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SPICY CHOCOLATEがラブソングで大切にしていること シェネル&Beverlyとの制作秘話を語る

2019年06月10日 23:41  リアルサウンド

リアルサウンド

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 6月4日にSPICY CHOCOLATEの新曲「最後のPiece feat シェネル & Beverly」が配信リリースされる。その10日後の6月14日には同曲に加え、新曲「どんなあなたも… feat RAY & Leola」、「ずっとマイラブ feat. HAN-KUN & TEE」と「あなたと明日も feat. ハジ→ & 宇野実彩子(AAA)」のSC Remixを収録したデジタルEPの配信もスタートする。


 日常に寄り添ったリアルなラブソングと、様々なアーティストをフィーチャリングするスタイルでシーンを疾走し続けるSPICY CHOCOLATEは、今年で結成25周年を迎える。その歩みの中にはどんな変遷があったのか。そして、彼らの存在感を後押しする独自のスタイルはどのように形作られていったのか。リーダーのKATSUYUKI a.k.a.DJ CONTROLERにこれまでの軌跡を振り返ってもらいながら、稀代のヒットメーカーである彼らのクリエイティビティの秘密と、新作にまつわる話をじっくりと聞いた。(もりひでゆき)


(関連:セクシーなダンスに注目! SPICY CHOCOLATE「シリタイ feat. C&K & CYBERJAPAN DANCERS」MV撮影に潜入


■ハッピーエンドで終わらせたい気持ちが常にある


――SPICY CHOCOLATEは今年で結成25周年を迎えます。


KATSUYUKI:はい。結成した当初は、まさか25年もやれるとは思っていなかったので、本当にありがたいなと思いますね。だからこそ、ここからもより良いものを残していきたいと思っています。


――活動してきた時間の中で、ご自身から生み出される音楽に何か変化はありましたか?


KATSUYUKI:かなり大きく変わってきたとは思います。僕がレゲエに魅了されたのは、そこで歌われるレベルな部分ーー「反逆」の精神からだったんですよ。だから活動の最初の頃はレベルミュージックを主にやっていました。ただ、レゲエにはもうひとつ「ラブ」な要素もあるから、そちらにも目を向けるようになっていきました。30歳を過ぎた頃かな、大切な人との別れを何度か経験したことで愛の大切さをより感じるようになり、それまでは恥ずかしくて使えなかった“愛”という言葉を使ったラブソングも作るようになったんですよね。


――今やSPICY CHOCOLATEのラブソングは多くの人たちを虜にしていますが、実際“愛”をメッセージする曲を作るようになってみて感じたことはありましたか?


KATSUYUKI:“愛”ってすごく簡単な言葉だとは思うけど、その意味はすごく深くて大事なものだなって改めて実感しました。愛の形には本当にいろいろなタイプがあるから、音楽に関しても多彩な表現ができるんですよね。


――年齢を重ねていくごとに、愛への向き合い方には広がりも生まれるでしょうしね。


KATSUYUKI:そうそう。僕にしても最初は男女間の恋愛を曲にするところからスタートしてますけど、それだけじゃないなって年々強く思うようになった。家族をはじめ、友達や仲間、上司、恩師など、愛を向ける対象は本当に様々ですからね。だから、一見男女の恋愛を描いた内容に聴こえる曲であったとしても、深く噛みしめることで幅広い視点を持って受け取ってもらえるような仕掛けをすることは昔以上に多くはなってます。


――ラブソングを作る上で大事にしているSPICY CHOCOLATEなりの流儀は他にもありますか?


KATSUYUKI:音楽と一緒に僕自身も成長させてもらっているので、そこで得た気づきを作品に込め、たくさんの人に届けることは意識していますね。その上で、間違ったことではなく、「それってやっぱ正しいことだよね」ってみなさんが思えることを形にしていきたい。テーマはもちろん、歌詞の言葉使いなんかも含めて、そこを大事にすることは自分たちにとっての大前提なんですよ。


――これまで様々なタイプのラブソングを作られてきていますけど、ドロドロした内容の曲は皆無ですもんね。失恋を描いた悲しい曲であっても、主人公はしっかり前を向いている曲が多いですし。


