私が運営している医療コミュニケーション協会では、医療現場の組織開発の支援を致しております。医療系の職場と言えば、看護師をはじめ女性が多いのが特徴なのですが、
「スタッフ同士の仲が悪い」
「いきなり辞めたいと言ってきた」
「燃え尽きてしまうスタッフがいる」
といった、一般の会社にもありがちな問題と、医療現場ならではの問題が複雑に絡み合いながら存在しています。今回はそのような現場を上手に管理運営する看護師長の具体例から、女性部下のマネジメントについて深く考えていきたいと思います。(文:働きがい創造研究所社長 田岡英明)
ポイント(1):相手を理解するための共感力を養う
医療現場でのマネジメントが上手な方は、必ず本音の言える場を定期的に作っています。形態としてはマネージャーと部下の1対1の場であったり、チームでの場であったりします。
1対1の場は、定期的な面談の他に、上司として何か気になることがあるたびタイムリーに設けています。日ごろのスタッフの微妙な変化を見落とさないようにし、微妙な変化を捉えたら放っておかないようにしているのです。
チームでの本音を言い合える場としては、業務の引継ぎ時や終了時に必ず今日1日感じたことを一人ひと言発言する時間を設けたり、お互いの良かった点を褒め合う場を作るということをしたりしています。
このとき重要なのが、上司自らが自己開示するということです。これが本音を言いやすい場を形成していきます。本音を言い合える場は心理的安全の場となり、働くメンバー一人ひとりの居心地の良さや働きがいに繋がっていくのです。
ポイント(2):涙に怯まず、その意味を理解し行動へ移させる
一般の会社でも同様ですが、女性スタッフの中には涙を流す人も多いようです。医療現場の運営管理が上手な看護師長は、この涙の意味をすぐに察知します。多くの場合は、自分の失敗やふがいなさへの悔し涙ですが、医療現場特有のものとしては、患者さんを助けてあげられなかったことへの無力感からくるものもあります。
このような現場スタッフに対し、看護師長は相手の話をよく聞き、相手の言葉を繰り返していきます。涙を流している時、人は自分の考えがまとまっていないものです。そこに、スタッフが言っている言葉を繰り返し投げかけてあげることにより、頭の中を整理してあげるのです。そして、整理されたかなと感じた絶妙なタイミングで、
「これからどのようにしていきたいのか?」
「自分はこういうときこのようにしてきた」
とか、相手の行動を促す言葉を投げていきます。こうした関わり方により、現場スタッフはやる気を取り戻し現場に戻っていきます。
ポイント(3):仕事の意義や働きがいを感じてもらう工夫をする
人は自分のやっていることに意義を感じたい生き物です。そして、その意義を感じることが出来れば働きがいや生きがいを感じることが出来ます。そのために医療現場では必ず、患者さんからの声を共有する時間を持っています。
「○○さんの一言に助けられました。ありがとうございます」
「この医療機関を選んでよかったです」
「母がお世話になりました。私も何かあったら、こちらのお世話になりたいです」
とか、患者さんから頂いた本当の声を共有していきます。感謝の言葉や役にたっていると感じられる言葉が、スタッフのやる気に火をつけていくのです。
今回お伝えした内容を、皆様の職場に当てはめたのならどのような事が出来るでしょうか。
「毎日女性部下に声をかける」
「毎週金曜日の朝に、今週あったいい事や悔しかった事を共有する時間を持つ」
「我々の商品やサービスの最終消費者の声を聞きに行く」
等々、様々なことが考えられるのではないでしょうか。まずは、どこから始めてみますか?
【著者プロフィール】田岡 英明
働きがい創造研究所 取締役社長/Feel Works エグゼクティブコンサルタント
1968年、東京都出身。1992年に山之内製薬(現在のアステラス製薬)入社。全社最年少のリーダーとして年上から女性まで多様な部下のマネジメントに携わる。傾聴面談を主体としたマネジメント手法により、組織の成果拡大を達成する。2014年に株式会社FeelWorks入社し、企業の管理職向けのマネジメント研修や、若手・中堅向けのマインドアップ研修などに携わる。2017年に株式会社働きがい創造研究所を設立し、取締役社長に就任。