2019年06月13日 10:41 弁護士ドットコム
ある酒販店の入り口に、アルバイトを募集するこんな張り紙があった。
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「アルバイト募集 男子大学生 元気で明るい方 時給1200円」
酒屋の仕事だから、ビールケースや酒瓶などの運搬もあるはずだ。力仕事に適性のある女性もいるが、採用効率から男子に限定したいということなのだろう。
しかし、男女雇用機会均等法は、性別を限定した求人を原則禁止している。こうした募集の仕方に問題はないのだろうか。徳田隆裕弁護士に聞いた。
ーー「男子募集」は問題ないのでしょうか?
「問題があります。男女雇用機会均等法は、『事業主は、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない』(5条)と規定しています。
今回のように男性だけを対象として、女性を排除するような募集をすると、この条文に違反すると考えられます。
ーー性別を限定して募集できる業種はあるんでしょうか。
「厚労省のガイドラインに具体例が記載されています。たとえば、警備会社が防犯上の要請から男性限定で募集するのは大丈夫です。
以下、『労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針』(平成18年厚生労働省告示第614号)の第2の14(2)から引用します。
イ 次に掲げる職種に従事する労働者
① 芸術・芸能の分野における表現の真実性等の要請から男女のいずれかのみに従事させることが必要である職務
② 守衛、警備等のうち防犯上の要請から男性に従事させることが必要である職務
③ ①及び②に掲げるもののほか、宗教上、風紀上、スポーツにおける競技の性質上その他の業務の性質上男女のいずれかのみに従事させることについてこれらと同程度の必要性があると認められる職務
ロ 労働基準法第61条1項、第64条の2若しくは第64条の3の規定により女性を就業させることができず、又は保健師助産師看護師法第3条の規定により男性を就業させることができないことから、通常の業務を遂行するために、労働者の性別にかかわりなく均等な機会を与え又は均等な取扱いをすることが困難であると認められる場合
ハ 風俗、風習等の相違により男女のいずれかが能力を発揮し難い海外での勤務が必要な場合その他特別の事情により労働者の性別にかかわりなく、均等な機会を与え又は均等な取扱いをすることが困難であると認められる場合
ーー形式的に性別を明記しなくても、応募者が女性だからということで採用を見送ることもあると思います。
「これも問題があります。先ほどの指針の第2の2(2)では、『ハ 採用選考において、能力及び資質の有無等を判断する場合に、その方法や基準について男女で異なる取扱いをすること』は、男女雇用機会均等法5条に違反することになると規定されています。
『女性』という理由で採用を見送ることは、これに該当すると考えられます」
ーーでは、酒屋側が希望していると思われる「力持ち」を集めるには、どんな求人方法が考えられるでしょうか?
「『力持ち募集』とした場合、『間接差別』(男女雇用機会均等法7条)に該当する可能性があります。
間接差別とは、一見性別が関係ないように見える取扱いであっても、運用した結果どちらかの性別が不利益になってしまうことをいいます。
労働者の体力を要件とする募集は、間接差別になるおそれがあると定められており(男女雇用機会均等法施行規則2条1号)、『力持ち』も体力を要件とする募集に該当して、間接差別になるおそれがあります。
そこで、仕事内容を求人情報に記載するのがいいと思います。酒販店の場合であれば、「~kgのビールケースの持ち運び業務」などと仕事内容を記載しておけば、労働者の体力という要件に該当しませんし、求人情報を見た人に、暗に力持ちを募集しているのが伝わえると思います。
求人情報には、性別や体力について何も記載せずに、面接のときに『重い荷物を持ってもらう仕事がありますが、大丈夫ですか』と確認して採用するという方法も良いのではないでしょうか」
ーー性別に関係なく、答えが「大丈夫」なら採用すれば良いし、「無理です」なら見送れば良いわけですね。
「もっとも、女性労働基準規則2条1号及び3条において、満16歳以上~満18歳未満の女性であれば、断続的作業で25kg以上、継続的作業で15kg以上、満18歳以上の女性であれば、断続的作業で30kg以上、継続的作業で20kg以上の重量物を取扱う業務をさせてはならないと規定されています。
そのため、酒販店に18歳以上の女性が応募してきた場合、継続的に20kg以上のビールケースを運搬する仕事はさせてはいけないので、このような仕事をしてもらう人を採用したいのであれば、応募してきた女性の採用を見送ってもよいことになります」
ーーいずれにしても、雇う側は「面倒」だと思うかもしれませんが、女性というだけで選択肢を奪ってはいけませんね。それは雇う側にとっての機会損失でもあります。
【編集部より】
一部、加筆しました。(6月13日 14時10分)
女性労働基準規則について、加筆しました。(6月14日 10時15分)
【取材協力弁護士】
徳田 隆裕(とくだ・たかひろ)弁護士
日本労働弁護団、北越労働弁護団、過労死弁護団全国連絡協議会、ブラック企業被害対策弁護団に所属し、労働者側の労働事件を重点的に取り扱っています。「未払残業・労災・解雇から働く人を守る金沢の弁護士ブログ」(https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog)を開設して、毎日、労働問題について情報発信をしています。
事務所名:弁護士法人金沢合同法律事務所
事務所URL:https://www.kanazawagoudoulaw.com/