KATSUYUKI:曲の作りとして、できればハッピーエンドで終わらせたい気持ちは常にあって。聴き手の心に何かわだかまりのようなものを残して終わるのではなく、「いろいろあったけど良かったよね」っていう終わらせ方は意識してやっているところですね。例えば下世話なテーマの曲が瞬間的に流行ることも世の中には確かにあるんですよ。でも僕たちはそうではなく、世のため人のため、そして自分のために正しい曲を生み出し続けたいと思っている。そういう考え方になり、メジャーで「ずっと feat. HAN-KUN & TEE」(2012年リリース)を出したあたりからは、自分たちに吹く風の向きも変わったような気がしますね。僕らの曲を聴いた人たちに「ほんとに救われました」って言われることも多くなったので。


■アーティストのフィーチャリングはレゲエ文化からの発想


――また、SPICY CHOCOLATEの楽曲の大きな特徴と言えば、多種多様なアーティストをフィーチャーするスタイルだと思います。レゲエをルーツとする出自でありながらも、そこにとらわれない多ジャンルの方と積極的にコラボしていく柔軟さはどう培われていったものなのでしょうか?


KATSUYUKI:そこはね、いろんなシンガーやラッパーとコンビネーションして自分だけにしかないアンセムを作るスペシャルダブプレートっていうレゲエ文化からの発想なんですよね。いかに誰も想像できない組み合わせを提示して、いかに盛り上げられるかっていう。だから僕らが今回リリースする新曲ののシェネルとBeverlyだったり、HAN-KUNとTEEだったりっていう聴き手にサプライズを感じてもらえるような組み合わせをしていくのはすごく自然なことなんです。逆に言えば、ルーツがレゲエじゃなかったらこういうスタイルにはなってなかったとは思いますね。その上でジャンルの垣根や壁を壊して、ボーダレスに音楽でひとつになりたいとも思っているので、R&Bシンガーからダンス&ボーカルグループの方まで、いろんな方々と一緒に曲作りをさせてもらっている感じで。タイミングが合えば、まだやったことのないロックや演歌の方なんかともご一緒してみたい気持ちもありますから。


――では、SPICY CHOCOLATEがフィーチャーするアーティストに共通している部分はなんだと思いますか?


KATSUYUKI:表現にブラックミュージック的な黒い部分を感じさせてくれる方が基本的には多いかなとは思います。あとは実際にライブを観せていただいて、そこで何か響くものがあった方々ですかね。


――「響くもの」とは?


KATSUYUKI:声の良さはもちろんなんですけど、やっぱり情熱ですかね。伝えたいもの、表現したいと思っていることが明確な方には惹かれますから。その上でこちらは、じゃこの人にどういう表現をしてもらったらおもしろいかなってイメージしていくので。


――SPICY CHOCOLATEは、複数のアーティスト同士を組み合わせるスタイルも含め、その方の可能性をより広げる楽曲作りを意識されている印象がありますからね。


KATSUYUKI:そうですね。例えばソロとしては表現できなかったことを、あえてSPICY CHOCOLATEではやってもらおうとか、他の方とのコンビネーションによって新たな引き出しを開けてもらおうとか、そういう狙いは常にあります。実際、「自分の活動では歌えないテーマに挑戦できました」とか「1人では絶対このキーで歌うことはなかったと思います」なんて感想をもらうことも多いですね。複数のアーティストに参加してもらうときは、そこで生まれる奇跡のコラボを提示できることが純粋に僕らもうれしいし、そこでの化学反応はきっとお客さんにも喜んでもらえるものだと思うんですよね。


――先ほど出た「ずっと feat. HAN-KUN & TEE」も斬新な組み合わせでしたもんね。


KATSUYUKI:はい。ソロの“男性×男性”で恋愛ソングを歌う曲って、それまでになかったと思うんですよ。そういった新しい挑戦ができるのはSPICY CHOCOLATEならではの醍醐味だと思います。


――次のフィーチャリング候補は常に探している感じですか?


KATSUYUKI:常にアンテナは張っています。ただ、実際にコラボが実現できるかどうかは、タイミングも含めて出会いであり、“縁”だとは思うんです。なので、今までの壮大な出会いの数々に感謝しつつ、ここからも“縁”は大切にしていきたいですよね。


――ちなみに今、コラボを狙っているアーティストはいますか?


