』『裁判は原則スーツ』と言っていたが、最近世の中がカジュアル化しているので、事前打ち合わせの時の服装を見て『もう少しきちんと』とアドバイスすることが多い」
「一見してハイブランドだとわかる服装や持ち物は避けてもらう」
依頼者に、服装に対するこだわりがある場合、どう助言するのだろうか。
「本人にスーツが嫌だというポリシーがあれば尊重するが、『裁判というのは、多くの場合、当事者に取って重大事です。裁判官もその認識です。その重大事に際して服装含め丁寧な対応をしようという態度があるかどうかは裁判官にとってそれなりに考慮要素です。それでも、好きな服を着たいならどうぞ』という趣旨のことを言ってスーツを薦める」
裁判でも、刑事事件を扱う刑事裁判と、離婚や慰謝料、損害賠償請求などを扱う民事裁判とでは、違いもありそうだ。まずは、刑事事件についてはどうか。
裁判官や遺族からの視線を意識するためか、次のような助言が並んだ。
「裁判(事件)に対して、真剣に臨んでいないと思われるような格好をしない。被害者(遺族)に反省をしていないととられかねない格好をしない」
「刑事事件の在宅(保釈中を含む)被告人には、ジャージやスウェット、Tシャツに短パン、裸足にサンダル履きは避けるようアドバイス」
「黒は似合っていないと冷淡に見える危険があるため、誠実そうに見える紺をすすめた」
「死亡事故については喪服を着用するように助言する」
「被害者のいる事件では、ドクロ柄などの不穏なプリントのある服装を避けるように伝えている」
なお「拘置所では、裁判員裁判に臨むにあたりネクタイと革靴に見えるサンダルを貸してくれる」という。
続いて、関係する人も多い民事・家事事件ではどうか。案件ごとに、様々な配慮が必要となってくるようだ。
まず、離婚、慰謝料など家事事件の場合には、「ドクロのマークのカバンなどは遠慮してもらう」「(不倫など)男女トラブルの事件で、ミニスカート等の露出度の高い服装や華美な服装を控えてもらう」という。
変わりどころでは「未払いの婚姻費用分担請求事件で、以前の生活水準の高さと現在の生活苦を示すために、やや着古した感のある、派手では無いハイブランド品を着てもらった」という助言もあった。
次に、金銭にかかわるものでは、納得の助言が並ぶ。
「お金がないという理由で和解金を払えないと主張しているときに、『ヴィトンのバックをもってこないように』と助言した」
「自己破産の審尋の際に宝飾品等を身につけず、地味な服を着るように女性依頼者にアドバイスした」
「浪費による免責不許可事由が考えられる破産者の債権者集会に、あまり高そうな格好で来ないように助言した」
服装だけでなく、身だしなみも大切だ。
「入れ墨やタトゥーに偏見を持っている裁判官がいるのでそれらが見えない服装にする」
「金髪を黒に染めるように助言する」
「『髭を剃るように』『ピアスを外す』ようになどと助言する」
「身だしなみを整えて反省を示すために下を向いてひっそりと歩く。堂々としたそぶりはしないように伝える」
などが並んだ。様々な意見を紹介してきたが、「常識的な服装であれば構わない。『心配せずに落ち着いて答えられる服装で来て下さい』と伝える」という点が一番重要なのだろう。
なお弁護士にとっても、依頼人(者)の服装が気がかりになることもある。中には「労働審判で、着なくなった背広をあげたことがある」という弁護士もいた。