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『なつぞら』山田裕貴の演劇への思いが溢れ出す 『人形の家』がなつと雪次郎にもたらしたもの

2019年06月11日 12:21  リアルサウンド

リアルサウンド

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 『なつぞら』第62話では、『人形の家』などの名作を残した劇作家・イプセンについて、雪次郎(山田裕貴)が言及する場面があった。雪次郎の台詞によれば、イプセンは演劇や文学の目的は問題の解決にあるとはしなかったという。目的はあくまで“人間の描写”。「風車」のカウンターでこんなことを語っていた雪次郎の姿からは、彼が演劇に対して抱く思いの強さが垣間見えた。


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 “人間の描写”。これは演劇や文学の世界にとどまらず、アニメーションの世界でも同じことが言える。蘭子(鈴木杏樹)が出演する演劇を観たなつ(広瀬すず)は、自室に戻ると、再び机に向かって『白蛇姫』のワンシーンを描きはじめるのだった。


 なつは以前、「自分が描きたいものに、自分の手が追いついていかない」と言っていたが、彼女の表現したい、描きたいという熱量は実に大きなものである。そんななつの表現への衝動を後押ししているのは、きっと“人間の描写”に対する思いの強さもあるはずだ。雪次郎の話を聞いた後、「“人間の描写”か……。あんな芝居も絵に描けたらすごいなぁ」と呟いていたなつ。かつて、たまたま練習していた白娘の絵が麻子(貫地谷しほり)を驚かせたように、人の心の機微を描き出すのはきっとなつの得意分野であるはずだ。将来なつがどんな“人間の描写”を見せてくれるのかが楽しみである。


 さて、第62話の放送では実際になつが「トレース」と呼ばれる作業を練習してみるシーンも。動画の線を崩さないでセルに写し取ることをするわけであるが、なつは次から次へと同じ絵でトレースをさせられ、計10枚の作業をこなしたのだった。そしてその10枚を重ねてみると、10枚が同じように綺麗な線でトレースできているわけではないことに気づく。まだまだ技術的には勉強の余地があることが分かった体験であったわけだが、今後のなつの努力による成長に期待したい。


(文=國重駿平)