今年のF1第7戦カナダGPは、メルセデスのルイス・ハミルトンが優勝したが、この日、ハミルトンはコース上でセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)と戦っていただけでなく、自分のマシンに降りかかっていたトラブルとも戦っていた。
ハミルトンのマシンに問題が発生していることが発覚したのは、予選後のことだった。チームはデータでマシンにオイルリークが発生していることを確認。
しかし、予選3時間半後にマシンはパルクフェルメ管理下に置かれるため、チームはトラブルの修復は、パルクフェルメ管理が解かれる日曜日の朝8時30分以降に行うことにした(もしも、土曜日の夕方6時30分以降に作業すると、パルクフェルメ・ルールを破ることになり、ピットレーンスタートとなる)。
日曜日の朝8時30分から修復作業を開始したメルセデスは、トラブルがスロットルアクチュエータに起因していることを突き止め、FIAにスロットルアクチュエータとそれに関連する油圧システムの一部を交換することを申請する。
しかし、レコノサンスラップを開始するためにピットレーンがオープンなる午後1時半までにその作業を完了させることができなかったメルセデスは、まずハミルトンのマシンをピットレーンが閉鎖される前に出して、グリッド上で作業を継続することを決断する(午後1時36分)。
・13時44分
ハミルトンのマシンがグリッドに着くと、メカニックがタイヤとノーズを外して、修復作業を再開させる。
・13時45分
フロントバルクヘッド上部のカバーを外す。
・13時45分
ただ事ならぬ雰囲気を察して、ハミルトンのグリッド周辺は大勢の人だかりが。ルノーのテクニカル・ディレクターを務めているニック・チェスターも視察に来る。
・13時46分
スロットルアクチュエータに管を接続。
・13時48分
コクピットにメカニックが座って、スロットルアクチュエータ・システムが正常に機能しているかを確認する。
・13時49分
確認を終えて、スロットルアクチュエータの蓋を閉じる。
・13時50分
フロントバルクヘッド上部のカバーを戻す。
・13時51分
ノーズを装着させ、作業完了。
グリッド上で緊急事態が生じることは珍しくない。ただし、多くの場合、現場は混乱し、時に行き場のないフラストレーションをわれわれメディアに「撮るな、あっちへ行け」とぶつけるチームも珍しくない。しかし、メルセデスのスタッフにそんなことをする者はいなかった。
いや、正しく言うなら、そんなことをしている暇がなかった。グリッドに入ることができるメカニックの数は制限されており、グリッドにいたメカニック全員がなんらかの作業をしていたからだ。
緊迫の7分間を戦い抜いたメカニックたちをトト・ウォルフは次のように称えた。
「われわれはレースをスタートさせることができるかどうかわからなかった。グリッド上で作業を見ているだけの者はいなかった。そして、彼らはやり遂げた」
メルセデスの開幕7連勝は、運だけで手にしたものではない。