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芸能人の薬物問題「土下座を慣習にしないで」、依存症者や家族が追い詰められる懸念

2019年06月11日 10:51  弁護士ドットコム

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薬物依存症問題について考えるイベント「やっかれんフォーラム【差別と偏見・排除のない社会を…】~私たちは薬物健康障害対策を求めます~」(主催・NPO法人全国薬物依存症家族会連合会(やっかれん))が6月9日に川崎市で開催され、精神科医の松本俊彦さん(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長)らが登壇した。


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松本さんは、大麻取締法違反(所持)の罪で起訴された「KAT-TUN」の元メンバー田口淳之介さんが7日に保釈された際、土下座して謝罪したことに触れ、「薬物で逮捕された著名人がみんなの前で土下座するという慣習が続かないようにしてほしい。これを許してしまうと、家族も土下座をしなければならなくなる。土下座するよりもダルクや自助グループなどにつながる方がはるかに大事」と語った。



違法薬物を使用・所持した芸能人が逮捕される度に、巻き起こるバッシングと求められる「反省」。一方で、差別や偏見に傷ついている薬物依存症者や家族がいることも事実だ。



松本さんは「薬物依存症の回復に必要なのは、社会とのつながり。回復しやすい地域社会をつくっていくことが重要」と訴えた。(編集部・吉田緑)



●多くの人が薬物依存症者を知らない

薬物依存症者への偏見は根強い。実際に、ダルク(薬物依存症者の回復支援をおこなう民間団体)の施設開設や移転をめぐり、各地で住民による反対運動が起きている。



「多くの人は『生』の薬物依存症者と会ったことがないと思います。それなのに、差別や偏見が起きている」と松本さんは問題視する。



松本さんは「覚せい剤やめますか、それとも人間やめますか」などの啓発や中学・高校などでおこなわれている薬物乱用防止教育によって、薬物依存症者に対するネガティブなイメージがすりこまれている可能性があるという。



「薬物依存症者はモンスターではありません。迫害や排斥をするのは、薬物依存症者が身近にいないからだと思います。知り合いに1人でも薬物依存症の当事者がいれば、絶対にできない」(松本さん)



薬物依存症から回復し、現在は川崎ダルクの施設長を務める岡崎重人さんも「『知らない』ということは偏見・差別を生みやすい」と指摘。



「自分が依存症だということを容易に認めることができない社会だと感じることがあります。そばにいる支援者や家族などに『自分は依存症かもしれない』と相談できる社会になってほしい」と岡崎さんは述べた。



●隠すことなく事実を話せる「フラットな社会」を

当事者だけではない。薬物依存症者の家族についても、どのような悩みを抱えているのかはほとんど知られていない。





自らも薬物依存症者の家族である横川江美子さん(やっかれん・理事長)によると、声を上げたくても上げられず、自分を押し殺して生きている家族が少なくないという。



中には、家族の薬物問題が新聞沙汰になったことで地域の人に知れ渡り、サークルのキャプテンを辞めざるを得なくなったり、同窓会でつい自分が抱えている薬物問題の話をしてしまい、場が白けてしまったことを機に、人が集まる場に行くことができなくなったりした家族もいるようだ。



また、薬物の問題を相談した先で「育て方が悪い」「愛情が足りない」などと言われ、その後が続かなくなる家族も多いという。



「薬物依存症者の家族であろうとなかろうと、隠すことなく事実を話すことができる。スムーズな人間関係ができる。そのようなフラットな社会になってほしい」と横川さんは将来への希望を語った。



●アディクションの反対語は「コネクション」

松本さんによると、アディクション(依存、酒や薬に溺れた状態)の反対語は「しらふであること」や「薬を使っていない状態であること」ではなく、「コネクション(社会とのつながり)」といわれているようだ。



「薬物依存症になる人の多くは、家族関係、職場の問題など、さまざまな生きづらさを抱えている人たちです。そして、薬物依存症は『物質にしか依存できない』『安心して人に依存できない』病気です。



孤立している人、社会とのつながりがない人は依存症になりやすく、依存症になってしまうとますます社会とのつながりを失ってしまいます。



回復のチャンスを得るためには、まずは誰かとつながることが大切です」(松本さん)