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なぜ「分譲マンション」の廃墟化を止められなかったのか…異例の「行政代執行」で解体

2019年06月10日 17:11  弁護士ドットコム

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滋賀県野洲市にある老朽化した空き家の分譲マンションについて、市が行政代執行による解体に踏み切ることを決めた。行政代執行による分譲マンションの解体は、全国的にめずらしいという。


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市によると、問題のマンションは「美和コーポ」(1972年築)。外壁や階段が崩れ落ちて、敷地内は樹木が生い茂り、明らかに不法投棄と思われるゴミもあらわになっているというのだ。また、市が2018年8月に調査したところ、アスベストもみつかっている。



まるで廃墟のような建物となっているが、10数年前から空き家となっていたという。マンションの管理組合がなく、そのまま荒れ放題となっているそうだ。本来ならば、マンションの所有者が解体するのが筋だが、一部の所有者と連絡がつかない状況という。



近くの住民に危険がおよぶ恐れがあるため、市は2018年9月、空き家対策特別法にもとづく「特定空き家」に指定した。市住宅課によると、マンションの解体は今年11月中旬を予定しているが、積立金もなく、すべての費用を回収できる見通しは立っていない。



こうした問題にどう取り組めばよいのだろうか。空き家問題にくわしい中島宏樹弁護士に聞いた。





●どんなに立派な建物でも、いずれは老朽化してゆくさだめ

--どうしてこのような空き家問題が発生しているのでしょうか。



分譲マンションを解体する場合、区分所有法上、原則として所有者全員の同意が必要となります。また、建て替える場合も所有者の5分の4の同意が必要です。



今回のケースでは、10数年前から空き家状態となり、一部所有者と連絡が取れなかったり、一部所有者が実体のない会社だったりなどしたため、所有者の意思を確認することが困難となっていました。その結果、なす術なく、建物が老朽化するのを見ているしかなかった、という経過となります。



--行政代執行はどういうものでしょうか。



義務者が、行政上の義務を履行しない場合に、行政庁がみずから、その行為を代わりにおこなう制度です。その費用は、義務者から徴収します。



今回のケースでは、分譲マンションの所有者が近隣住民に危険がおよぶ恐れがある状態を解消する義務を履行しないことから、行政庁が分譲マンションの所有者に代わり、このマンションを解体して、後日、行政庁がその費用を所有者から徴収することとなります。



ただ、このマンションには管理組合がなく、修繕積立金なども存在していないということですので、その費用の徴収には困難が伴うと思います。



--今後、こうしたケースも増えていくように思います。どういう対応を考えるべきでしょうか。



建築当時はどんなに立派な建物でも、いずれは老朽化してゆくさだめにあります。



分譲マンションについては「いずれ老朽化する」ということを前提に、管理体制を整備して、随時、所有状況を把握できるようにすべきでしょう。そのうえで、購入の時点で解体費用相当額を供託したり、来るべき時に備えて解体費用相当額を積み立てたりするなどの仕組みを確立することが必要と思います。



また、そういった準備ができていないまま、すでに老朽化している分譲マンションの処理に対応できるよう、例外的に建て替えや解体のための要件を緩和する趣旨の内容の法律改正をおこなうといった対応が求められると思います。






【取材協力弁護士】
中島 宏樹(なかじま・ひろき)弁護士
京都弁護士会所属。弁護士法人大江橋法律事務所、法テラス広島法律事務所、弁護士法人京阪藤和法律事務所京都事務所を経て、平成30年7月、中島宏樹法律事務所を開設。京都弁護士会刑事委員会(裁判員部会)、民暴・非弁取締委員会(副委員長)、法教育委員会、消費者問題委員会、弁護士法23条照会委員会、日本弁護士連合会「貧困問題対策本部」。
事務所名:中島宏樹法律事務所