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「おらおら飲めよ」一気飲み、ホスト死亡で労災認定 大量のテキーラは「業務の一環」

2019年06月10日 10:31  弁護士ドットコム

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飲酒を強要されたホストが、急性アルコール中毒で亡くなったのは労災ーー。飲酒をともなうサービス業で働いている人に、救済の道を開く画期的な判決が下された。


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大阪・ミナミのホストクラブで働いていた男性(当時21歳)が急性アルコール中毒により亡くなったのは、一気飲みなど接客中の飲酒の強要が原因だとして、両親が労働災害と認めるよう求めた訴訟の判決で、大阪地裁は5月29日、遺族補償給付などを不支給とした国の処分を取り消した。



「自分で酒を飲んだせい」、「本人が勝手に酔っ払っただけ」。自己責任として片付けられがちだった部分に対して、判決は「飲酒強要を拒絶することは極めて困難な状況にあった」と認めた。



代理人の松丸正弁護士は「お酒をともなうサービス業はたくさんあり、酒を飲むことも一つの業務となっている。飲酒する中で起きる問題に対して、労災の道を開いた」と評価する。



●先輩ホスト「なにチビチビ飲んでんねん」

判決によると、男性は通信制高校に通いながら、2012年4月ごろから、ホストクラブに勤務していた。営業時間は午後9時から午前1時、日の出から午前9時の2部制で、閉店することなくそのまま営業を続ける日もあった。



事故が起こったのは8月1日午前3時ごろ、ヘルプとして席に着いてからのことだった。最初は薄い焼酎を飲んでいたが、先輩ホストが「なにチビチビ飲んでんねん」と濃い焼酎を飲むように強要した。



さらに、グラスを置いたら休憩なしに注がれる形で、テキーラをコップで飲まされた。男性は「もうほんまに無理です」と言ったが、「おらおら飲めよ」と威圧的な感じで飲むことを強要された。



席で嘔吐した後も、「飲んだ分出ていってんねんからまだ入るやろ」などと言われ、飲まざるを得ない状況が続いた。その後、男性は通路に寝転がって倒れ、搬送先の病院で亡くなった。



●判決「飲酒を拒否できない立場にあった」

ボトルの焼酎を消費すれば、新たなボトルの注文につながる。男性は日頃から、知人に「今店でバリ飲まされて 今起きたわ!」「テキーラジョッキで5杯目突入やあ」「昨日ずっと潰れてたわあ」などとメールしていた。



判決は、売り上げを伸ばすために、先輩ホストが、ヘルプであり後輩の男性に飲酒を強要することは「業務の一環ないし業務に直接関連する行為であった」と判断。「事実上飲酒を拒否できない立場にあった」として、ホストの業務に内在する危険が現実化したものだと結論づけた。



両親は「仕事の中で亡くなったということで、本人の名誉が保たれてよかった」と話したそうだ。松丸弁護士は「当然、お酒を大量に飲めば危険が出てきます。業務のなかでの出来事は、救済が認められる。今回の判決が、パワハラがはびこる現場の一助になればいいと思います」と話した。