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aikoは20年間“たまらない気持ち”にさせるラブソングを作り続けてきた 『aikoの詩。』が首位に

2019年06月14日 13:51  リアルサウンド

リアルサウンド

aiko『aikoの詩。』

参考:2019年6月3日~2019年6月9日・週間アルバムランキング(2019年6月17日付・ORICON NEWS)


 今週の1位はaiko『aikoの詩。』。これまでリリースされたシングル表題曲42曲を3枚のディスクに分け、カップリングベストとなる14曲入りのDisc.4も加えた、計56曲入りのシングルコレクション。芦田愛菜が過去の自分と恋を語るCM見て、バックに流れる名曲「キラキラ」を聴いて、それだけでもう胸がいっぱいになった人、多いと思います。aikoの歌のせつなさ刺激力というか、胸キュン発動力というのか、とにかく一瞬で“たまらない気持ち”にさせるパワー、ほんとうに変わらないですね。初週だけで8.9万枚というセールスもおおいに納得です。


(関連:“当たり前”ではなくなることで再定義されるCDリリースのあり方 aikoやANARCHYを機に考える


 さて、このシングルコレクション、何が面白いかって曲順で、時系列ではなく、Disc.1~Disc.3までちゃんと流れが考えられているんです。曲のアウトロを聴きながら次に繋がる曲を選んでいったそうで、想像するだけでも大変な労力。本作はデビュー20周年のアニバーサリーモードに入ったことから作られており、こんなとき、多くのアーティストは“どうせなら成長過程まで見てもらおう”と時系列にすることを選びます。あるいは、“どれも大事な曲だから順番なんて決められない”との思いが強すぎる場合、時系列とかテーマ別、リクエスト制などの方法で問題を解決していく。でもaikoはそうはしなかった。なぜでしょう。


 発売中の『音楽と人』2019年7月号を読むと興味深いインタビューがありました。時系列ではないことを指摘されたaikoは、「そんな怖いことできないです!」と即答。なぜなら「時系列で並べたら〈あぁ、aikoってこういうふうに変わったんや〉って丸わかり」だから。リスナーから見たら彼女ほど変わらないシンガーもいないと思うのですが、そこは本人にしかわからない変化があるのでしょう。そして、このインタビューが凄いのは、この作品は成長記録じゃないというインタビュアーの言葉のあとに飛び出すaikoの発言。いわく、「楽曲は大人にならなくていいんです」。


 なんてaikoらしいんだろうと膝を打ちました。経年、成長という概念、つまり時は流れていくし人は年老いていくものだという前提を、私たちはなかなか捨て切れるものではありません。ひと夏の恋に騒ぐパーティーソングも、出会えた奇跡を綴ったバラードも、それは決して永遠ではない、という前提ありきで作られています。“巡る季節”や“夜明け前”のような単語がポップスに多いのも同じことでしょう。でも、aikoの歌にはそれがない。あるのは、あなたを思っている“今”だけ。時は流れず、ただ、強烈な恋のなかに閉じ込められた“私”がいるのです。変わっていく未来なんて、どこにもない。


 いつの時代の曲を聴いても、一瞬で“たまらない気持ち”が溢れてくるaikoの曲。それは時を忘れたラブソングたち。永遠だから、成長せず、思い出にもならず、達観もしない。だからこんなに生々しいのでしょう。“みんなの恋ってこんなものだよね”とひとまとめにしたり、“あの失恋は辛かったな”と懐かしく回想してしまえば、それはもうaikoの歌にはなりません。こんな強烈なラブソングを20年間ずっと作り続けてきた彼女。天才、という二文字が改めて浮かびました。(石井恵梨子)