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劇場版「タガタメ」ファンタジー世界で描くメカの魅力とは?「エスカフローネ」以来の挑戦となる河森正治に聞く【インタビュー】

2019年06月13日 13:03  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

『劇場版 誰ガ為のアルケミスト』河森正治×高橋正典 インタビュー
6月14日、全世界で900万ダウンロード突破の本格タクティクスRPGを原作とするアニメーション映画『劇場版 誰ガ為のアルケミスト』が劇場公開を迎える。

制作陣は、総監督に『マクロス』シリーズでおなじみの河森正治、監督に『異能バトルは日常系のなかで』で監督を務めた高橋正典、アニメーション制作はサテライトが担当。
現代社会を生きる女子高生・カスミが異世界のバベル大陸に召喚され、仲間とともに“闇の魔人”と対峙するオリジナルストーリーが展開される。

本記事では、河森総監督と高橋監督にインタビューを敢行。
ゲーム原作のアフターストーリーを描くというある種大胆なアプローチで、『タガタメ』の魅力をいかに表現しているのか? その内幕を話していただいた。
[取材・構成=山田幸彦]

■オリジナルではあるものの、決してゲームからは離れていない

――これまで河森総監督が監督を務めた作品は、そのほぼ全てがオリジナルでしたが、今回の『劇場版 誰ガ為のアルケミスト』はスマートフォン向けゲームを原作としています。原作のどういった部分に魅力を感じましたか?

河森:これまでも原作付き作品のオファーを受けたことがあるのですが、毎回「(原作から)変わっちゃいますよ?」と伝えて、「どんなに変えてもいいからやってください!」というお返事をいただくものの、シナリオやコンテの段階でやり取りしているうちにご縁がなくなることばかりで。(笑)

今回の『タガタメ』に関しては、ゲーム開発初期の段階でOP映像の絵コンテや演出を担当し、コンテ用に考えたアイデアもゲームで反映していただいたという経緯がありました。
お引き受けしたのは、全くゼロからのスタートではないことが大きかったです。

今回の映画化にあたり、ゲームをつくられた今泉潤プロデューサーをはじめとするスタッフのみなさんに、こちらが提示したプランを検討してもらった結果、「これならば、『タガタメ』の世界を崩さずに、独立した映画が作れるのではないか」と承認していただきました。


高橋:『タガタメ』の世界と河森さんの世界が上手く融合するようgumiさん側に意見を取り入れていただいたので、オリジナルストーリーではありますが、決してゲームとは離れ過ぎない作品になっているかと思います。
ふたつの世界観を調和させた結果、面白い形になっているはずです。

河森:もともとあった『タガタメ』の世界に対して、近くにはいるけどちょっと離れたポジションだった自分が入っていくという構造そのものが、我々と同じ現代社会からバベル大陸に召喚されたカスミのポジションと被るところがあって、上手くハマった部分だと思います。

高橋:確かに、アニメのスタッフまとめてカスミに自己投影することができましたよね。

――総監督、監督の役割分担は本作ではどのような形態なのでしょうか?

高橋:企画段階では河森さんが中心となって進められていて、僕はシナリオ会議の初期段階から参加しました。シナリオ会議と、コンテの一部を河森さんに監修してもらいつつ担当して、本格的に制作がスタートしてからは作画などの紙での実作業を僕がメインになって進めています。
3DCGに関しても、河森さんと一緒に演出をつけていますね。

河森:自分は主にストーリー構成と、絵コンテを担当しています。美術監督、撮影監督、作画監督と打ち合わせをして作品表現の大枠の部分を決めた後は、高橋監督にお任せして現場を仕切ってもらっています。

■オリジナル主人公・カスミの造形

――オリジナルストーリーということで、さきほど名前が挙がったカスミをどういう主人公にするかが重要だったかと思います。キャラクター造形やストーリー構成をするにあたり、どのようなことを意識しましたか?

