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BTS、デビュー6周年までの背景 “グループ内のバランサー”ジンが果たした役割

2019年06月13日 12:51  リアルサウンド

リアルサウンド

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 初のスタジアムワールドツアーである『LOVE YOURSELF: SPEAK YOURSELF』の北米、南米、ヨーロッパ公演を終えたばかりのBTS。7月に日本公演を控える中、本日6月13日にデビュー記念日を迎えるにあたり、現在は韓国・ソウル、釜山でのファンミーティングに向けた『BTS FESTA』の真っ最中だ。『BTS FESTA』はデビュー記念日をファンと祝うための特別企画で、秘蔵写真やメンバー個人がソロ曲を披露するなど、ファンのための感謝ウィークと言ったところだろう。今年の『BTS FESTA』で作詞作曲に参加したソロ曲「이 밤(この夜)」を披露したのが、メンバーのジン。自分のコンパニオンアニマル達のことを思って書いた切なくも温かい歌詞が印象的な1曲だ。


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 1992年生まれとグループの中で最年長のジンは、元々アイドルや歌手を志していたわけではない。高校2年生の時に俳優・キム・ナムギルの出演していたドラマを見て演者を目指すようになった。現在でも“ビジュアル担当”と言われるほどの整ったルックスの持ち主で、中学生の頃にはSMエンターテインメントからのスカウトを受けたこともあるそうだ。当時は詐欺を疑ったそうだが、受験を終えて建国大学の演劇映画科に進学する準備をしていた時、今度は現在の所属事務所であるBigHitエンターテインメントにスカウトされ練習生になった(2回目だったし、様々な経験をしたくてスカウトを受けた、とのこと)。当時BigHit練習生のボーカルトレーニングを行っていた、『PRODUCE 101』シリーズでもお馴染みのボイストレーナー、キム・ソンウンは、ジンは最も多くレッスンをしたメンバーで、歌の経験が全くなかったために当初は地声程度の音域しか出なかったが、練習熱心で最終的にある程度の音域が出せるようになった、と回想していた。楽曲中ではパート配分は多くはないが、 ジミンとはまた違う高音域で感情表現に優れた歌声の持ち主であり、ライブでの安定感はメンバーの中でもトップクラスと言えるだろう。


 冒頭で触れたソロ曲「この夜」は穏やかでアコースティックだが、『WINGS』収録のソロ曲「Awake」では、本人の心情を乗せた歌詞と共に刹那的なボーカルを味わうことが出来る。ダンス経験も皆無で、練習生になってから始めたために、初期はかなりついていくのが大変だったようだ。ダンスが苦手だというRMと並んで自身のダンススキルをネタにしたりもするが、他メンバーが練習量でカバーしていると言う通り、楽曲ごとにセンターパートが増えてきている。パフォーマンス面では目立つ方ではないが、個人活動の少ないBTSの中では、ソロでのバラエティ出演が多い。初期はあまり主張しない大人しいイメージだったが、徐々に“親父ギャグ”好きや、ルックスに自信があることをあえて強調するなど、笑いに対して貪欲なキャラクターを表に出し始めた。キャラクターチェンジのきっかけは「FIRE」での投げキッスの振付。ファンの反応がとても良いので、それ以来大げさな振る舞いをするのが楽しくなったとのことだ。


 このように、どちらかといえばキャラクター面で目立つことが多いが、ジンの最も大きな役割の1つは“グループ内のバランサー”と言えるだろう。デビュー後もほとんどのグループがひとつ屋根の下で寝食を共にする韓国のアイドルグループでは、家族のような特殊な関係性が芽生えやすい。そのような状況においてはパフォーマンスや楽曲制作などでのリーダーとはまた別に、生活面での真っ当さを保つためのリーダーも必要だろう。年功序列的な社会の韓国では年齢での上下関係が出来やすい傾向がある。しかし、成功しているアイドルグループでは、リーダー以外にグループ内の調整役を務める年長メンバーの存在が珍しくない。


 ジンは最年長であるが、年下メンバーと同じ目線ではしゃいだりいじられることに躊躇がなく、メンバーと衝突した時も自分から謝ることができる姿は様々なビハインドやドキュメンタリーで周知されている。とかくファンに発言が向きがちなBTSの中では珍しく、ファンドム外の一般リスナーに感謝の言葉を述べたり、ルーティンになりがちなコンサートツアーで毎回異なるサプライズを個人で用意したりと、開けた視点の持ち主でもあるようだ。BigHitの代表パン・シヒョクは、ジンのことを「デビュー前から変わらず常識的な感覚を失わないメンバーで、ほかのメンバーが逸脱しないように力を貸してくれる存在」と表現していた(参考:OSEN)。人気アイドルであるほど、一般社会とは隔離された環境で多感な時期を過ごさざるをえないが、そういう中で年長メンバーが「一般人の感覚を失わない」姿を見せることはグループ全体がバランスをキープする上でポジティブな効果があるのだろう。他メンバーがオンライン大学に進学した一方で、ジンは唯一活動の合間に一般の大学に通学し、大学院まで進学したメンバーでもある。


 現在では世界で最も注目されるボーイズグループの1つとなったBTSだが、人気が高まってからも順風満帆というだけではなかったようだ。2018年末の『Mnet Asian Music Awards(MAMA)』大賞受賞スピーチで、「2018年初めにかなり辛い時期があり、解散も考えた」というジンの発言があった。


 2018年頭といえば『Billboard Music Awards (BBMA)』で2度目のトップ・ソーシャル・アーティストを受賞し、米音楽賞『AMA』でのパフォーマンスなどアメリカでの注目度が急速に高まっていた時期でもある。膨張していく海外人気や注目度、韓国内からの期待と疑心の目など、自分たちの期待や予想を超える範囲の出来事に対する戸惑いや困惑は、当時の発言などからも断片的に伺うことは出来た。喜ばしいはずの人気や期待からくるプレッシャーに耐えきれず、グループとしてのバランスを失う可能性もあったはずだ。しかしジンがあえてそのことを口にしたのは、逆に今現在はグループとしてあらゆる“覚悟”が固まっている証だとも言えるのではないだろうか。他人同士が集まって形成されている“グループ”のモチベーションや目的意識を長期間保つことは難しい。飛び抜けて波乱万丈なキャリアの末に6周年を迎えたBTSが“同世代の青年達の集団”としての関係性を保つ上で、ジンは最も重要な役割を果たしてきたメンバーの1人と言えるだろう。(DJ泡沫)