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黒島結菜×菅原小春、『いだてん』の“ヴィーナス”として輝く 現代まで続く自由への叫び

2019年06月10日 12:31  リアルサウンド

リアルサウンド

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 『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(NHK総合)第22回「ヴィーナスの誕生」が6月9日に放送された。東京府立第二高等女学校、通称「竹早」では、女学生たちが四三(中村勘九郎)の熱血指導の下、スポーツに明け暮れていた。第22回では、今後の女子スポーツを牽引する2人の女学生に注目が集まった。


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 第21回で「くそったれ!」と叫びながら槍を投げる姿が印象的だった四三の教え子・富江(黒島結菜)。あの出来事がきっかけとなり、富江はマラソンやテニスといったさまざまなスポーツに勤しむようになる。富江の魅力は、「くそったれ!」と叫びながらスポーツに励む凛々しい姿だけではない。同級生と共に、海外のスポーツ選手のスラッとした容姿に憧れたり、可憐なユニフォームに目を輝かせたりする、年頃の女性らしく可愛らしい姿も魅力のひとつだ。富江を演じる黒島の「目」は、スポーツを楽しむときは凛とし、一方スポーツをしていないときには、15歳らしい好奇心に満ちている。富江の子供っぽいあどけなさと大人顔負けの強さを、黒島は体現しているのだ。


 劇中、富江は自作のユニフォームをつくる。可憐なユニフォームに身を包みながらテニスをする当時の資料映像も流れ、驚いた視聴者も多いのではないだろうか。可愛らしいユニフォームで試合に臨む富江は、全国的なスポーツアイドルとして注目されるようになる。だが、四三に「じゃじゃ馬」と呼ばれる、当時にしては奔放な性格も健在。陸上大会のハードル走に出場した富江は「新しいシューズが足に合わない」という理由で、人前で靴下を脱ぎ、足を晒した。騒ぎ立てる人々の描写で、当時の女性は人前で足をさらけ出すことすら奇異の目で見られていたのだとわかる。だが、本人は「このほうが走りやすい」と清々しい表情を浮かべた。黒島が見せた爽やかな笑顔は、当時の慣習に臆せず、スポーツに熱い想いを注ぐ富江の姿に説得力を与えるものだった。


 「娘が好奇の目にさらされた」と腹を立てた父・村田大作(板尾創路)によって、四三に退職の危機が迫ったとき、富江は率先して反対運動を行った。旗を振り「不当解雇反対!」と声高らかに訴える富江の姿は、光の中で輝きながら堂々としている。絵画では「自由」の象徴としても描かれることの多い「ヴィーナス」。第22回のタイトル「ヴィーナスの誕生」の通り、富江は当時の女性たちの姿や思いを率先して示す「ヴィーナス」となっていた。


 第22回ではもう1人、今後の女子スポーツの物語に欠かせない「ヴィーナス」が登場する。人見絹枝(菅原小春)だ。富江たちがテニスの試合で岡山に遠征したときに出会う。男子たちから「男じゃ」とからかわれながら登場した絹枝は、終始俯いており、どこか自信なさげにも見える。だが試合が始まると、圧倒的な力で富江たちを打ち負かす。その強さは、四三が思わず「とつけむにゃあ(とんでもない)……」と呟いてしまうほど。試合後、シマ(杉咲花)は絹枝に「陸上をやってみませんか」と誘うが、絹枝はボソリと「勝ちてえと思うことがねえんです」と、彼女自身の強さと対照的な発言をした。ダンサーとして活躍する菅原のしなやかな動きと絹枝が抱えるコンプレックスが伝わってくるような自信なさげな台詞回しが、絹枝というキャラクターを印象づける。第22回では「陸上に誘いたい」というシマの思いは届かないのだが、彼女は後に「日本人女性初のオリンピック選手」となる。富江と絹枝、この2人の「ヴィーナス」は、女子スポーツの普及を描く今後の物語の主軸となるだろう。


 『いだてん』が描く時代から100年経った今も、富江と絹枝が押し付けられた「女らしさ」を求める声は変わらずにある。女性にとっても、そして男性にとっても、「らしさ
」を求められる旧態依然とした固定観念から解き放たれるために、富江のように旗を振り、四三のように声を挙げ続けなければいけないだろう。


 また前半の「おりん」話で、志ん生(ビートたけし)の妻・おりん(池波志乃)の馴れ初めが描かれた。真打昇進後もすさんだ生活を送る孝蔵(森山未來)に舞い込んだ見合い話。そこで出会ったのが清水りん(夏帆)だった。池波と夏帆の表情は驚くほどよく似ている。だが、穏やかだがシャンとしている“おりん”とは対照的に、夏帆演じる“りん”はウブな表情を見せ、だらしのない孝蔵にさっそく振り回されている。しかし、これから徐々に孝蔵と“りん”は、志ん生と“おりん”になっていくのだ。本作の主人公だけでなく、語り部が「昭和の大名人」へと変化を遂げていくのを想像するとワクワクする。今後も『いだてん』からますます目が離せない。(片山香帆)