「鈴鹿サーキットでお仕事ですか。ああ、GTですか。まだミノルタとかTAKA-Qとか走ってますか」と店主は言った。SUPER GTシリーズ第3戦、鈴鹿ラウンドの取材で四日市に宿泊し、金曜の夜に飛び込んだ店でのことだ。
今回は鈴鹿サーキット近辺のホテルが確保できなかったので四日市に泊まった。富士で御殿場に泊まれないとき沼津に泊まるのと同じ感じだ。道の混み具合にもよるが、クルマで40分ほど。電車とバスを使っても正味は同じくらいか。ただ今回は少しコストがかかるけれども小回りが利くレンタカーでの往復とした。
四日市泊まりで気をつけないといけないのは駐車場の確保である。ホテルの駐車場に入りきれない場合、近隣の有料駐車場へご案内、というシステムだがこの外部駐車場が他の地方に比較して結構高い。
そもそも「最大料金システム」を採用するコインパーキングが少ないうえ、最大料金設定があっても一晩1500円超は当然、1700円、1900円が相場である。ホテル代を抑えても駐車場でこれだけ支出したら元も子もないので気をつけよう。
一方、四日市はとにかく夜の町が充実しているので幸せになれる。これだけの大都市の目抜き通りで、呼び込みのお姉さんに腕を掴まれる経験ができる街は、今や日本全国でも珍しいのではあるまいか。毎回「仕事じゃなければなあ」と思う。いや、呼び込まれる気はないけども。
どの店へ行こうかなあと散歩を始めたのはいいけれど、この週末は四日市全体がなんだかひどく混んでいるようで、思い当たる店は満員だったり予約客で貸し切りだったりして入れない。久しぶりに新規開拓するかなと思っているうち、なぜか焼き肉が食べたい気分になっていることに気づいた。
でもさすがにひとりで焼き肉店に入るのは少々面倒くさいな、と思っていたら、生ビール+焼き肉盛り合わせ2000円、となんだかそそられる張り紙に目が止まった。
焼肉・ホルモン店『AKIRA』。店はガラス張りで店内が外から丸見えだからカウンターで気軽に食べられそうな雰囲気がすぐわかった。しかも席が空いている。こりゃいいなと飛び込んだ。
当初ひとり焼肉に躊躇したのは、おひとり様が寂しいからではなくて、ひとりだとお皿から網に肉を移して焼いてひっくり返して食べる、という過程を全部自分でやらなければならないのが面倒くさいからだ。友人とゆっくり時間をとって食べる焼肉ならいいけども、さっさと食べて呑んで眠りたい仕事先での夕食には向かない。
今回の店は外からうかがうと、どうやら店主が肉を焼いて供してくれそうな様子なのでぼくの気分にちょうど良かった。
カウンターに着いて「盛り合わせと生ビール」と注文すると「焼きます?」と店主。自分で焼く、と言えば炭火コンロを出してくれるようだが、「焼いて」と言えば店主が焼いてくれるというシステムらしい。
2000円の盛り合わせで十分おいしい焼肉が堪能できたが、お酒の方は当然生ビール1杯で足りるわけもなく追加でビールをおかわりし、次に日本酒をお願いした。どうも日本酒にこだわりがあるお店のようで、店内の品書きには見慣れないお酒が並んでいる。オススメをお願いしたところでてきたのが「SENSATION (センセーション)」。日本酒なのに「センセーション」。
聞けば滋賀県の地酒らしい。ぼくの好きな辛口ではなく少々甘口だけどもサワヤカで、なるほど焼肉に合う感じ。なるほどね~、と思っていたら冒頭の会話が始まった。
店主はとても話し好きのようだが押しつけがましくなく適度の距離感を保ってくれるので気持ちが良い。グイグイ攻めてくるタイプの鬱陶しい方も少なくないからね。
で、サーキットに仕事に来ていると言うとすぐ冒頭の話題になるからさすが鈴鹿サーキットのお膝元だなあと感服したが、問題はミノルタとTAKA-Qだ。それを知っているのだから当然店主はレースに詳しいのだが、その興味が最も盛り上がっていたのは80年代から90年代初頭で、それ以降はあまり印象に残っていないということだ。
そこに常連らしいお兄さんがやってきて隣に座った。見ればカミナリモータースのTシャツだ。店主が話を振るとお兄さんも「レース、結構好きでしたよ。マンセルとか」と言う。そうなんだ、やっぱりそういうことなんだ。
四日市近辺ではレースはものすごく身近なもので、それはとても感動的なのだが、結局は80年代から90年代なのだ。結局レースは最も素敵な時代を通り過ぎてしまったのかもしれないなあと気分は複雑になった。
これは我が業界にとってはゆゆしき問題だよなあと、物思いにふけりながらもう1杯だけお酒を呑んだ。四日市AKIRA。お気軽焼肉とフレンドリーな店主をオススメしておく。