トップへ

志尊淳が語る、『潤一』での新たな挑戦 「自分にはない生き方を知りました」

2019年06月14日 10:01  リアルサウンド

リアルサウンド

(取材・文・写真=島田怜於)

 是枝裕和監督を中心に設立された制作者集団「分福」が手がけるプロジェクト『潤一』が6月14日より1週間限定で、丸の内ピカデリーにて公開となる。本作は、直木賞作家・井上荒野の連作短編集が原作の官能ラブストーリー。女性たちを瞬時に魅了するミステリアスな青年・潤一と、様々な背景を持った女性たちとの刹那の愛を描く。


 主演を務めた志尊淳に、“分福”との共同作業の感想や、原作への思い、自身初となるヌード、ベッドシーンへの挑戦についても話を聞いた。


参考:ほか写真はこちらから


ーー原作について「自分の概念が否定された」とコメントしていましたが、改めてその感想を聞かせてください。


志尊淳(以下、志尊):僕は、人とコミュニケーションをとる時に「こう言おう」と考えたり、物事を理屈で考えることが多かったんですが、潤一は本能で生きている。そんな潤一に人間的魅力を感じましたし、自分にはない生き方を知りました。


ーーそんな原作の主人公を、自分自身が演じることにプレッシャーはありましたか?


志尊:最初はありました。でも、そのプレッシャーを考えるより、懸命に役を生きようと思って、そこからなくなっていきました。潤一という役柄に関しては、最後まで掴みきれなかったです。けれど、監督からは「誰にもわからないから掴む必要はない」と言われていて。掴みきれない中でも、「僕が感じる潤一」を作り上げるという作業は、今までやった役柄にはないアプローチで、すごくやりがいがありました。


ーー潤一は、一見すると感情が見えづらい役柄です。どのように役作りをしましたか?


志尊:絶対にテクニックで芝居をしないことは決めていました。作為的に声を小さくしたり、無表情でやろうとしたことは全くなくて、その場で相手と対話したり、なにかを見て感じるままに動くことを意識しました。潤一については、「どんな人物なんだろう? わからない」と感じるのが正解だと思うんです。登場する6人の女性も、潤一に惹かれた部分はそれぞれ違うだろうから、明確に僕から何かのメッセージを演技で表現することもなかったです。


ーー藤井美菜さん、夏帆さん、江口のりこさん、蒔田彩珠さん、伊藤万理華さん、原田美枝子さんという6名の女優との共演はいかがでしたか?


志尊:6名それぞれに距離を縮めるアプローチが違うのが、大変でもありましたが面白かったです。それぞれの女性が求めているものを瞬時に察知して、その欲求に順応したり、潤一ならではのスタンスを崩さないまま会話をしたり……それこそ理屈で演じるのではなくて、セッションのようでした。


ーー本作では、自身初となるヌード、ベッドシーンにも挑戦しています。


志尊:ベッドシーンへの抵抗は全くなかったです。体を出すことが特別なことだとも全く思ってないですし、僕の中では、作品としてその役を届ける一つのアプローチでしかありませんでした。この作品において、セックスはコミュニケーションの一つでしかないんです。本作を観るにあたって、そういうところに興味を持っていただいてももちろんいいと思うのですが、観終わった時に何か感じてくれれば嬉しいです。


「観終わった後のインパクトを大事にしていただきたい」


ーー「分福」との共同作業を通して、「分福」ならではの独自性を感じる場面はありましたか?


志尊:監督の横に監督助手の方がいるんですが、監督助手の方がシーンを撮っている間に気づいたことをどんどん発言していくんです。そのアイデアがいいとなったら、それが採用される。そういった関係性や作り方を初めて見ました。監督だけの範疇でやらずに、周りの方たちの意見も受け入れて、いいと思ったものは使うという、ものづくりとしていいものを目指す貪欲さを感じて、すごく素敵だなと思いました。


ーー志尊さんもスタッフの方々とはコミュニケーションを密にとりましたか?


志尊:役を演じる時は本能的に何も考えず動くことが多かったので、広瀬(奈々子)監督と北原(栄治)監督それぞれの世界観を守りながら、なるべくその前の対話や共有を心がけていました。


ーー本作は、カンヌの国際ドラマの祭典「カンヌシリーズ」のコンペティション部門に日本作品として初めて出品された作品でもあります。


志尊:映会は2000人ほどの方がいらっしゃる場所でやったのですが、フランスの2000人に観てもらえたという事実だけでも嬉しいです。作品を撮っている時は海外の方に観て欲しいということなど考えてもいなくて、とにかく作品を届けたいという気持ちでやっていたんですが、海外で評価をいただけたのは光栄ですし、不思議な気持ちです。


ーーカンヌでの印象的なエピソードはありますか?


志尊:アフターパーティーで、すごく酔っ払った方が「潤一は存在しないんだ!」「あれはファンタジー、妄想の話なんだ。素晴らしかった」と話しかけれくれたのが印象的でした(笑)。「そう捉える方もいるんだ、面白いな」と。


ーー本作は、配信、劇場版、テレビ放送と様々なパッケージングで公開されます。


志尊:例えば、配信と劇場版で、尺が違うだけでも作品のイメージは変わると思いますし、興味を持ってくださったらぜひ違うパターンも観て欲しいですね。この作品は僕が何かメッセージを提示するというより、それぞれの解釈でそれぞれのストーリーにできる作品だと思います。『潤一』がどんな作品か分からないという方もいらっしゃると思うんですが、分からないからこそ、ぜひ観ていただいて観終わった後のインパクトを大事にしていただきたいです。


 カンヌで上映した際も、たくさんのフランスの方から感想をいただいたんですが、みなさんそれぞれ感想が全く違うんですよ。それが『潤一』の魅力かなと思っていて。観る方の捉え方次第でいくらでも深みが出る作品かと思います。(取材・文・写真=島田怜於)