河森:実はカスミは、以前自分が考えていたファンタジー企画のヒロイン像がベースになっています。
自分たちの若い頃って、「やるな!」と止められてもやりたいことをやる人がとても多かったんですが、一時期から「こういうことをやったほうがいい」と言われたことをやる時代になり、さらに最近は、「やってもいいよ」とよほど言われないとやらない人が増えてきた印象があるんですよね。
もちろんそうじゃない人も中にはいるので、今の若い子たちと括ってしまい過ぎるのは危険なんですが。

そんな時代の中で、「自分自身を表現し切れていない子をどう描けるのだろうか」ということに関心があったんです。
根暗なわけではないし、すごくマイナーなものに閉じこもっているわけではない、現代によくいそうなキャラ造形を目指しました。

高橋:カスミは、ただ単に引っ込み思案というわけではなく、おとなしいけれど、興味があるものにはグイグイ突き進んでいく一面がありますよね。

現代でお母さんと会話するシーンでは、基本的には大人しめなのですが、そんな彼女がバベル大陸で変化していく姿を描いています。表情に関しても、おとなしいところはおとなしく、興味の出たところは表情豊かにするといった形でメリハリをつけています。
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■ファンタジー世界で描くメカの魅力

――本作は錬金術という要素が深く世界観に関わってきますが、こちらは以前から関心のあるテーマだったのでしょうか?

河森:もともと錬金術にすごく興味があったんです。ただ、錬金術をテーマとした作品は既に世の中にあるので、オリジナル作品を作るにはハードルが高い部分もありました。
そんな中で、『タガタメ』の世界をお借りすれば、自分のやりたいこともできるんじゃないかと思ったことも、今回総監督をお引き受けした理由の一つです。

また、錬金術とは言うものの、いわゆるスキルとしての錬金術というよりは、「魂の錬成」という人間が必ず通るものをサブテーマとして考えました。

高橋:魂の錬成に絡めて言うと、「“幻影兵”(ファントム:召喚される過去の偉人たち)は『タガタメ』の世界ではどういった立ち位置なのか?」ということが、カスミが召喚されたことで改めて深く掘り下げて行く展開になっています。
ゲームだと、「幻影兵はどこから来てどこへ行く存在なのか」というところまでは触れられていなかったので、そこを取り上げる良い機会かなと考えました。

――今作は「ファンタジーもの」ではありますが、メカも登場します。通常のSFやロボットアニメと違い、ファンタジーものならではのメカの挙動や演出を意識されたことはありますか?


河森:ファンタジーのロボットものは『天空のエスカフローネ』以来になるのですが、SFやミリタリーものはどうしても空気抵抗や、敵の弾をどう避けるか、その世界にはレーダーがあるのか、といった現実の戦いをベースにして考える必要がある。

でも、ファンタジーだとある程度パッション重視で、「等身大の人間対巨大な敵」みたいな構造が取りやすいので、すごく描いていて楽しいんです。感情を表に出していくようなアクションができる。
そこは今回作業をしていて魅力的だと思ったところですね。

高橋:空を飛ぶことひとつとっても、説得力のある画面にするためにリアリティある動きを考えることはありますが、自由度が高いのがファンタジーの良いところですよね。
メカのアイデアに関しては、河森さんがスタイリングから動きまで素晴らしいものを出しているので、自分はそこに乗っかって、さらにブラッシュアップしていく形で進めました。

河森:『マクロス』シリーズにずっと参加してくれているメンバーも多く参加しているので、リアリティを踏まえたうえで、ファンタジーではどうデフォルメして見せているかは、ぜひ注目していただきたいです。

――では最後に、改めて本作の見どころを紹介していただければと思います。


高橋:PVに出てくるザインやセツナを筆頭に、ゲームの中で人気があるキャラクターが多く登場します。ゲームをプレイしている方は、まずはそこを喜んでいただけると思いますね。

河森:時系列的にゲームのちょっと後の世界にしているので、いままで馴染んできた登場人物たちが、少し性格が変わって見える部分もあるかもしれません。あと、やっぱりみんなが活躍するシーンは燃えますよね。

高橋:そうですね。クライマックスは注目です。

河森:嬉しいことに、試写を見てゲームを作られているgumiさんの方々にも盛り上がっていただけたので、その感覚は伝わるのではないかと思います。
そして、プレイ時間は長いけれど画面は小さいゲームとは違い、凝縮された時間の中、縦横無尽に大画面で活躍するキャラクターたちの姿が一番の見どころです。
『タガタメ』ファンの方も、初めて本作に触れる方も、ぜひ劇場に足を運んでみてください。

『劇場版 誰ガ為のアルケミスト』
(C)2019 FgG・gumi / Shoji Kawamori, Satelight