KATSUYUKI:これはもうずっと言い続けてることではあるんですけど、松田聖子さんと福山雅治さんのコラボレーションをSPICY CHOCOLATEでやるのが夢なんですよ。無茶なことだとは自覚してますけど(笑)、でも言霊って絶対にあると思うんですよね。だから口にしていかないと実現することはないだろうなって。そう言えば、Beverlyちゃんがどこかのインタビューで「シェネルさんとコラボしてみたい」って言ってたそうなんですよ。それを僕は全然知らなかったんだけど、今回実現したわけですからね。それもやっぱり言葉の力、言霊なのかなって思いますね。


■シェネル&Beverly、2人の歌姫との制作風景


――新曲「最後のPiece feat. シェネル & Beverly」は、まさに奇跡のコラボあってこそ生まれたナンバーだと思います。この2人の声が1曲の中で聴けるなんて贅沢ですよね。


KATSUYUKI:このコラボはきっと誰も予想してなかったと思うんですよね。しかも外国語を母国語としている2人が、日本語の曲でコラボするっていうのもたぶん予想外。これはほんとに初の試みだと思うので、まずはみなさんを驚かせることはできたかなとは思っています。


――楽曲はどんなテーマで作っていったんですか?


KATSUYUKI:今回はEPとして“一期一会”“出会いと別れ”を大きなテーマにしました。その中で「最後のPiece」は“出会い”がテーマになっています。人生の中で出会うことができた大切な人への思いを、“最後のPiece”というフレーズに込めて、大きな意味でのラブソングとして作っていきましたね。トラックに関しては聴きやすさを重視しつつ、ポップになりすぎず、僕ららしい黒さを少し残すようには工夫しました。結果、大きいスピーカーで聴いてもらえれば低音がしっかり鳴っているし、裏打ちのチャカチャカした音でレゲエ要素もちゃんと感じてもらえる仕上がりにはなっています。


――レゲエの要素を盛り込みつつも、J-POP的な聴き心地で楽しめる絶妙な塩梅はSPICY CHOCOLATEの得意とするところではありますよね。


KATSUYUKI:そうですね。曲によりけりですけど、わかる人にはわかるっていうバランスでレゲエの要素を盛り込むことはけっこう多いですね。わからなければわからないでそれは全然いい。誰もが楽しめる曲でありながら、玄人の方もうならすことができればいいかなというスタンスなので。


――歌姫2人とのレコーディングはいかがでしたか?


KATSUYUKI:シェネルとは以前、一度コラボしているんですけど、Beverlyちゃんとは初めてだったので彼女が一番緊張してたんじゃないかな。だから、みんなでその緊張ほぐしながら作業を進めていきました。シェネルがBeverlyちゃんを上手くリードしてくれる感じもありましたしね。まぁでもブースの中に入れば2人とも抜群の歌声を聴かせてくれたので、日本語での歌唱も含めて終始「すげぇな!」って思ってましたよ(笑)。さらに発音が自然に聴こえるようにかなり意識してディレクションしたので、ほんとに違和感のない仕上がりになったと思います。


――歌い上げるわけでなく、柔らかな歌声を響かせている点も大きな聴きどころですよね。


KATSUYUKI:Beverlyちゃんはハイトーンボイスも出せる人だから、どのキーで行くかは悩んだんですけど、結果的に曲の世界観に合わせて優しさを表現できるキーになりましたね。そこで新たな引出しを開けつつ、フェイクやコーラスでは2人の元々の持ち味もしっかり見える。そのあたりも見せ場にはなっていると思います。


――歌い分けはどう決めていったんですか?


KATSUYUKI:パート分けは現場で試行錯誤しながら今の形になりました。すべてのパートを歌ってもらった上で、「ここはシェネルがいいかな」「じゃこっちはBeverlyかな」みたいな感じで何回も聴き比べながら決めていった感じです。それぞれテイクもけっこう重ねてもらいましたし、見えない苦労がたくさん詰まって出来上がった曲ではありますね。みんなの愛と努力の結晶こそが、この曲の“最後のPiece”だったんだと思います。


――EPにはもうひとつの新曲「どんなあなたも…feat. RAY & Leola」も。


KATSUYUKI:RAYとは何度かコラボしてますが、Leolaちゃんは今回初めて。最初にLeolaちゃんにお願いすることを決めたんだけど、もう1人誰をフィーチャリングしようか考えたときに、「最後のPiece」を“女性×女性”にしたから、こっちでは“女性×男性”がいいかなと思ったんですよね。そこでRAYを抜擢しました。


――こちらは“別れ”をテーマにした曲で、恋愛関係を終えた男女それぞれの思いがリアルに描き出されています。


KATSUYUKI:男女ボーカルにしたことでストーリーがより伝わりやすくなりましたね。RAYはレゲエのディージェイで独特な歌い方を持っているんだけど、今回はいつもとはちょっと違った哀愁漂う歌い方をお願いしました。本人的には、確立した自分のスタイルと違った歌い方をすることに若干抵抗があったみたいで。でもそこは「ちょっとここの引き出し開けてみない? 何が入ってるか見てみようよ」みたいな感じで優しくアプローチして納得してもらいました(笑)。結果的に別れた女性に対して未練たらたらな男性の心情を上手く表現してくれたと思います。


――Leolaさんとの作業はいかがでしたか?


