2019年F1第7戦カナダGPは、フェラーリのセバスチャン・ベッテルがトップでフィニッシュしたもものタイムペナルティにより2位降格。優勝はルイス・ハミルトンのものとなった。F1ジャーナリストの今宮純氏がそのときの状況を分析する。
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「ベッテルは、アウト(5秒加算タイムペナルティ)」というジャッジを下したスチュワード裁定によって、カナダGPは2番手にいたハミルトン(メルセデス)が3.658秒差で勝利した。
断罪されたベッテルは1.342秒先にチェッカーを受けたがそれ以上に引き離すことはかなわなかった。
48周目、彼の前には2台の周回遅れがいた。乱流の影響を受ける距離ではなかったが視界には入っていた。すぐ後ろにハミルトン、3コーナーへのターンインのリズムが狂った。
左側にある芝生を通過するしかない。ここで急減速したらグリップはなく、スピン状態のまま4コーナー出口のコンクリートに激突する……。
なるべくまっすぐなラインを保ち、芝生を刈るようにして直進姿勢をキープ、ミラーなど見る余裕はなかった。
コースに戻った瞬間グリップの違いで滑り、何度か彼はステアリング修正を試みている。そのアクションのひとこま(映像証拠)がハミルトンに対する右への“幅寄せ”=斜行運転とみなされ、危険なコース復帰プレーと判断された(のだろう)。
F1競技規則・第38条1項に違反、同38条3項で定められたペナルティのうちの“5秒タイムペナルティ”が科せられた。
スチュワード(四者で構成)はレース終了後に審議対象者たちを召喚し事情聴取するのではなく、ただちに取り組んだ。ちなみにその四者は今季バーレーンGPに次いで2度目のエマニュエル・ピロ氏(過去F1で37戦出走)とドイツ人、ベルギー人、カナダ人のベテラン・オフィシャルたちである。
レース進行中と終了後にもベッテルは自分の言葉で激しく“正当性”をアピールした。彼にできることはそれしかなかった。
以前のように直接コントロールタワーに出向き、スチュワードと対峙するなどもってのほか。表彰セレモニーに則って行動しないとさらなるペナルティがかぶせられる……。
■きわどいラインで危うい瞬間ではあったベッテルと後続のハミルトン
論点を変えよう。一方の当事者であるハミルトンには、3コーナーから4コーナーでの一連のプレーがすべてはっきりと見えていた。
確かに後続のハミルトンは“事故回避”のためにブレーキング(減速)と、きわどいラインを強いられた。それは自分が相手との接触を避けるためだ。
危うい瞬間だったがふたりはタッチせず、二台は壁もヒットせず、そのままのオーダーで切り抜けていった。個人的にはチャンピオン同士だからできて、彼らでなければ何が起きても不思議ではなかったと思われる。
47周目までのレースはベッテルとハミルトンの緊迫した展開ばかりか、上位から中位、下位まで全域で見ごたえあるドライバーズレースが続いた。
絶好のレース日和に満員となった40回目のジル・ビルヌーブ・サーキット、惜しみない声援と拍手がトップランナーであり、2位敗者のベッテルにおくられた。
スチュワードの権能とレギュレーションの拘束が浮き彫りにされたカナダGP。いまのフォーミュラ・ワンのこれが現実である。
最後にベッテルがあの3コーナーでミスを犯したのは事実、そこまでハミルトンが追撃にうちこんだのも事実、スチュワードがルールブックに従って罰したのも事実。
観戦した多くのファン(他のドライバーたち)が、「この裁定は限りなく“アウト”」とジャッジしたのも、もう一つの事実だ――。