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山本美月が表現する、内に秘めた力強さ 『パーフェクトワールド』は新たな代表作に

2019年06月11日 06:11  リアルサウンド

リアルサウンド

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 4月にスタートしたドラマ『パーフェクトワールド』(カンテレ・フジテレビ系)が、いよいよ佳境に入り、最終回を目前にして大きな盛り上がりを見せている。本作で主演の松坂桃李と共に、ヒロインを演じているのが山本美月。彼女にとって『パーフェクトワールド』は新たな代表作であり、女優として次のステップを踏み出す節目の作品となっている。


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 高校時代、演劇部に所属していた山本は、高校1年生で今の事務所・インセントにスカウトされる。高校3年生で東京スーパーモデルコンテストのオーディションを勝ち抜き、『CanCam』の専属モデルに。とはいえ、小さなカットでの掲載や撮影に呼ばれないなど、厳しい下積みの2、3年を経て、モデルとして軌道に乗り出したのは、映画『桐島、部活やめるってよ』に出演が決まった2012年。山本にとっては『桐島、部活やめるってよ』が本格的な女優デビュー作品である。back numberの6th Single『わたがし』のジャケットを飾ったのもこの年だ。


 嘘が嫌いだという山本は、オタク趣味を解禁し、モデルとしても“ズル可愛い”というキャッチと共に独自のカラーを確立。目標だった雑誌カバーも達成し、女優としても『アオイホノオ』(テレビ東京系/2014年)、『HOPE~期待ゼロの新入社員~』(フジテレビ系/2016年)、『嘘の戦争』(カンテレ・フジテレビ系/2017年)といったドラマでヒロインを、映画『貞子vs伽椰子』(2016年)、『少女』(2016年)、『ピーチガール』(2017年)などで主演を務めていく。


 山本にとってターニングポイントとなったのが、2017年7月、『CanCam』専属モデルからの卒業。27歳にして初めて刊行した写真集『Mizuki』のインタビューで、山本は「『CanCam』という鎧を脱ぎ去った後の本当の私ってどんな人間なんだろう、という部分を、私も見てみたかったんです」と8年間務めた専属モデルというイメージからの脱却の思いを語っている。確かに、山本の『CanCam』卒業以降に目を向けると、ドラマ『刑事ゆがみ』(フジテレビ/2017年)ではミステリアスな敏腕ハッカー、ヒロインも務めた『モンテ・クリスト伯 ―華麗なる復讐―』(フジテレビ/2018年)では復讐劇の中で母親役を演じるつらい立場を演じていた。『桐島』や『ピーチガール』のような弾けた女子高生役のイメージから、映画『女子ーズ』(2014年)のようなコメディ、またはシリアスな演技もこなしつつ、自身のSNS(Instagramは2018年3月、Twitterは2018年10月に開設)では「#近々の美月」を始めとした等身大の一面を見せる、絶妙なバランス感覚と自己プロデュース能力を持つ人物でもある。


 そんな山本が、連続ドラマとしては『モンテ・クリスト伯』に続き、ヒロインを演じるのが『パーフェクトワールド』。大学生の時に事故に遭ったことが原因で、脊髄を損傷し、下半身が不随になってしまった初恋相手・鮎川樹(松坂桃李)と再会する川奈つぐみ(山本美月)。劇中では、樹と付き合うことになったつぐみが彼に甘える初々しい表情、障害という困難の前に葛藤する様子など、様々な山本の演技への挑戦が見える。特に第5話のラストで樹から別れを切り出されることを悟るシーンは、表情からつぐみの心の機微が伝わる場面だ。


 新章に突入する第6話から、つぐみの表情は一変していく。仕事を通じて再び向き合う樹とつぐみ。樹はつぐみに「自分の意見をしっかり持ってて堂々と前を向いている。強くなったな」と声をかける。放送前の舞台挨拶時点でのインタビュー(松坂桃李×山本美月『パーフェクトワールド』対談 「思い切って頼ることも時には必要」)で山本は意外と人間臭いつぐみに足りないものとして「自分に対する自信のなさ」と答えている。山本自身もネガティブだと言うが、樹との出会いを機に一つずつ生まれ変わっていくつぐみの姿は、『CanCam』卒業以降の彼女と重ね合わせもさせる。山本もインタビューの中で触れているが、『パーフェクトワールド』のつぐみは「ザ・ヒロイン」というイメージが先行してあるが、自分の意志を強く持った逞しい女性である。


 近作として『パーフェクトワールド』のほかに山本が出演しているのが、大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』(NHK総合)と映画『ザ・ファブル』(6月21日より全国公開)。『いだてん』で演じるのは、ストックホルムオリンピックが開催されていた当時、まだ珍しかった女性記者・本庄。金栗四三(中村勘九郎)、三島弥彦(生田斗真)を取材する男勝りな口調と華やかな出で立ちは、モデルとしてのキャリアを存分に活かした姿でもある。中でも本庄が活躍するのが、第14回「新世界」。三島や天狗倶楽部が半裸になる男臭い会場で、紅一点として役割を果たすのが本庄だ。『ザ・ファブル』においても、アウトローでクレイジーな面々が勢ぞろいしている作品において、ただ一人素直で優しいミサキを演じている。事件に巻き込まれるミサキをファブル(岡田准一)が助けるという、ヒロインに近い存在であり、彼との出会いを通して新たな一歩を踏み出す姿は、『パーフェクトワールド』に通ずる部分でもある。


 柔和な笑顔の奥に、女性としての力強さを兼ね備えた山本美月。『パーフェクトワールド』を経て、次作ではどんな表情を見せてくれるのだろうか。  (文=渡辺彰浩)