NTTインディカー・シリーズの前半戦の折り返しとなる第9戦テキサス。レイホール・レターマン・ラニガンレーシングの佐藤琢磨は、予選でポールポジションを獲得した。
今季2度目のポールポジションスタートだが、前回のポール、第3戦アラバマは見事にポール・トゥ・フィニッシュを飾っており、このテキサスも期待が高まった。
日が傾きテキサスに夕暮れが訪れようとする頃、レースはグリーンフラッグでスタートが切られた。
フロントローイン側の琢磨はアウト側のスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ)に被されてターン1に向かうが、イン側の利を生かしてトップを死守した。
そのままバックストレッチに出ると1周目からジワジワと2番手のディクソンを離し始めたのだ。
琢磨自身が「逃げるレース展開にはならないと思う」と予想していたのだが、それとは裏腹にディクソンとの距離はジワジワと開いていく。
今日の琢磨は速かった。
第3戦アラバマの再現かと思うほどスピードがあり、あのディクソンが追いつけない。周回遅れが出るとその差が縮まったり離れたりしたものの、当面琢磨のポジションを脅かすものはいない……、そんなレース展開だった。
琢磨がピットボックスからコールされピットに向かったのは、60周目のことだった。ピットレーンに入った琢磨は、隣のピットのサンティーノ・フェルッチ(デイル・コイン)をかわしてボックスに入ったかと思いきや、止まりきれずメカニックを弾き飛ばし、前のライアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート)のピットで止まった。
クルマにはダメージがなく、慌ててメカニックがピットにマシンを戻し、タイヤ交換と燃料を給油してコースに戻った。
接触した左フロント担当のメカニックは幸いにも大事には至らなかった。
しかし、このアクシデントで琢磨はピットでストップ&ゴーのペナルティを受けることになり、すぐさまピットに入りペナルティを消化する。
戦列に戻った時にはすでに3周遅れの22番手となり、170周以上の残り周回があったが上位入賞はほぼ絶望的なポジションだった。
それでも諦めないのは、インディ500で学んだ教訓なのだろう。スピードこそあったものの22番手から前を目指した。
今日のレースはなかなかイエローコーションが出ず、リーダーラップに戻ることができなかった。
前を行くザック・ビーチ(アンドレッティ・オートスポート)が単独で壁に当たり最初のイエローコーションとなり、その後もジェイムズ・ヒンチクリフ(アロウ・シュミット・ピーターソン)のストップで2度目のイエローが出ていた。
琢磨のピットボックスはイエローの間にポップオフするなど策を講じたものの、琢磨がリードラップに戻ることなく、248周のレースを終えた。
前を行くライバルのクラッシュなどで22番手まで落ちたポジションを15番手まで戻していたが、万事休すだった。
レースを終えピットでマシンを止めた琢磨は、ピットボックスでアクシデントを起こした自責の念からか、なかなかマシンを降りることができなかった。
「今回はプラクティスから調子が良くポールポジションも取れたし、アビームさんがプライマリーのスポンサーになってくれていたのですが、期待に応えることができませんでした」
「チームはすごくいいクルマを作ってくれたのに残念です。最初のピットは僕のミスです。ピットに入った時ちょうど陽射しが眩しくてピットの場所を見誤ってしまい、ステアリングを切りこむタイミングが遅れてしまいました」
「左フロントのメカニックに当たってしまい、彼にはすまないことをしました。大きな怪我にならなかったのが幸いでした。自分のミスはしっかり反省して次のレースに臨みたいと思います……」
琢磨はポールポジションを取った時と同じ人間とは思えないほど意気消沈。レース中、自分のクルーをアクシデントに巻き込んでしまったのは、長いレース人生の中でも初めてで、そのショックもあっただろう。
レース後謝る琢磨に向かい、クルーが「気にするな、これが俺たちの仕事だ。今日のお前は速かった。また次のレースだ!」と励ましの言葉を投げていた。
テキサスのレースを落とした事実は変わらないが、今回のアクシデントで一段とチームの結束が固まったようにも見えた。雨降って地固まる。次戦ロードアメリカからの琢磨とレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングの奮起に期待するしかない。