KATSUYUKI:歌はものすごく上手だから全然問題なかったですね。ただ、歌詞でけっこう苦労はしていて。言葉選びや情景描写に関しては僕からもいろいろアドバイスさせてもらったので、生みの苦しみを一緒に分かち合いながら作っていった感じでした。


――失恋曲ではありますけど、トラックが明るい雰囲気なのがいいですよね。それによって別れを乗り越えて前へ進む2人の意志が見えている気がして。


KATSUYUKI:まさにその通りですね。悲しいテーマの曲ではあるので、サウンドまで悲しくしちゃうと救いがないというか。なので、できるだけ明るいビートにすることは意識しましたね。恋愛における別れはドロドロしがちだけど(笑)、「こういう別れ方もあるんじゃない?」「こういう別れ方ができたらいいよね」っていうメッセージを感じ取ってもらえたらうれしいですね。


――また、今回のEPには人気曲「ずっとマイラブ feat. HAN-KUN & TEE」と「あなたと明日も feat. ハジ→ & 宇野実彩子(AAA)」のリミックスも収録されていますね。


KATSUYUKI:共に、よりレゲエ調を強く意識したリミックスにしましたね。方向性に関しては迷わず、自分たちの思いのままに作れた感じです。結果、SPICY CHOCOLATEの存在をたくさんの人に知ってもらえるきっかけになった大切な2曲がまた新しく生まれ変わった気がしています。原曲を知っている方はもちろん、このリミックスをきっかけに興味を持ってくれる方々が出てきてくれたらいいなと思います。


■ぬくもりを感じる音楽こそがより求められるようになる


――本作の配信を経て、結成25周年イヤーはどんな動きを見せてくれる予定ですか?


KATSUYUKI:9月21日には今年で11年目を迎える年に一度のフェス『渋谷レゲエ祭~レゲエ歌謡祭2019~』(@新木場STUDIO COAST)があるんですけど、それが無事に終わったら秋か冬くらいにはアルバムが出せたらいいなとは思ってます……って去年くらいからそんなこと言ってるんだけど、実際はまだどうなるかわかんないですね(笑)。


――昨年は新プロジェクトであるSPICY CHOCOLATE & THE MONSTER CREW名義でのミニアルバムリリースなんかもありましたし、一層精力的な活動が続いています。


KATSUYUKI:そうですね。ありがたいことにいろいろやらせてもらってます。だからこそ重みのある1曲1曲を作っていかなきゃなってすごく思うんですよ。人の耳と心にちゃんと響く曲を作っていかないとなって。時代の流れが速い世の中でそういった曲を生み出すにはどうしたらいいんだろうってことを考えていると、どんどん時間が経ってしまうんですよね(笑)。


――あっという間に消費されるインスタントな音楽ではなく、普遍的で人の心にいつまでも残り続ける曲を作るためには現状、何が必要だと思っていますか?


KATSUYUKI:時代の流れが速くなっているからこそ、ぬくもりを感じる音楽こそが必要なんじゃないかな。そういう音楽こそがより求められるようになると思う。だから僕はそこを意識しつつ、様々なものをインプットしながらフレッシュさを保ち、いろんなところへのアンテナも張り巡らし、多くの人の“人生の1曲”に選んでもらえるような曲をひとつでも多く残していきたいと思いますね。そこでヒット曲が出るかどうか、それは最終的に運だったりするとは思うんですけど。


――先ほど、コラボアーティストとの“縁”を大事にしているというお話がありましたが、ヒット曲を生み出す“運”は言い換えると“縁”でもあるのかもしれないですよね。


KATSUYUKI:ほんとにそうだと思います。出会いも結局は“縁”であり“運”でもありますからね。“運”を引っ張り上げられるようにここからも頑張っていきたいです。